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2012-06-03 20:12:19

肝性脳症と蛋白制限

テーマ:消化器疾患

本日は『肝性脳症:hepatic encephalopathy』についてお話してみようと思います。

そもそも肝性脳症とはどういったものでしょうか?


『肝臓が悪くて、それによって神経、精神的な症状を呈する場合で他の病因によって説明されない時』というように幅広く定義されています。つまり除外診断であるといえます。


現在までに肝性脳症の原因として様々な説が考えられています。


アンモニア、メルカプトン、フェノールなどの『神経毒』が関与している説や血液脳関門(BBB)の透過性が亢進している説、神経伝達物質や受容体の変化による説などですが、正確な説は不明です。


最も知られている『アンモニア』に関してまずはみていきましょう。


アンモニアは体内では蛋白質の代謝の結果出てきます。アンモニア濃度が血液中で上がると 肝性脳症が起きるといわれています。(アンモニアは容易にBBBを通過します)


アンモニアの発生源の大部分は腸管です。大腸に達した蛋白質から大腸内細菌のウレアーゼという酵素によってアンモニアができます。このため、アンモニア濃度は食事蛋白量により大きく影響されます。また、腸管で生じるアンモニアは血液(門脈)中に吸収されます。このアンモニアを多く含んだ門脈の血液は本来肝臓を通り、肝臓でアンモニアは無毒化されます。


しかし、肝硬変ではこの血液の大部分は、本来通過するべき肝臓を通らずに、門脈-大循環系短絡を介して体全体へ流れ込みます。このため、門脈へ吸収されたアンモニアは無毒化されないまま体全体に広がり血液中のアンモニア濃度が上昇します。


肝性脳症例では血液、髄液や脳の アンモニア濃度は高くなっています。


アンモニア濃度と肝性脳症の程度とは必ずしも相関しない場合もありますが、頻回にアンモニア濃度を測定することにより密接な関係が明らかとなっています。診断には必ずしも必要ではありませんが、肝性脳症を呈する患者さんの90%以上でアンモニアは上昇しています。



続いて、神経伝達物質の変化によるもの『アミノ酸バランス』を見ていきましょう。


蛋白質は腸で吸収されたアミノ酸を原料にして肝臓で生成されます。正常人では、血漿中の各アミノ酸の比率がほぼ一定となっていますが、肝硬変ではアミノ酸代謝が正常に行われずこのアミノ酸バランスが崩れています。Fischerらが肝性脳症の患者に分岐鎖アミノ酸:BCAA (http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?BCAA )を多く含むアミノ酸製剤を投与して覚醒作用を報告して以来、肝硬変患者の血漿アミノ酸濃度が注目されるようになりました。


肝硬変患者は肝臓でのアミノ酸代謝が減少し相対的に骨格筋でのアミノ酸代謝が亢進するため、Ile,Leu,ValなどBCAAが減少します。逆に骨格筋では代謝されないPhe,Tyrなどの芳香族アミノ酸:AAAが過剰になります。その結果BCAA(Ile,+Leu+Val)/AAA(Phe+Tyr)のモル比(=Fischer比)が低下します。


一方、AAAが血液脳関門(BBB)を通過して脳内に移行する時、BCAAが競合的に拮抗することが知られています。BCAAとAAAは同じキャリアを使用してBBBを通過します。つまり肝硬変で血漿中のBCAA濃度が減少するほどAAAは脳内に移行しやすくなります。したがって肝硬変患者では血漿中のBCAA濃度の減少に伴い脳内のAAA濃度が増加します。


脳内のAAA濃度の増加はNE(ノルエピネフリン)、DA(ドーパミン)、5HT(セロトニン)などに神経伝達物質、オクトパミン、5-ヒドロキシルインドール酢酸などの『偽性神経伝達物質』の生成を亢進します。これらの精神神経症状、睡眠などに関与する脳内アミンの代謝異常が肝性脳症の一因と考えられています。


・・・


ここまで『肝性脳症』の主な2つの説についてみていきました。


さて、次に治療に関してですが、特に肝性脳症の『栄養学的な管理』についてみていきましょう。


これまでアンモニアの生成を抑制するという観点で歴史的に蛋白制限がなされてきました。しかしながら小規模studyですが、肝性脳症の患者さん20人を蛋白制限したグループとそうでないグループに分けて比較した試験が行われ蛋白制限したグループの方がむしろ蛋白分解が進んだために両者に大きな違いは生じなかったというdataがでています。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15246205
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21447768


