本日は帰宅間際になってCPA症例の救急搬送がありました。その症例のお話は次回させて頂くとして、今回は『ショックの鑑別』についてです。



実のところ私は『語呂合わせ』があまり好きではないのです。病態生理を理解すれば語呂でなくとも覚えていられるからなのですが、時間をかけて解答できたとしても救急の現場では対応できません。


そんな時のために『意識障害』のAIUEOTIPSや次に説明する『shock』などは覚えて置くと役に立つかもしれません。


『shock』の鑑別


S: Septic/Spinal   敗血症、TSS/脊髄性(神経原性)、迷走神経反射

H:hypovolemic   低循環性(脱水、出血)

O:Obstructive   閉塞性(緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓)

C:Cardiogenic   心原性(心筋虚血や心筋障害、リズムの異常)

K:Anaphylactic(K) アナフィラキシー性


その他難治性の場合は副腎不全、甲状腺機能低下症薬剤などが隠れていないか/合併していないか考慮します。


TSS/STSSの病態は高サイトカイン血症によるショックですので、Sepsisのところに入れています。TSS/STSSの記事はこちらです

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10958888732.html



もちろん病態生理から


I.血液分布異常性ショック( distributive shock )

感染性、毒素性(TSS/STSS)
アナフィラキシー
神経原性


Ⅱ.循環血液減少性ショック( hypovolemic shock )

出血性
体液喪失


Ⅲ.心原性ショック( cardiogenic shock )

心筋性,機械性,不整脈


Ⅳ.閉塞性ショック(obstructive shock)
心タンポナーデ,肺塞栓症,緊張性気胸



このように覚えてしまってもかまいません。

それぞれの疾患でどのような理学所見を呈するのか確認しておいてください。


ショックになると『血圧が測定できない』こともあります。そんな時でも頸動脈、大腿動脈が触知できれば収縮期血圧はそれぞれ>60mmHg>80mmHgと推定できると言われていますが、evidenceはないようです。


循環が悪くなるのでパルオキシメーターも当てにはなりませんね。 


何よりも大事なことは『ショック』と認識することです。血圧を目で確認してからショックだ!と認識することになれているとこの判断が遅れることがあります。


また例え90mmHg以上あったとしても普段の血圧から30-40mmHg以上下がっていたらショックと考えて良いでしょう


敗血症(特にshockやsevere sepsis)による循環不全に対しては最初の6時間が大事になりますよね(これはまた別の機会にします)


ショックと敗血症に関する別の記事です

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10946172237.html



鑑別疾患を一つずつつぶしていけばいいのですが、最初のアプローチはbradynon-bradycardiaなのかを鑑別です(勿論末梢が暖かいか冷たいか、頸静脈が怒張しているかなどの身体所見も大事です。特にバイタルはショックの鑑別に有用で脈圧や心拍数、呼吸数は多くの情報を提供してくれます。また、徐脈ショックの時には特別な鑑別疾患を思い浮かべる必要があります)。


脈圧は一回拍出量をおよそ反映しています。


小脈圧とは収縮期血圧の25%以下の脈圧になることです。


大脈圧とは収縮期血圧の50%以上の脈圧になることです。


ショックの鑑別という点では以下のように考えていきます。

脈圧低下→左室駆出量低下(心原性ショックや心タンポ、著名な出血等によるpre-load↓)

脈圧増加→septic、アナフィラキシーshockなど


呼吸数増加→肺塞栓? 敗血症?


