工作機械、外需比率7割、目は海外に(マザーインダストリーの挑戦)
2011/10/27 日経産業新聞
国内は高性能機磨く
日本のマザーインダストリーの中でも、看板だった工作機械業界。一部大手を除くと国内生産が中心で、最近の円高で経営環境が悪化している。国内には100社超の企業があるが、大半は中堅・中小企業だ。受注に占める外需比率は今年は7割近くまで上昇する見通し。海外生産などグローバル化に本格的に取り組まなければ、日本の地盤沈下が進みかねない。
工作機械中堅のOKKは9月末、タイ工場の操業を始めた。バンコク市郊外にあるが、今回の洪水で影響を受けなかったのは幸運だった。創業1934年の老舗メーカーだが、海外生産は初めて。連結売上高181億円、2011年3月期まで3期連続で最終赤字の企業にとって、タイ進出は賭けだった。
「国内生産だけで成長するのは難しい」と、井関博文社長は自らに言い聞かせるように語る。切削性能が高い同社のマシニングセンター(MC)は技術力が評価されても、「(アジア市場では)コスト面で太刀打ちできない」からだ。タイ進出による部品の現地調達や人件費の抑制で、日本製よりも販売価格を2割ほど抑えた。現在製造するのは1機種だけだが、軌道に乗れば生産機種や輸出先を増やす方針だ。
日本の工作機械業界では年間売上高が1000億円を上回るのは、ヤマザキマザックや森精機製作所、オークマなどほんの一握りにすぎない。大半が数十億~数百億円の中堅企業で、経営的にもリスクが高い海外生産に二の足を踏んできた。ほんの数年前まで受注は内需が旺盛で、海外進出の必要性も小さかった。
日本の工作機械メーカーの多くは町工場からスタートした。多額の開発資金が必要なコンピューター数値制御(NC)装置をファナックなどから購入し加工性能などを高めて80年代に成長した。
90年代はバブル景気の崩壊やアジア危機などで一時的には厳しかった。そんな不況期でも歯を食いしばって耐えれば、数年後に国内大手が設備投資を増やし、生き抜くことができた。
だが、こうした状況は過去5年間で劇的に変わった。工作機械受注額に占める外需比率の急激な上昇だ。日本工作機械工業会によると、日本の受注額は11年見通しで外需が7割近くを占める。90年代初めまでは内需が7~8割程度。外需が内需を超えたのはまだ4年前の07年。日本の製造業が海外進出を加速しているためだ。
牧野フライス製作所の牧野二郎社長は「(内需は)もう元には戻らないだろう」と話す。加工精度の高いマシニングセンターで金型や航空機向けに屈指の技術力とブランド力を誇る同社ですら、危機意識を隠せない。同社は今期、シンガポール工場を中心に海外生産を4割増やす。このほど鋳物など部品の調達先の見直しを始めた。
ただ、工作機械業界は海外シフトだけでは成長できない。工作機械は「外国為替及び外国貿易法(外為法)」と関連する政省令によって、事実上、高性能機の海外生産が制限されている。87年に日米摩擦の火種となった東芝機械のココム規制違反事件ではないが、兵器生産など軍事利用される恐れがあるからだ。
日本企業にとっては収益の柱の高性能機は国内で生産し、輸出する必要がある。現在の円高でも採算性を確保するには国内の合理化も急務だ。
例えば、ハードディスク駆動装置(HDD)向けの小型旋盤などを得意とするツガミは最近数年間、中国浙江省の工場増強に注力し、現地子会社の中国人トップを日本の本社の経営陣に据えるほどグローバル化を進めてきた。中国では11月に、競合他社を大幅に上回る月産1000台の体制を確立する。
ただ、同社の西嶋尚生社長は「13年3月期の設備投資は大半が国内になる」と明かす。来秋までに国内拠点を新潟県内に集約し、価格競争力や製品開発力の強化に取り組むためだ。
西嶋社長は「海外勢に対する優位性があるうちに、国内の(ハイエンド機の)競争力を一段と高める必要がある」と指摘する。中国などに進出してボリューム機の事業拡大するだけでは国内が空洞化し、最終的に窮地に追い込まれかねない。
