そのクロスバイク、食いついたら離さないゾ!【驚きのマイヨジョーヌ作戦】 | 自転車で糖尿病を克服した!

そのクロスバイク、食いついたら離さないゾ!【驚きのマイヨジョーヌ作戦】


Giant Escape R3激走!

とある住宅地内をマッハ1.3で疾走するジャイアント・エスケープR3、いや「ジャイアントホープ」。

音速を超えるときの衝撃波はさすがに凄まじく、しっかりとハンドルにつかまっていないと振り落とされそうになる。(あるか、そんなこと!)

この「ジャイアントホープ」はその誕生以来、まさに八面六臂の働きを見せた。今後もさらに改造したくなってきた……。(「改造したい症候群」という新しい病もあるようだ。感染者も相当多いと聞く。ご注意を。)


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【前回からの続き】


B夫の予測は完全に当たった。


つい数秒前まで鬣(たてがみ)をひらひらさせながら、誇らしげにダンシングしていた「トレックディスカバリ」は急減速を余儀なくされた。後をちょっとペースダウンしながら追っていたB夫の駆る「ジャイアントホープ」は余裕を持って減速し、そして「トレックディスカバリ」の後方5メートルほどに位置することができた。最後の数百メートルは足をまったく使わずに敵に追いつけたことになる。


そう、国道246号と環七の交差点の混乱が、自転車2台、いや駿馬2頭の行く手を塞ぐ格好になったのだ。有頂天になった「トレックディスカバリ」は必要以上に足を使うという痛恨のミスを犯した。しかも後方5メートルにまでクロス種に迫られた。人間あまりいい気になるとろくなことがない…という非常にわかりやすい例だ。


やがてまわりの交通が動き出し、「トレックディスカバリ」と「ジャイアントホープ」はゆっくりと環七との交差点を通り過ぎる。2頭の距離はそれほどない。交差点直後は路面が荒れていることもあり、徐々に速度を上げていく。


まだまだ勝負がどちらにころぶか全く予断を許さない状況で、いよいよ第三ラウンドが開始されたのだ。


この上馬の交差点から桜新町までの約1.5kmはほぼフラットな道が続く。微妙な上りも微妙な下りもない。つまり重量のハンデをそれほど考えずに勝負に集中できる、B夫には理想的なコース設定だ。


この区間でのパフォーマンスに備え、B夫はさっきの微妙な上りであえて足を使うのをやめたのだ。このあたりの交通の状況を考えれば、あの場所で必死に走ることは全く意味のないこと。おそらく労せずして追いつくだろう…そう考えたB夫の“地元民”としての勘がズバリ当たったことになる


B夫の作戦はそれだけではなかった。もうひとつこの勝負を決定的に左右することになるはずの秘策を練っていたのだ。


マイヨジョーヌ作戦


B夫は先ほどの上りでの苦戦の最中、あるひとつの光景を思い出していた。そう昨年の夏にJ-Sportsで放送していたアレだ。「ツール・ド・フランス」だ。B夫はこの厳しいプロツアーでの王者(=マイヨ・ジョーヌ)の走りを思い浮かべていたのだ。


マイヨジョーヌ、つまり総合首位を意味する黄色いジャージを着た選手は、後半の勝負どころになったときには、自らが飛び出し、逃げを決めようとすることは決してしない。そう、絶対に無理はしないのだ


マークすべきは逃げる可能性のある総合上位のライバル選手。本来は一級の力を秘めているはずの“黄色いジャージ”はあくまで2位、もしくは3位などの“危険”な選手をひたすらマークするのみで、自分が先頭に出ることはない。自チームのアシスト、もしくはライバルの後ろに隠れながら、あくまで体力を温存し、ライバルが逃げを試みたときにのみ足を使い絶対に逃がさない。そうすることで、自分の総合首位のタイム差をキープすることができるし、焦ったライバルに余計に足を使わせることになる。それがケーブルテレビで見た[王者の走り]だったのだ。


