トレック制空隊は行く! ある日の詳細なバトルレポート。 | 自転車で糖尿病を克服した!

トレック制空隊は行く! ある日の詳細なバトルレポート。

自らの感覚を最大限に研ぎすます。

あとほんの少しの距離でメインストリームへと合流する。メインストリーム、そこは寝ぼけた操縦をして生き延びられるほどの生ぬるい世界ではない。

常に五感を総動員して我が身、そして同胞たちの安全を図らなければならない。それこそが私の今まさに集中すべきこと。

おっと、五感と言っても私の言う五感と通常の五感は若干違う。

視覚…これはもちろんこの状況ではもっとも重要なもの。これを最大限に活用することで身の安全を図り、かつ積極的な行動に出ることができる。

聴覚…これも視覚に負けず劣らず重要だ。視覚は目を向けた方角の情報しか得ることができないが、聴覚はその点全方位型だ。はるか後方での良からぬ動きさえ感知することができる。言ってみれば神が与えてくれたレーダーとも言える感覚器官だ。

嗅覚…あまり役には立たないと思われがちな嗅覚も、ときには重要な何かを示唆することがある。たとえばオイルの匂い。たとえば排気ガスの匂い。これも自らの安全のためには無視できない情報となる。

触覚…この感覚の重要性は案外忘れられがちだ。だが、実のところ、この感覚こそが自らと機体とをつなぐ重要な情報伝達経路となる。シャープかつライブな触覚なしで、思うがままの操縦などできるはずがない。ある意味、最も基本となる感覚がコレだ。

そして最後のひとつ、一般にはそれは味覚と言われている。だがこの感覚だけはここでは全くの役立たずだ。同じ銘柄のワインの年代の違いさえ感知する微妙な味覚や、フレンチには付き物の何種類もの材料が混ざったソースを味わうための微細な能力も、ここで自分の身を守るためには何の意味も持ちはしない。だから私はこの能力はここでは封印してしまう。

その味覚の代わりとして私が必要とする第五の感覚…それは予知能力だ…いわゆる第六感というやつ。

いまだに20世紀型の社会に生きている人はあまり信じないかもしれないが、この6つ目の感覚(ここでは5番目だが)、かなりの頻度で大活躍をする。

本当に集中してメインストリームに身を置くとき、不思議なことに次の流れが手に取るようにわかるときがある。どんなに急な変化が起きたとしても私はそれに驚くことはない。なぜならそれはすでにそうなる…と知っていたことだからだ。

実際問題、私はこの感覚に何度も助けられている。今日の私の“第五感”の働きぶりはどうだろうか?

いよいよメインストリームへと入って行く。

今日の私の任務は制空権を確保しながら、はるか1千300万ミリメートル彼方の友軍基地へと到達することにある。

自らの制空権を脅かすものは、当然排除の対象となる。そこで容赦をする気など毛頭ない。連邦の重要任務を預かるものとしてそこは譲れない一線となる。

内心、余計な邪魔者と出会わないことを密かに祈りながら、出力を27万ミリワット(以下mW)に上げる。まだまだ最高出力までには余裕はあるが、ここでは若干出力を上げないとメインストリームへと合流することはできない。そう、最初の難関がここだ。

私が乗るのは「トマトレック・エンタープライズ1200」と呼ばれる単座仕様の機体。

若干重量があるので、俊敏性という点では世界最高峰レベルとは決して言えないが、その頑丈さや素直な操縦性、そして悪天候を厭わない汎用性という意味ではこの種の機体として確かに群を抜いている。

究極の性能を試される上昇旋回での戦闘では大した期待はできないが、メインストリームでの混乱の中での制空権争いという点ではこれほど頼れる相棒もいない。

以前に私の愛機であった、フラットウィング装備の「ジャイアントH-R3」通称「巨大脱出号」よりも見かけがより戦闘的になっただけでなく、ドロップウィングによる空力の向上や、エンジンの搭載角度等の違いで、同じ出力のエンジンであるにも関わらず、約15パーセントほど最高速度が向上している。

