赤毛のケリー #5 | すかいうぉーかー

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6月の第1週

晴天に恵まれた“もてぎ”は、路面温度も高く


周回数を20も越えると、新品のピレリはドロドロに溶け崩れた


コブはトリムピンを手でいじくりながら、タイヤの溶け方を睨んだままだ





トウコは、インナー姿のままグッタリとColemanのチェアに体を投げ出し

水を絞ったタオルを顔に乗せ、腫れぼったい瞼の奥で R6の感触を反芻していた










(なんなのアレ)








別世界


筑波1000
桶川
秋が瀬


いずれも、ミニバイク





手足のように乗っていたつもりの600ccは
まるで、違う生き物のようだった







次々に自分を抜き去るマシン達
ぶつかる程 捻り上げても
鈍く感じる加速・もどかしい程に上がらないスピードメーター




あんなにも、加速しないバイクだっただろうか


あんなにも、不安な挙動を示す車体だっただろうか






ついて行こうと

ブレーキで詰めようと



広すぎるコース幅が、スピードの感覚を狂わせ
気が付けば240km/hをメーターが示したまま、ブレーキを握り

宣告のように迫る“馬の背”に心臓が弾け


コースアウトも1度や2度では、済まなかった






要求される速度は“自分がどれだけ渇望するか”



ブレた視界の向こうで、スルスルと離れて行くテールの群れに 刃物を突き立てる為に

まるで命を切り売りして、成り立つ売買のようだ






そして

それをやろうとすると
初めて見える、バイクの性能と限界




ラインが全く分からず

高すぎる速度域に、“通す”位置が掴めず
車体を寝かせただけでも、スピードメーターがドロップする



走りの組み立てが出来ない














「どうだ?」





いつの間にか、寝てしまっていた



「走れなくは無いけど、それが良いのか悪いのか分からないわ」







既に、5本走っている


体中が熱っぽく

集中力が掠れ始めている







「よし、今日はあがろう」


















2月初旬



ストップウォッチを見た瞬間に、コブは口笛を吹いた


フルエキに、サスとブレーキ

パワーは上げていないが、走れる車体に少しずつ以降しながら




筑波

1分3秒




トウコの積み上げを練って行く








S字の切り返しから、1ヘア



ダンロップからシケイン



2ヘアへの飛び込み方




迷いや淀みが、目に見えて無くなって来ていた

車両と速度域の基準に、感覚が順応して来ているのだ




コブは、この1年

一度も同じコースにトウコを連れて行って無かった



















(捻れた車体の使い方)









ただ、それだけを



(続