なんとなくな日々
川上 弘美
春の宵には、誰もいない台所で冷蔵庫の小さな鳴き声に耳を澄まし、
あたたかな冬の日には、暮れに買い置いた蜜柑の「ゆるみ」に気づく。
読書、おしゃべり、たまの遠出。
日々流れゆく出来事の断片に、
思わぬふくよかさを探りあてるやわらかいことばの連なりに、
読む歓びが満ちあふれます。
ゆるやかにめぐる四季のなか、
じんわりしみるおかしみとゆたかに広がる思いを綴る傑作エッセイ集。
自分はなんでもないようなふりして、すごいからずるい。
そこが素敵な人だ。
エッセイを読んでいる気が全くしない。
これが人生だったら……
まさに、
『物語のように生きたいな』
とろとろとした時間が過ぎる。
私はこの星の上で小さく刹那的に生きているし、
月や太陽やたくさんの星々は、
あの宇宙空間で大きく規則正しく営々と存在しているわけだ。
最初のやりかた、というものに、あんがい固執するほうだ。
あんがい、と書いたのは、
自分で自分のことを固執しない人間だと思いたがっているからである。
——中略ーー
それではほんとうに私が固執しない質かというと、
さて、どうだろうか。