連邦のテストでは水平飛行で1,200km/d(※単位に関しては連邦基準のため、巻末に注釈を設ける)を超える高速を発揮することが可能という。短時間の巡航であれば、1,000km/dの壁を超えることもそれほど大変ではなく、制空権を脅かすライバル国家たちの戦闘用機体を蹴散らすことはそれほど難儀ではない。もっともそれは相手がそれほどの手練ではなかった場合…の話だが。

「トマトレック・エンタープライズ1200」はまさに快調だ。メインストリームの大気の中を720km/dを超える速度で楽に巡航する。前述した私の五感センサーはいまのところ何の異常も伝えてきてはいない。

エンジンの回転数も5,000回転をちょっと超えたあたり(単位は連邦基準でrphという表記をする)。まだまだ楽な飛行だ。

メインストリームを行く他の民間の飛行物体たちもいまのところ何の不安要素も見せてはいない。大きいものから小さいものまで、いつものように種々雑多だが、彼らの安全を確保することこそ私の役目。いつ何が起きてもいいように、私は細心の注意でメインストリームを北東の方向へと飛行する。

怠惰の心は常に何かしらの混乱を呼び寄せるもの。

このまま残り1千200万ミリメートルの距離を平和にやり過ごしたい…と思ったまさにその瞬間(とき)、私のセンサーNo.5が反応した。

数秒先の未来の危険を伝える赤いアラートシグナルランプがGSOMのディスプレイ上で点滅する。(GSOM 、そうあのご機嫌…というやつだ。私はその進化バージョンを使っているのだ。)

約2秒半ほど遅れて、センサーNo.1とNo.2がほぼ同時に反応する。

11時の方向。未確認機体がフラフラと我が領空を侵犯しているのを発見。進行方向は私の機体と同一だ。
“歩道領域”と一般には呼ばれる予備空域からメインストリームへと未確認機は今まさに出ようとしている!

私という存在が目に入っているのかいないのか…。そのまま私の前方に割り込もうとしていることは明白だ。

未確認機体の速度は遅い。せいぜい400km/d程度の速度しか出ていない。それはそれでいい。

もちろん彼が領空を侵犯していることも問題だが、このままでは、未確認機体は我が「トマトレック・エンタープライズ1200」未確認機体と交錯してしまう。場合によっては双方自爆墜落ということになる可能性すらあるではないか!

未確認機体にどれほどの戦闘意欲があるのかは全く不明だが、最悪の場合、スーアサイドアタック(=自爆攻撃)を企んでいる可能性すらある。

常に最悪を想定して任務を全うすることこそ、連邦の制空部隊のメンバーの努め。私はその未確認機体が最悪の意図を持っているものとして対応することとした。

そう、つまりアラートレベルBの行動だ。

軽い威嚇ののちになお攻撃的な行動を見せるのであれば躊躇せずに撃墜する。これがオペレーションマニュアルに記されたその実行手順。私は一時的にエンジンのバックアップパワーを貯めながら、出力を落とし、制動装置に指をかけ、その敵性未確認機体へと最大限の注意を向ける。

敵性と思われる未確認機体は、私が何の対処もしていなかったら確実にドンピシャのタイミングで衝突するような絶妙のタイミングで私のすぐ目の前へと躍り出る!

やはり私のセンサーNo.5は正しかったのだ。辛くも最大の危機は今この瞬間に避けることができたことになる。

安堵と高性能センサーへの感謝の気持ちを表す時間的余裕など、このメインストリームでのめまぐるしい展開の中ではあるはずもない。

私は音波による軽い警告を敵性未確認機体へと照射する。

ある意味予想通り、彼からの反応はない。

となれば私の次の行動は全くのマニュアル通りとなる。一瞬後には私はひとつ仕事をやり終え、次の任務を求めてメインストリームを高速移動していくことになる。

私はアフターバーナーに点火し、エンジンの回転数を6,000rphへと上げ、右手をレバーへと掛ける。

その次の展開はもはやここで書く必要もないだろう…。もちろんそのことに対しての感慨などあるはずもない。

→スコア1記録。(中略)

