本日は『急性脊髄障害(Acute myelopathy)』のお話です。

https://www.orpha.net/data/patho/Pro/en/AcuteTransverseMyelitis-FRenPro16890v01.pdf


以前に『しびれのアプローチ』については以前に記事にしましたね
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11008729951.html


診察の結果から『脊髄に障害がありそうだ』と疑った際の次のステップについて本日はお話していきます。


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まずは急性脊髄障害の『鑑別疾患』についてです。


脊髄圧迫病変硬膜外血腫や膿瘍、ヘルニアなど)


脱髄疾患(MSや視神経脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、ワクチン接種後、特発性横断性脊髄炎など)


感染症(HSV-2、水痘帯状疱疹ウイルス、CMV、HHV-6.7、EBV、インフルエンザA、コクサッキー、エコーウイルス、細菌の血行性播種、マイコプラズマ、梅毒、結核、アクチノミセス、アスペルギルスなど)


炎症性疾患(SLE、Sjogren syndrome、MCTD、Systemic sclerosis、Neurosarcoidosis、Behcet's diseaseなど)


血管性
腫瘍性、腫瘍随伴性


他に『慢性脊髄障害』としてVitB12欠乏による後索障害やHIV、HTLV-1脊髄症などがあります。


急性横断性脊髄炎(Acute transverse myelitis)』というのも聞いたことがありますね。


これは横断性の脊髄障害を起こす病態を総称したものであり、その主な原因には上記に挙げた鑑別と同様に脱髄疾患や感染症、炎症性の脊髄障害などがあります。


この辺りの用語をごちゃごちゃにすると分かりずらいです。


最初のステップは症状や身体所見から脊髄障害と判断し『どの経路が障害されていて脊髄のどこに病変があるのか』を推定することです。



救急医の挑戦 in 宮崎
(経路についての例:後索路と外側脊髄視床路)


温痛覚→外側脊髄視床路

深部感覚→後索路


触覚は物が触れられたことを感じる粗い触覚と触れられた部位や性状まで感じる精密な触覚に分類することができます。


粗大な触覚→温痛覚と似た経路を通るが、脊髄内ではより前方の前索を上行する

精密な触覚→深部感覚と同じく後索を通る



救急医の挑戦 in 宮崎

(脊髄のどこに病変があるのか)


横断性(完全)障害、前方障害、後方障害、中心性障害、半側障害といったように大きく分類すると分かりやすいです。


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急性脊髄障害の次のアプローチはMRIで圧迫病変を除外するとともに脊髄に信号の変化がないか確認することです


圧迫病変を認めない場合の次のステップは残った②-⑤の鑑別疾患を考慮し『髄液検査』を施行します。


血管性や多くの腫瘍性の脊髄障害はCSFが通常は正常です。一方で脱髄疾患や感染症、炎症性疾患のCSFは炎症性となることで鑑別をつけていきます。



救急医の挑戦 in 宮崎


髄液検査をする前それが本当に脊髄障害なのか再検討することも大切なことです。


末梢神経障害としてGuillain-Barreなどの可能性はないか? MGなどの神経筋接合部疾患はどうか? 周期性麻痺のような筋疾患は? 慢性脊髄障害の急性のプレゼンテーションの可能性がないか?→HTLV-1脊髄症、B12欠乏症、ALSなどの検討が必要です。



救急医の挑戦 in 宮崎



ここからは脱髄疾患である多発性硬化症(MS)についてのお話です。


多発性硬化症は20-40代の発症が半数以上を占め、男女比は1:1.7と女性多くみられます。


ミエリンの構成成分を自己抗原と認識する自己免疫疾患として認識されていますが、明らかな原因は不明です。中枢神経の脱髄疾患ですが、病変は小さく(2椎体以下)、末梢に存在することが多いので非対照性の症状と所見と呈することが典型的です。


脊髄障害では後索と側索が障害されることが多く、Brown-Sequardやその不完全型になることが多いです。初発症状としては日本人では脊髄障害よりも球後視神経炎による視力障害が最も多く認めます


病歴として『時間的、空間的に多発する』ことを確認することは大切です。寛解再発を繰り返し、数日から1、2週で増悪して数ヶ月後には改善します。


脊髄だけでなく視神経、脳幹、小脳、大脳半球を侵しますが、視神経と脊髄に目立つタイプを視神経脊髄型といいます。


Lhermitte徴候は有名ですね。頸椎の後索障害で起こり、頚部前屈時に背中を電撃的な感覚が瞬間的に下肢に下降します。稀に同部位を犯す他疾患でも認めることがあります。


MSの診断に対するMRIの特異度は低いですが、感度は90%以上あると言われています。プラークがT2W1で highとして描出されます。髄液検査では蛋白は軽度増加に留まり、約2/3では正常です。電気泳動時の異常バンドであるオリゴクローナルバンドの出現(感度90%以上とする報告あり)やIgG(感度60%以上とする報告あり)が上昇しますが、どれもMSに特異的な所見ではないので、診断は他疾患を除外する必要があります。



救急医の挑戦 in 宮崎


最後に『横断性脊髄炎』の症例を紹介(日経メディカルオンライン、日常診療のピットフォールより)

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/doctors/info/mag/nm/pitfall/201102/518406.html