そう、この尊大な「トレックディスカバリ」があくまで逃げを決めたがるアタッカーだとしたなら、B夫は本当に最後に笑うための[王者の走り]をすればいい…。


「何がロードだ、何がサラブレッドだ。この道を知り尽くし、何度も往復し、糖尿病という難敵を攻略したのは何を隠そうこのオレだ!あとはただ王者として、マイヨジョーヌの走りをするのみ!」


そう「ジャイアントホープ」に小声だがハッキリと語りかけると、B夫は小さく鞭を入れた。「ジャイアントホープ」は軽く嘶くと、5メートル先を行く「トレックディスカバリ」に食らいつく。


距離が詰まる。


3メートル、2メートル、そして2頭の距離はほんの1メートル以下になった。


ドラッグストア…いや間違った、ドラッグ効果…つまりスリップストリーム効果で後ろの「ジャイアントホープ」の方がはるかに楽に走れる展開だ。先ほど足を使ってしまった「トレックディスカバリ」は思ったようにスピードが出ないのだろう…、サラブレッドとしての走りを見せたくとも、いくらもがいても、またいくらダンシングで上体を振っても、すぐ後ろの「ジャイアントホープ」を引き離せない。ピタリと食らいついてくる。


こうなると、ちょっとがんばれば「ジャイアントホープ」は先頭に出られそうだが、B夫はあえてそれをしない。


「まだだ、まだだ…もうちょっと待て」


B夫は前へ出たくてしょうがない「ジャイアントホープ」をかろうじてなだめ、その位置をキープさせる。


そう、勝利のために徹底して戦略家となったB夫の作戦はこうだった。この区間はずっと“付き位置”で走る。自分からは決して動かない。そして自らが動くとき…それは相手の体力が尽き、もうその速度を維持できなくなったときだ


今まさにB夫はそれを実行に移している。この作戦はまんまと図に当たったようだ。


苦しみながら走る「トレックディスカバリ」は、速度を上げようとすればするほど、敵をちぎろうとすればするほど、術中にはまっていくのだ。体力はどんどん消耗し、やがて自らの意思で先頭を明け渡すことになる…。


そして、遂に「トレックディスカバリ」に異変が起きた。


明らかに速度が落ちる。


上半身の特徴的な揺れがより一層顕著になる。


一呼吸のあと、B夫は待ってましたとばかりに「ジャイアントホープ」に鞭を入れた!


「行け!」


この数分間、「ジャイアントホープ」は一切の無理をしていない。スリップストリームで坦々と足を回していただけだ。まだまだ余力は残している。“にわか”ではあったが、さすがは“マイヨジョーヌ”。クロス種としての誇りとプライドを賭けて、今全力で先頭に出た!


あっという間に距離が開く。


先ほどの得意げな走りが嘘のように、「トレックディスカバリ」はもはやどうすることもできない!


「これで勝ったゾ!」


B夫は右拳を突き上げた!


「ジャイアントホープ」は超能力者にしか聞こえない嘶きで喜びを表現する


さらに距離が開き、もはやこの勝負はここで決着…と思われた。


そう、誰が見てもこの勝負はここで終わりのはずだった。


だが、そうシンプルには事は運ばなかった。


「ツール・ド・フランスで7年も連続してマイヨジョーヌを獲得したのは『トレック』だったのをお忘れか?」


まるで、そんなメッセージを告げるような目線で、軽量級の騎手は離れていく「ジャイアントホープ」とB夫を見つめながら必死にリカバリーを計っていた。


まだ呼吸も荒いし、足も望むほどには回らない…。だがリベンジへの気持ちだけは先ほどの数倍に膨れあがっていた。彼は必死に気合いを入れ直し、すでに再追撃へと気持ちを切り替えていたのである。


B夫と「ジャイアントホープ」は、もう勝負は着いたと感じていた。だがそれは痛恨の判断ミスだったのだ…。


【次回へ続く】


えっ、まだ続くの?次は完結するかなぁ~どうかなぁ~


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