++++++++++++++++++++++++++++

ちょっとの間、平穏な飛行が続く。ここから先は若干の上昇機動を行わなければならない。

「トマトレック・エンタープライズ1200」は決して超軽量の部類に入る機体ではない。エンジンも含めた重量となるとおそらく9万グラムをいくらか超えているだろう。

他国の高性能な機体の中には、エンジンを含めて7万グラム以下というような軽量なものまで存在する状況では、この9万グラムという重量は決して誉められたものではない。

特に長時間の上昇機動を行うときには、この重量は確実にハンデとなるはずだ。私もそのことは重々承知している。

だが、「トマトレック・エンタープライズ1200」のエンジンはその重量の分、瞬間最大出力も大きめなので、短時間であれば、そこそこ良いスピードでの上昇機動を行うことには支障はない。

これから行う上昇機動も、時間的には短時間のもの。

私はエンジンの出力を40万mWを超えるハイパワー領域へと上げ、速度を落とさず一気に上昇機動へと移る。

速度計は760km/dを表示している。そのままの速度で約30秒間ほど上昇機動を続けるのだ。

苦しい機動ではあるが、これこそがこの機体を操る喜びでもある。

私は快調に高度を上げる。

だが、私はこの上昇機動がいつものようにはスムーズに行かないことに気付いてしまう。

センサーNo.1が、先ほどとは別種の未確認機体を前方に発見したのだ。今回はどういうわけかセンサーNo.5が反応しなかった。一瞬判断が遅れて後手に回ってしまう可能性のある展開だ。

その未確認機体には見覚えがある。確かに何度か見かけたことのある機体…。つい先日も撃墜し損ねて逃した敵性の機体であるに違いない!

私は間違いがないよう慎重にもう一度よく未確認機体を後方から観察する。

間違いない。アイツだ!

「タイプ・デローザ」と呼ばれる敵性の機体だ。軽量かつ高速。逃げ足は速い。おそらくは偵察任務での単機行動だろうが、我が連邦としても油断はできない。ただちに制圧する必要がある。

私はアラートレベルAの行動へと即座に移る。つまりは警告なしでの制圧行動だ。

その次の展開はもはやここで書く必要もないだろう…。もちろんそのことに対しての感慨などあるはずもない。

→スコア2記録。(中略)

+++++++++++++++++++++++++++++

だが、やはりと言うべきか、そこからの展開は先ほどとは違っていた。

つまりは撃墜し損ねた…と言ってもいいだろう。スコア2は取り消しだ。

私の後方に「タイプ・デローザ」がピタリと追従して来る。先ほどよりも明らかに出力を上げて追撃体制に入っているようだ。まずいことに“後ろを取られた”格好になってしまった。このままではこちらが撃墜されてしまう可能性がある。

私は当然のこと、アフターバーナーに点火、ひとまず逃げることでこの場の危機をしのぐことにした。

回転数を上げる。風切り音が無視できないほどに大きくなる。

幸いなことにもうここからは上昇機動を行う必要はない。ゆるい降下機動を用いて最大出力で逃げに集中することができる。

軽量な「タイプ・デローザ」は急降下速度では劣るはず。私は逃げ切れる確信を持って最大パワーゾーンへと機体をシフトする。

速度は軽く1,100km/dを超える。速度系の針はさらに1,200km/dを超えようとする勢いだ。

どうだ!

そのまま最大パワーを発揮し続ける。

十数秒は経過したろうか。私は後ろを振り返り「タイプ・デローザ」との距離を確かめる。

やった!

「タイプ・デローザ」との距離は確実に開いている。

これなら逃げ切れること確実だ!

