昨日、『出血性十二指腸潰瘍』で入院となった90歳の患者さんのお話です。止血後は落ち着いていたのすが、夜間に血圧が下がり心停止を起こしてコールされました。


病院につくと看護師さんから『元に戻りました』と言われ、病室にいくと呼吸が荒く、四肢も温かく、体温も39℃まで上昇していました。


septic shock』も併発したようですね。穿孔?ではなく、痰のゴロツキから誤嚥を疑い、敗血症に対してearly goal-directed theraphy(EGDT)を開始。


翌朝には解熱し呼吸状態も落ち着きましたが、しばらく山が続きそうです。


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さて、『sepsis』ですが、これは感染症が原因でSIRSの基準を満たすものを臨床的には『sepsis』と考えて対応します。


SIRSの基準はVital signsのうち、血圧を除いたものにWBC数を加えた4項目のうちに2項目以上をSIRSと診断します。


①脈拍>100回/分

②呼吸数>20回/分 またはPaCO2<32Torr または 人工呼吸

③体温>38℃ または<36

④WBC>12000/μl または<4000/μl または band>10%


原因が感染によるものであれば臨床的に『sepsis』と考えます。


『sepsis』の中でも臓器障害がでているもの(低酸素、乏尿、代謝性アシドーシス、意識障害、血小板減少など)は『severe sepsis』といいます。血ガスで乳酸が4mmol/l以上ある場合も組織の還流障害を示す所見です。また500~1000mlの輸液に反応しない場合や収縮期血圧が90mmHg以下、いつもの血圧より30~40mmHg以上の血圧低下を認めた場合を『septic shock』といいます。


では『shock』とはなんでしょうか?正確な定義があるのか分かりませんが、需要と供給のバランスが破綻して、主に循環不全により酸素供給ができなくなった結果として臓器や細胞レベルで機能障害が出現することを表しますね。


ショックの徴候としては古典的に5P(Pallor,Prostration,Perspiration,Pulselessness,Pulmonary insufficiency)が今日においてもよく使われています。


しかしながら、敗血症ショックの初期においては末梢血管が拡張し、全身性の炎症に伴い酸素需要が増加するため心ポンプ機能が増し心拍出量が増加する。いわゆる『hyperdynamic state』を呈しwarm shockであることから5Pに当てはまらないため注意が必要です。



日本救急医学会が提唱する『ショックの診断基準』は下記のようになります。


1. 血圧低下(必須)
・収縮期血圧90mmHg以下
・平時の収縮期血圧が150mmHg以上の場合:平時より60mmHg以上の血圧低下
・平時の収縮期血圧が110mmHg以下の場合:平時より20mmHg以上の血圧低下


2. 小項目(3項目以上を満足)
心拍数100回/分以上
・微弱な脈拍
・爪先の毛細血管のrefilling遅延(圧迫解除で2秒以上)
意識障害(JCS2以上またはGCS10点以下、または不穏、興奮状態)
乏尿、無尿(0.5mL/kg/時以下)
皮膚蒼白と冷汗または39℃以上の発熱(感染性ショックの場合)


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もともと血圧が高い人は90mmHgを切らないこともあります。救急医学会の提唱するものとは異なりますが、普段の血圧よりも30-40mmHg以上低下する場合はショックと判断することも大切です。それから頻脈や意識障害、乏尿、皮膚蒼白や冷汗なども大切な所見になります。


早期に出現する徴候として脳血流低下による徴候を見逃さないようにしましょう。


あんまり、細かく覚える必要はありませんが、血圧の絶対値だけに囚われないことが大切です。



早期に『sepsis』を認識して、severe sepsis or septic shock or それらに以降する可能性が高い場合には前述した『early goal-directed theraphy(EGDT)』を行うことが大事になります。なぜならば、severe sepsis、septic shockの死亡率はそれぞれ25-30%、40-70%と高いためです。


EGDTと従来の治療群では致死率が30.5%と46.5%とかなり違うのです。


敗血症性ショックの初期は一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の過剰産生により体血管抵抗が低下するために心後負荷が軽減し高心拍出状態(脈圧上昇)となります。このような体血管抵抗の減じたwarm shockでは相対的な循環血液量の低下に対して十分な輸液を行ない組織末梢の酸素運搬を改善することが必要で、それがEGDTの戦略となっています。


一方で敗血症の進行により血管内皮細胞障害が具現化し始めると血管拡張性が損なわれ末梢循環の乏しいcold shockへ移行します(一般的には6-72時間後)。体血管抵抗の増加により心後負荷が増大し心収縮性の低下が表面化し輸液に反応しない低心拍出状態となってしまいます。


この段階に入ると、肺水腫や肝腎機能不全、ARDS、DICなど多臓器不全を引き起こし死亡率が高くなります。


そのためにも最初の6時間が大事なのです。EGDTについては長くなりそうなのでまた機会を改めてお話しますね。


他にも重要なポイントはいくつもありますが、抗菌薬の投与をできるだけ1時間以内に開始することも進められています。投与が1時間遅れるごとに死亡率が7%も上昇するというデータもあります。



本日のもう一つの話題は『プロカルシトニン』についてです。あまり検査したことがなかったのですが、最近頻繁にDrが『プロカルシトニンはどうだ?』と話されているのを聞いていました。敗血症の診断に有用という報告も多いです。私もいくつか文献を読ませて頂いたのですが、(http://blogs.yahoo.co.jp/m03a076d135/12237528.html ) ここのブログに丁寧に解説してありますので参考にしてください。


そこからpick upしたものですが、


【細菌感染と非感染性疾患の鑑別】


 プロカルシトニン:感度88%、特異度81%
 CRP:感度67%、特異度67%


【細菌感染とウイルス感染】


 プロカルシトニン:感度92%、特異度73%
 CRP:感度86%、特異度70%



というデータがあるようです。確かにstudyによって結果はばらばらでカットオフポイントをどこに設けるかにもよるのですが、CRPよりも参考になり経過のfollowにも使えるようです。使い方次第では有用と思います。


新しい『プロカルシトニンの有用性』についての記事です。

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11311388011.html