そのため、通常肝硬変や末期肝不全の患者さんは低栄養状態であり、蛋白制限はむしろ低栄養を助長させ、内因性の蛋白分解を引き起こしたり、感染を助長したりする恐れもあり勧められないという考え方もあります。



次にBCAA投与の有用性に関してのstudyですが、肝不全患者に対しての長期のBCAA投与は肝不全の進行を遅らせたり、入院率を低下させるといった効果があると言われていますが、肝性脳症を発症した患者に対してBCAAを投与しても肝性脳症を改善させるという明らかな証拠はないようです。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12806613
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12804416


また、LOTUS試験と名付けられた日本の大規模臨床試験の結果では、BCAA製剤を服用してもらった人と、服用しなかった人で、その後の非代償性肝硬変の症状の発現を比較してみたところ、服用した人では統計上大きな差を持って症状が少ないことがわかりました。特にアルブミンの低い人では、その差が大きく開きました。すなわち、肝機能が悪くてアルブミンが低い人ほどBCAA服用の効果が現れたということです。
http://www.ajiaminoscience.com/~/media/Files/Articles/Branch_Chain_Amino_Acids_Reduce_Liver_Cancer.ashx


またこのstudy中ではBCAAがBMI25以上をこえる肥満患者におけるliver cancerを減少させたことも示しています。


抗生剤の有用性に関してのstudyです。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20518580



・・・


本日は以上です。



2012-05-29 23:00:42

急性膵炎と重症度判定基準

テーマ:消化器疾患

以前にも急性膵炎について記事にしましたがhttp://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11113849449.html

先日も重症急性膵炎の患者さんを熊本までヘリ搬送する症例があったので本日はガイドラインを復習してみようと思います。


急性膵炎の予後は重症度を反映する2つの指標、『臓器不全』と『膵壊死』により決定されます。日本では厚生労働省研究班が重症度判定基準(2008)を定めており、9つの予後因子に造影CTによる造影CT gradeを加えた2つの指標を柱としています。


この重症度判定基準では9つの予後因子のみでCTを撮影しなくとも重症度を判定できる特徴があり、さらに造影CTによるCT gradeでも重症とされるものは、より致命率が高いことが判明してます。



救急医の挑戦 in 宮崎


CT gradeの参考画像です

http://minds.jcqhc.or.jp/n/medical_user_main.php


重症度判定基準としては①予後因子が3点以上または、②造影CT grade2以上の場合を重症とします。


2003年全国調査で予後因子9項目中5項目以上測定された1337例での全体の死亡率は2.9%、軽症例での死亡率は0.83%、重症例での死亡率は19.5%でした。


下表は2003年の全国調査における改定重症度判定基準における重症スコアと致命率を示します



救急医の挑戦 in 宮崎


3点で11%、5点で25%、6点を超えると致命率50%を超えています。


また、改定基準の妥当性に関してプロスペクティブな検証が行われ156例全体の死亡率は2.6%でスコア2点以下には死亡例はなく、3点以上の死亡率は19.1%でありました。造影CT grade別の死亡率はgrade1が0%、grade2が14.3%、grade3が15.4%でした


下表は改定重症度判定基準における重症度予後因子スコアと造影CT grade別にみた症例数と致命率の検証です。



救急医の挑戦 in 宮崎


他の重症度評価としてRansonスコアやAPACHEⅡスコアなどもありますが、この厚生労働省の重症度判定基準(2008)はだいぶ普及してきていると思われます。各施設毎に臨床的検討はされているようであり小規模studyは散見します。今後大規模studyが実施されてこの重症度判定基準の再評価、より正確なスコアリングシステムの構築など期待されています。


しかしながら大事なことは初診時のスコアリングで予後因子2点以下でもモニタリングを慎重に行い経過観察が必要なことです。


・・・


同期で船医をしたものがいますhttp://book.akahoshitakuya.com/b/4897068444


当時彼はまだ3年目の駆け出しで船医になり、知識も臨床経験も乏しい中で、また、簡易血液検査くらいしかできない過酷な環境でこの『急性膵炎』の診断をし、ヘリ搬送につなげました。