日本の工作機械業界はトヨタ自動車グループなど国内大手顧客との取引関係によって成長してきた。そんな「勝利の方程式」が崩れつつある中、いかに世界で戦える競争力を身に付けていくのか。かつてない難しい問いを突きつけられている。
(佐藤浩実、名古屋支社=浅沼直樹、中戸川誠)
工作機械各社 海外を中心とする成長戦略
(カッコ内は工作機械の売上高。2011年3月期)
OKK タイで9月にマシニングセンターの生産を開始。2012年3月期は4期ぶりに最終損益の黒字転換を目指す(158億円)
ツガミ 国内拠点の再編で、自動旋盤の生産を効率化。中国は今秋に月1000台の生産体制に(359億円)
松浦機械製作所 高級機種に強み。大型マシニングセンターの新機種投入で、成長見込む航空機部品用への展開を強化
中村留精密工業 主力はマシニングセンターと旋盤の「複合加工機」。医療用人工骨やレンズ加工など精密加工に強み。三菱商事に中国で複合加工機の販売権を付与
オーエム製作所 7月にダイワボウホールディングスの完全子会社となり、財務体質を強化。発電用タービンが加工できる大型旋盤をアジアで販売拡大
豊和工業 トヨタ自動車グループの創始者、豊田佐吉氏の動力織機製造から創業。11月から中国・天津で自動車部品を加工する工作機械を生産〓(87億円)
浜井産業 ラップ盤、ポリッシュ盤と呼ばれる研磨加工機を日本で最初に製造。小型の歯車製造機械も手掛け、12月にも上海に販売サービス会社を設置(82億円)
高松機械工業 主要取引先が自動車部品メーカー。台湾の機械メーカー「友嘉実業」との合弁会社が2012年2月をめどに中国・杭州の工場を移転、拡張(109億円)
和井田製作所 超硬工具関連の研削盤で国内シェアが9割、金型研削盤では5割。海外販売体制も強化。シチズンホールディングスが大株主で提携関係も(60億円、11年6月期)
太陽工機 2001年に池貝の民事再生法適用で、森精機製作所の傘下に。立型研削盤で国内シェア9割。自動車部品、建設機械、風力発電機メーカーが主要取引先(41億円)
シチズンHD 傘下の工作機械2社を合併し、4月にシチズンマシナリーミヤノとして発足。競合のスター精密と中国専用機を共同開発〓(377億円)
スター精密 中国・大連に加えて、来秋にはタイで自動旋盤の製造を開始。2017年度までに世界で月500台体制に〓(192億円、11年2月期)
ブラザー工業 CNCタッピングセンターと呼ばれる小型工作機械を日中で生産。生産規模はファナックに次ぐ(産業機器は423億円)
ジェイテクト トヨタ自動車グループ主要企業の一角。2006年に光洋精工と豊田工機が合併。エンジンなど自動車部品加工向けの工作機械が得意。三井精機工業、光洋機械工業との連携を強化(1265億円)
コマツNTC 自動車のエンジン部品などを加工する専用工作機械に強み。太陽電池のシリコンインゴットを薄く切るワイヤソーも高シェア〓(1190億円)
三菱重工業 自動車や建設機械の歯車(ギア)を加工する歯車機械が主力。今春に中国でのノックダウン生産を始めたのに続き、インド生産も検討
東芝機械 プラスチック射出成型機や金属を成型するダイカストマシンに軸足。上海に続いてタイでの生産を計画。工作機械は大型機や特注機に強み(236億円)
ソディック 放電加工機の世界大手。ワイヤーやNC装置、リニアモーターといった部品や消耗品を内製し、競合と差別化。1980年代からタイに製造拠点を置く(357億円)
富士機械製造 電子部品組み立て機でトップクラスのシェアを握り、スマートフォン向けなどで急成長。工作機械は自動車向けが主力でトヨタ自動車グループが主要取引先(59億円)
タケダ機械 「形鋼」と呼ぶ鋼材加工機が主力。国内市場の低迷で海外の販売網強化。工作機械はアマダから輸出限定でOEM(相手先ブランドによる生産)を受託(20億円、11年5月期)