などなど。


ショックの病態以外で脈圧低下は大動脈弁狭窄症、脈圧増加はカテコールアミンがリリースされる病態(発熱、呼吸不全、循環不全、運動、不安、低血糖、甲状腺機能亢進症など)、貧血、大動脈弁閉鎖不全症などがあります




『徐脈の鑑別(『徐脈+低血圧』)の鑑別』


①徐脈性不整脈

②偶発性低体温

③脊髄性ショック

④副腎不全

⑤高K血症

⑥甲状腺機能低下症

⑦血管迷走神経反射

⑧薬剤性(βblocker,Ca拮抗薬、ジゴキシンなど)


VF AED ONという覚え方もあります。


V:Vasovagal reflex

F:Freezing

A:AMI(右室梗塞、下壁梗塞),Adamstokes,Acidosis

E:Endocrine, Electrolyte

D:Drug

O:Oxygen

N:Neurogenic


普通は血圧が低下すると心拍数は上昇しますね。


そうならずに徐脈を呈している時には変だなと感じて、上記に挙げたような鑑別を思い出してください。


徐脈まで至らずともあまり頻脈になっていない場合もあります。


これは『paradoxical bradycardia』や『relative bradycardia』と言ったりします。


http://www.signavitae.com/articles/original-articles/4-initial-bradycardia-in-hypotensive-hemorrhagic-patients-in-a-prehospital-setting-does-it-have-a-prognostic-value


昔はこうした徐脈になるのは死亡してしまう一歩手前の状態だ!なんて教わったりしていましたが、実は意外と調べてみるとこうしたrelative bradycardiaは比較的多いのです。


高齢者だからtachyらないのかな?neurogenic responseの結果かな?なんていろいろ言われていますが、出血性ショックの患者にこうした病態がみられたら、重症度や生命予後はtachycardiaのグループよりもいいのです。


出血量に依存しているのかよくわかりません。


・・・


少し話しが逸れてしまいましたが、徐脈性不整脈、なかでもSick sinus syndromeで血圧が下がることは稀です。ベースに甲状腺機能低下や心機能低下がないと通常は起こりません(SSSは予後良好な疾患なのです)


AMIではRCAの閉塞に伴い、房室結節枝の虚血で完全房室ブロック(AVblockは前壁梗塞でも起こしますが下壁梗塞に多い)を、また下壁梗塞の合併に伴いBezold-Jarisch反射(ベツォルドヤーリッシュ反射:、迷走神経求心路を介する反射。下壁には副交感神経が豊富に分布しているため下壁心筋梗塞にともなうことが多い)が発生するためにショックと徐脈が起こりうる。



救急医の挑戦 in 宮崎

次にbradycardiaでない場合はエコーによる次のpump-tank-pipeが重要です。


勿論bradyであってもなくとも施行します。迷走神経反射が重なっていたり、ショックの病態が2つ重なることもあります死亡率の高いショックは迅速に正確に病態を把握することが肝要のためです。


まずはeffusionの有無を確認しタンポナーデがないかどうか。次に左室の動きやvolumeを評価して心原性ショックの原因はないか確認します。最後に左室と右室の大きさを比べてみます。右室が左室に比べて大きくなっている場合は肺塞栓右室梗塞などを示唆しますpump)


次にCVPの評価にエコーでIVCを見たり、内頚静脈が拡張していないか、平坦なのかを確認します。またついでに肝癌や子宮外妊娠のruptureがないか、腹水がないか、血胸や気胸がないか確認します(tank)


最後に大動脈瘤の破裂がないかなど、肺塞栓を疑う時にはDVTをチェックします(pipe)。


消化管だけが出血源ではありません



検索エンジンに『the RUSH exam』と入力するとPDFfileを手に入れることができますよ。


Rapid Ultrasound in SHock の略です


youtubeの動画です

http://www.youtube.com/watch?v=GSpzhkPo9Gc&feature=related



IVCの正常値はいろいろな意見がありますが、覚えやすいように記憶しています


虚脱:10mm以下

正常:15mm 呼吸性変動あり

拡張:20mm以上、呼吸性変動なし


ASE(米国心エコー図学会)のガイドラインによれば、計測する時の患者の体位は「左側臥位」で下大静脈長軸像を観察し、測定部位は「中肝静脈と下大静脈の合流部に直近の足側」で測定するようです。


救急医の挑戦 in 宮崎


JVPの評価についてはこちらの記事を

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11354446041.html



そうすることで次のように大きく分類することができます


CVP↓:hypovolemic or distributive shock

CVP↑:cardiogenic or obstructive shock



本日は以上です。


もっと勉強したい方には