『しびれ』を主訴に外来受診されるケースも多いと思います。どのように系統立てて考えていけばよいのでしょうか?このことについて本日はお話してみようと思います。
神経解剖を思い描いてください。障害部位の臨床的分類として
①脳障害
②脊髄
③神経根障害
④末梢神経
大きくこの4つに分類することができます。
①脳障害(brain problem)としては障害側と反対側の感覚および運動障害を認めます。脳血管障害や腫瘍、感染症が原因となっておこることが多いです。
延髄外側症候群やそのサブタイプ、cheiro-oral syndromeなどがどのような分布を示すのかを確認しておくことも大切です(今回は省略します)
②脊髄障害(myelopathy)では、一般的には障害側から末梢のレベル(デルマトームの多分節に及ぶ)で対称性に運動障害と感覚障害を認めます。(例:横断性脊髄障害)
『横断性脊髄炎』の原因としては①~⑤のように分類できます
①原因不明:脊髄に対する免疫反応が異常に活性化されたため
②感染症:単純ヘルペス、帯状疱疹、サイトメガロ、EB、HTLV-1、インフルエンザ、マイコプラズマ、結核
③ワクチン接種後
④自己免疫疾患:SLE、シェーグレン、サルコイドーシス
⑤脱髄疾患:多発性硬化症や急性散在性脳脊髄炎
前脊髄動脈症候群などの血行障害、硬膜外腫瘍、脊髄腫瘍、ヘルニアなどの圧迫病変は横断性脊髄障害を示す。⇒MRIが有用
他にはGuillain-Barre症候群が鑑別に挙がります。
脊髄障害は腱反射の亢進とBabinski反射陽性となります。自立神経障害(膀胱直腸障害)を認めることもあります。ただし、脊髄障害の仕方によりしびれの範囲は変わります。脊髄横断障害や中心性頚髄損傷、半側性脊髄障害、脊髄空洞症などでは感覚障害の分布は異なります。(解剖生理に基づいて考えられるようにしてください)
片麻痺を主訴に来院して『脳梗塞』と誤診されてしまう『硬膜外血腫』なんてのもあります。通常は神経根圧迫症状がメインとなりますが、血腫による圧迫で錐体路が障害されるとこのように片麻痺を呈することもあります。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11199448253.html
下肢から上行する感覚障害を認めた場合には脊髄が外側から圧迫されるような病態(硬膜外膿瘍、血腫、ヘルニア、腫瘍など)や急性多発根炎としてしられるギランバレー症候群などが鑑別に挙げることができます。
③神経根障害(radiculopathy)ではしびれの領域はデルマトームの一分節となります。多発神経炎では例えば下腿部の両面といったようにデルマトームが一分節以上に及ぶことで鑑別ができます。
神経根が圧迫されるとradicular painと呼ばれる疼痛を感じることがあります。
④末梢神経障害(neuropathy):末梢神経は軸索とミエリン鞘からなります。このどちらが障害されても生じます。
単神経炎、多発単神経炎、多発神経炎に分けることができます。
単神経炎(mononeuropathy)は単一の神経または神経幹によるもので、外傷、局所の炎症、血行障害、絞扼性障害があります。
絞扼性障害:手根管症候群、尺骨管症候群、胸郭出口症候群など
胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome)http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html
頸が長くなで肩の女性に多い。腕神経叢と鎖骨下動静脈が①前斜角筋と中斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、③小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方を走行し、それぞれの部位で圧迫されることにより症状が出現します。
つり革につかまる時の腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。腕神経叢(C5-T1)の中でも下部の頸神経(C8,T1)が圧迫されやすいため前腕尺側と小指に沿ってのしびれを訴えることが多いです。90%以上でこうした神経症状を訴える。残りの10%が鎖骨下動脈や静脈圧迫による血行障害(レイノー現象、冷感、腫脹、脱力感など)
Morley test:鎖骨上窩で腕神経叢を指で圧迫すると圧痛、前胸部への放散痛
Wright test: 両肩関節を外転90°、外旋90°、肘90°屈曲位で橈骨動脈の脈拍減弱。
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多発神経炎(polyneuropathy)は対称性に末梢神経が侵され、手袋靴下型の分布をとり、運動障害よりも感覚障害がメインで上行性に侵される特徴をもちます。
どちらも両下肢のしびれで発症することの多いですが、myelopathyとの鑑別は深部腱反射が低下あるいは消失することや、感覚障害の分布がstocking and glove型となる事から可能です。
(多発性単神経炎(multiple mononeuropahty)の鑑別疾患)
血管炎、サルコイドーシス、糖尿病、アミロイドーシス、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)、本態性クリオグロブリン血症、HIV
→説明のつかない末梢神経障害、特に多発性単神経炎の患者を診た場合には血管炎を疑ってください。
末梢神経障害(多発神経炎)の原因は『DANG THERAPIST』と覚えるとよいでしょう。
末梢神経の栄養⇒ビタミン類
末梢循環不全⇒DM、血管炎
末梢神経障害⇒アルコ-ル、アミロイド、中毒
末梢神経脱髄⇒ギランバレ-、CIDP
D:Diabetes
A: Amyloid,Alcohol
N: Nutritional(B12, B1 def, B6 excess)
G: Guillain-Barrea,(CIDP)
T: Toxic(matals(arsenic), alcohol, chemotheraphy)
H: Hereditary
E: Endocrine
R: Recurrent
A: Autoimmune(lupus, polyarteritis)
P: Porphyria
I: Idiopathic/Infectious(CMV,HIV,Lyme)
S: Sarcoid
T: Tumor(paraneoplastic=due to toxin or antibody made by tumor)
血管炎の鑑別には大動脈炎症候群のような太い血管の炎症でも手のだるさやしびれを訴えてくることがあります(下肢閉塞性動脈硬化症にみられる間欠性跛行と同様です)
InfectionではCMVやHIVでも起こるのですね。
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ちなみに過換気症候群でも四肢のしびれはでますが、厳密にはテタニーと表現されます。
不随意の筋肉の収縮であって、痛みを伴うこともあります。有痛性の筋強直と表現できます。手が助産婦手位のように特徴的になりますね(ちなみに助産婦手位というのは助産婦さんが赤ちゃんを取り上げるときの手の形らしいです)。
低Ca血症に特異的ではなく、低Mg血症やアルカローシスでも起こると言われています。
疑わしい場合はChevostek徴候やTrousseau徴候をみて潜在性の神経/筋の興奮性を確かめてもいいです。
少し横道に逸れてしまいました。
糖尿病性多発神経炎は感覚障害が左右対称性に遠位部(足し、足底部)にあり、年余にわたって緩徐に上行するが足関節を超えない、感覚障害が先行し運動障害は前面にでないなどの特徴があります。
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『radiculopathy』と『neuropathy』の鑑別はどのようにつけたらいいでしょうか?
http://www.auroramed.com/dotAsset/412305.pdf
①感覚障害や運動障害の分布が異なる (例:C8だと薬指全体、尺骨神経障害では薬指の尺側の感覚障害)
②radicular painがneuropathyでは認めない
③絞扼性neuropathyではTinel signなどを認めることあり
筋皮神経:C5,6,7
腋カ神経:C5,6
橈骨神経:C5,6,7,8,T1
正中神経:C5,6,7,8
尺骨神経:C8,T1
(これらの神経は頸神経が重複してできている)
誘発テストにはJackson, Spurling testがあります。
『しびれのアプローチ症例編』はこちら
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11073398224.html