「コピー用紙の裏は使うべからず」──経費節約の新常識 | OVERNIGHT SUCCESS

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■優秀な社員ほどコピーに手をつける

 最近は、大手企業からのコスト削減のコンサルティング依頼が増えています。こうした企業は必ずといっていいほど、若手の優秀な社員を集めて社長の特命チームをつくります。彼らが最初に手をつけるのが「コピー用紙」です。裏紙にもコピーするようにしたり、できるだけ小さい紙にコピーするようにしたりという取り組みを始めます。
 もちろん、コピー用紙の削減は環境のためにいいことです。しかし、本当にコスト削減につながっているのでしょうか?

 そもそもコピー用紙は1枚数10銭程度。コピー機のカウンター料金のほうが格段に高いため、紙の使用量が減ってもコピー機の使用が減らないと効果がないのです。
 成果の出ないことに手間をかけても意味はありません。それどころか、裏紙を使うことで安心し、本来もっと効果が大きいはずの分野に目がいかないことが大半です。

 コスト削減には、ほかにもさまざまな誤解があります。天井の蛍光灯がところどころ「間引き」されているオフィスをよく見かけますが、多くの機種では間引いたところにも電気が流れるため、大きな電気代の削減にはなりません。
 事務用品のカタログ一括注文も、単価が安いうえ、すぐにオフィスまで配達してくれるので、一見コスト削減につながりそうです。落とし穴は、一定金額以上発注しないと送料がかかること。不要なものまで注文し、オフィス用品の在庫を過剰に抱えることになりがちです。

 このように、目についたところに飛びつきがちですが、それでは効果は上がりません。正しい手順を踏むことが肝要です。
 まずはコストの全体像を把握することから始めましょう。決算書では、多くの重要な経費項目が「水道光熱費」や「一般管理費」としてまとめられてしまっています。手間はかかりますが、電気代や通信費など詳細な項目ごとに、最低でも過去1年間の使用量と金額のデータを集めます。
 次に、それぞれのコストを三つに分類します。一つ目は電気代やガス代、上下水道代などの「エネルギーコスト」です。「販管費」に隠れて見逃されがちですが、金額はかなり大きなものです。次が、通信費やコピー代、家賃などの「オフィスコスト」。三つ目が人件費や物流費などの「オペレーションコスト」です。

 コストを3分類したら、単位ごとの費用(「原単位」という)を算出して、優先順位を決めます。たとえば「顧客一人あたりの水道光熱費」「売り1上げに占める、店舗ごとの電気代の割合の年間推移」などです。工場や営業所、部門別に単位ごとの費用を算出し、業界標準や社内の平均と比較します。平均値からかけ離れているものを見つけ、優先的に着手しましょう。
 これは「原単位管理」と呼ばれる方法で、工場などでは「製品一つの製造原価のうち、投下された電気代はいくらか」などのコスト管理に使われています。こういった手法を、製造現場だけでなく会社全体に広げるのです。

 ここまできて初めて、実際のコスト削減に着手します。手法には大きく分けて3種類あり、費用対効果の高さから次の順序で取り組みます。
 最初は、おおもとの契約を見直す「調達改善」です。効果が大きく、かつすぐに出るのにこれを怠っている企業が目立ちます。単価を引き下げる交渉をしたり、相見積もりを取って品質と金額を競ってもらいましょう。
 次が、無駄を見つけて使用量を最適化する「運用改善」。会議で使う資料の枚数を制限してコピー代を削減したり、人がいない部屋の電気をこまめに消して電気料金を節約したりします。
 最後に取り組むべきなのが、設備を新たに投入することによってコストを削減する「設備改善」です。省エネシステムやIP電話の導入などがありますが、短期間で投資が回収できるかがポイントです。

 経費の中でも電気料金を中心としたエネルギーコストの削減は、企業が一番手をつけていない分野といえます。
「公共料金は単価が決まっていて下がらない」と誤解されていることが多いのですが、交渉や契約の変更で10%をはるかに超える削減効果が出る場合があります。
 電気を例にあげると、大口契約をしていれば「長期契約割引」を検討しましょう。3年契約で3~4%、5年契約で5%の割引が可能なこともあります。一施設では大口とならなくても、一企業や一企業グループで見ると同じ電力会社の管内に多くの施設があれば、協議によって対象となるかもしれません。
 このほか、時間帯や季節、曜日によって使用量にばらつきがある場合は、最適な契約プランへの変更で安くなる可能性があります。電気代に占める基本料金の割合が40%を超えている、基本料金が電気使用料金を上回る月がある場合などは、基本料金の引き下げ交渉をしてみてください。

 コピー費についても、まず行うべきは「調達改善」です。カラーコピーなら1枚あたり15~40円、モノクロなら2~6円のカウンター料金がかかります。数10銭程度の紙代とは比較になりません。コピー機の販売会社と単価の引き下げ交渉を行いましょう。
 その後に「運用改善」です。どのコピー機が使われているか、どんな用途が多いかを調べ、その情報をもとにコピーそのものの枚数を減らします。コピーより、パソコンからプリンターに出力したほうが安い場合もあるのです。


■削減分はそのまま純利益となる

 実はコスト削減プロジェクトで重要なのは、削減目標と期限を明確にし、「達成することの価値」を従業員にはっきり示すことです。
 目標を定めるからには、取り組み前の数値はもちろん、進行中の数値の変化も「見える化」する必要があります。継続的に現状がモニターできないと、成果が見えずモチベーションが続きません。
 そして、達成したらどんないいことがあるかを、経営者の強い意志とともに従業員に伝えましょう。コスト削減というと、「不便を強いられる」とネガティブな印象を持つ人が多いものです。
 従業員に対して、経営者が「削減できた金額の3分の1を還元しよう」「浮いたお金で従業員を増やし、顧客サービスを充実させよう」と伝え、大幅なコスト削減に成功した例もあります。

 モノが売れない時代、売り上げを伸ばすのは大変です。そんな中、コスト削減は売り上げと違ってまずは社内だけの取り組みで実現できます。しかも削減額は「純利益」となるのです。
「100万円のコスト削減」というと一見少ないように思えるかもしれませんが、売上高が1億円の企業なら利益率1%のアップに相当すると考えてみれば、効果の大きさを実感するのではないでしょうか。


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環境経営戦略総研社長
村井哲之
●1957年、山口県生まれ。リクルート、第二電電等を経て現職。著書に『コピー用紙の裏は使うな!』など。

大井明子=構成