どんな状況であったのかあまり想像したくないですね(笑)。きっとお腹を一晩中痛がっていますが、補液と鎮痛薬と『励まし』のみで対応するしかありません。そしてPerforationやAAA rupture(切迫破裂)、disectionなど様々な緊急疾患に思いを巡らせ、ヘリ搬送するという判断を下さなければなりませんね(勿論、病歴や血液検査から容易に推定できたのかもしれませんが)。


普段からCTに頼っているとこんな時に無力になってしまいます。鑑別疾患を挙げるだけでなく、各疾患がそれぞれどのような症状、所見、経過を呈するのか、感度や特異度を考慮してProbabilityを高めていく訓練が必要です。


本日は以上です。
















2012-05-26 06:00:48

膿胸とドレナージ

テーマ:呼吸器疾患

子供が寝ているうちに少しだけ『膿胸』のお話をします。


肺炎随伴性胸水を診療する機会は多々あると思いますが、こうしたParapneumonic effusionは次の3つの分類することができます。


Uncomplicated parapneumonic effusion

Complicated parapneumonic effusion

empyema(膿胸)


上2つは病理学的な概念が違うのであって、それを臨床的に厳密に分けることは困難であることはしばしばです。それぞれみていきましょう。


Uncomplicatedは胸膜をこえて炎症が波及した状態です。肺間質の浸出液と好中球が胸腔内に漏れ出てきます。


Complicatedになると菌も胸腔内に出現した状態です。


Empyemaはcomplicatedよりもさらに進んだ状態で、グラム染色で菌を確認できるもしくは、肉眼的に膿を確認できるという事を定義としており、培養陽性となることを必要としていません。それは嫌気性菌の場合は培養に生えずらいことや、すでにほとんどの症例で抗菌薬が開始されているため陰性となることがほとんどだからです。


uncomplicatedなのかcomplicatedなのかの判断は胸水の性状をみることによっておおまかに鑑別することができます。(グラム染色で菌がいれば、それは膿胸であり、complicatedです。


つまり、胸腔内に菌が存在するようになると好中球も当然増えてきます。そうした好中球が崩壊することによって胸水中のLDHは増加します。また、菌や好中球が嫌気的に糖を利用することにより乳酸や炭酸ガスが発生しアシドーシスになります。つまり胸水中の糖の低下pHが低下します。


(pHの異常は糖やLDHの異常より正確とされています。もしpHが得られない時は糖やLDHを用います。残念ながらpH、糖、LDHの3者すべてを用いることにより、より正確な診断が可能になる根拠はないと言われてます。)


こうしたpH、LDH、糖を調べて臨床的にuncomplicatedとcomplicatedを鑑別します。(どこにカットオフポイントを設けるかは成書によって様々です)


ACCP(American College of Chest Physicians)ではpH<7.2をドレナージの基準としています。


細菌でなくとも悪性腫瘍や結核、リウマチやSLEによる胸膜炎でも糖低下、pH低下することは忘れないでください。


・・・


では、何が問題になってくるかというと、『ドレナージが必要になるかという事です。膿胸の場合にはドレナージが必要だと言う事は明白です。uncomplicatedではドレナージが必要ないだろうというのも分かりますね。complicatedになると抗菌薬のみで改善できるのかどうかの判断は難しく議論の多いところです


complicatedの中でドレナージが必要なものと、そうでないものを厳密に線引きすることは困難です。


また、先ほど説明したとおりに胸水の性状だけではuncomplicatedなのかcomplicatedなのか厳密には判断できません(おおまかに鑑別できるのみです)。性状はuncomplicatedを示唆しているけれどドレナージをした方がよい症例もあります。(本当にuncomplicatedの場合もあれば、complicatedだけれども性状ではuncomplicatedのように判断されてしまう場合の2通りありますが主に後者の方です)


例えば画像で胸水量がとても多い場合や臨床的には抗菌薬治療に反応しない症例などです。


ドレナージが必要な症例に対して処置が遅れることで予後に影響を及ぼすリスクを常に考慮しながら判断することが大切です。


胸水の性状だけでドレナージの適応を判断する訳ではないことを覚えておくといいでしょう。


・・・


本日は以上です。



















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