その次の展開はもはやここで書く必要もないだろう…。もちろんそのことに対しての感慨などあるはずもない。

→スコア2記録。そう、もう一度(中略)

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うかつだった。

ちょっとした油断で前方の民間大型輸送機に私はブロックされ、スローダウンする。

メインストリームもこのあたりになると民間の様々な機体が多く、集中力のちょっとした切れ目で簡単に想定速度よりも落ちてしまう。

今、まさにそのスキを突かれたかたちとなった。

さきほど撃墜したはずのあの「タイプ・デローザ」が私の右横を通り抜ける。またもや私のセンサーNo.5は反応しなかった。

あっと思い、威嚇ビームの発射レバーに指をかける。

だがそれは不要な動作だった。

「タイプ・デローザ」はそのまま700km/d程度の速度を一切緩めることをせず、およそ600ミリ程度しかないと思われる2機の民間輸送機の間スレスレを飛び抜けて行ったのだ。

ある意味とても勇気が必要な果敢な逃げの行動だ。そしてそれは優秀なテクニックを持つパイロットならではの高難易度の機動であることも間違いない。

ただ、私はその勇気を勇気とは呼ばない。蛮勇と呼ぶ。そしてその高難易度の行動はテクニックの無駄遣いとも言う。それは連邦の常識だ。

彼と同じ方法で追撃するという選択肢は技術的には確かに可能だったが、誇り高き連邦の製空部隊の隊員としては命を粗末にすることなどできるはずもない。

その次の展開はもはやここで書く必要もないだろう…。もちろんそのことに対しての感慨などあるはずもない。

→スコア1削除。(中略)

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友軍基地はでの距離はもうほんの僅か。まもなく馴染みのある風景(=飛行場)が視界に入ってくるはずだ。


今日も激しい戦闘が展開された。毎朝の制空戦闘をこうして毎日続けて来たが、今日もなんとか無事任務を終えることができる。


スコアは若干物足りないが、そんなことに文句を言うよりは、まずは、はるか1千300万ミリメートル先の基地へと無事に到達できたことを神に感謝しよう。


着陸用のギアを出す。


歩道領域に設けられた滑走路は非常に短く、かつ障害物も多いので最後まで気を抜けない。


私は細心の注意を払いながら、着陸に成功し、我が愛機「トマトレック・エンタープライズ1200」を歩道領域脇の露天式ハンガーへと格納する。


おっと、そろそろ別のモードに自分をシフトしないと…。


私は自分の中での感覚に若干の違和感を感じながら。ヘルメットを脱ぎ、額の汗をぬぐう。


もう11月とは言え、東京の初冬は運動すると結構汗をかく。リュックを背負った背中はやはりじっとりとしている。


リュックから2本のキーロックを取り出し、厳重に「トマトレック・エンタープライズ1200」を金属製のパイプへと縛り付ける。


あと数分ほどで、時刻は午前9時になる。まさにオンタイムでの出勤だ。


もうそろそろ「連邦の精鋭制空部隊」の妄想などやめて、リアルワールドの仕事…そう本当の自分の仕事に集中しなければならない。


あ~あ、朝のサイクリングがもう終わってしまった。今日も一日は長いなぁ…。

その次の展開はもはやここで書く必要もないだろう…。もちろんそのことに対しての感慨などあるはずもない。

→通勤日1を記録。(完)

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★用語解説


今回使用した単位は連邦の標準的計測単位です。つまりこういうことです。


速度の単位

時速ではなく日速で表す。表記はkm/d。1日あたり何キロ進めるかで速度を表す。

時速30km/hは日速で表すと、720km/dとなる。時速50km/hは日速なら1,200km/d。

(おぉ、1日だと結構進むものなのね!)


回転数の単位

ケイデンスを指す。通常のケイデンスはrpm、つまり1分あたりの回転数を言うが、連邦では1時間あたりの回転数を使う。表記はrph。

つまり通常のケイデンス100は、1時間あたりに換算すると6,000rphとなる。

出力の単位

通常の出力の単位はワットだが、連邦ではmW、つまりミリワットという単位を使う。

たとえば300Wの出力はミリワットで表現すると30万ミリワットとなる。

(単位が大きいとパワフルそうだゾ!)


距離の単位

通常、距離というとキロメートルが一般的だが、連邦の場合はあくまですべてミリメートルで表現する。

たとえば、10kmはミリメートルだと1千万ミリメートルとなる。

(東京の人口って多い!)

この超長い妄想短編小説(?)に付き合ってくれて、どうもありがとうございました!

次回は、試乗記だろうか…、それとも…。

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