ファッションストリートは思いの外凄かった。改装前は申し訳程度だったブランドショップが増えていたし、コスメコーナーも明るくて綺麗になっていた。
手が出ないものが殆どだったけれど、見ているだけでも楽しい。
「あ、グロスの新色じゃん」
「ホントだー。ポーチも有るよ」
彼と一緒だったら、ここに来る事は無かっただろう。友人達と居るのも、やっぱり悪くない。
と、一人がしきりに携帯をいじっているのが目に入った。
「どうしたの? 親から?」
「ううん。向こうの奴と、ちょっとね」
閉じた携帯がすぐに鳴る。
「向こうの奴って……さっきの男子達?」
「そう」
「友達?」
「まぁ、そんなところね」
彼女は曖昧に笑って、また携帯に目を落とす。
彼の友人達の顔を思い出してみる。少なくとも、私の馴染みの顔はいない。それに、彼女と一緒に居る様な男子も居ない。誰だろう。
「今さ、そいつと連絡取っててね。帰る時間合わせようって」
「どういう事?」
「……メイク直してあげる。ちょっと来て」
彼女は私の手を掴むとパウダールームへと引っ張っていく。
パウダールームは私達以外に誰も居なかった。彼女は自分と私の鞄からメイク道具を取り出すと、私を鏡の前に座らせる。言われてみれば、少しメイクが崩れている。
「チークはピンクだけ?」
「うん」
「余裕有ったら二色のパレット買いなよ。その方が可愛いと思う」
彼女はそう言いながら自分のパレットを開き、私の頬に色を乗せていく。
「気合い入れてきたんだね。会った時さ、結構可愛いからびっくりしたよ」
その言葉に、何故か泣きそうになる。彼からは絶対聞けない言葉だ。
何かを察したのか、彼女がメイクをする手を止める。
「さっきさ、向こうの奴と帰る時間合わせるって言ったよね」
「うん」
「五時半くらいになったら私達帰るから。夕飯、一緒に食べるつもりでしょ?」
そこまでお見通しとは。私は黙ってうなずく。
「今日、進路の事とか話すって決めてるのよね? 一緒に夕飯食べてさ、ゆっくり話したら良いよ」
「でも、でもさ……」
膝の上でぎゅっと手を握りしめる。
「午前中一緒だったけど、どうして良いのか解らないし……あいつはさっさと向こうと合流しちゃったし……帰りだって、友達と一緒に帰っちゃうかもしれない」
「何でそう悪い方ばっかり考えるの。向こうには置いて帰れって言っとくし、幼馴染み君はそんな薄情な奴じゃないでしょ?」
彼女はコームで私の髪をとかす。
「大丈夫だって。素直になれば、きっと上手くいくんだから。それに……彼の事、好きなんでしょ?」
うなずいた拍子に涙が一粒、こぼれ落ちた。
「だったら。だったら伝えなきゃ。進路の事も、自分の気持ちも」
指先で髪を整え、彼女はそのまま私の肩を優しく撫でてくれる。
「ああもう、せっかくメイク直したのに! ほら、涙拭いて!」
彼女が大袈裟に慌ててみせる。それがおかしくて笑いだしてしまう。
「あ、ここに居たんだ」
入り口のところで他の友人達が顔を覗かせている。
「メイク直してたのよ。どうしたの?」
「コスメコーナーでタイムセール始まったのよ。色々有るみたいだからさ」
さっき彼女が言っていたパレットの事を思い出す。彼女も同じ事を考えていたのか、私を促してパウダールームを出る。
「ほら、こっちこっち」
手招きする方向、ちょっとした人だかりが出来ている。私は直して貰ったばかりのメイクを気にしつつ、目当ての物を探しにその中へと飛び込んでいった。
チークパレットとショール。これが今日の戦利品。両方ともタイムセールでゲットした。休日は時たま見かけるけれども、かなりの人でごった返している。辿り着いた頃には何も無いのが当たり前だ。
「良いねぇ、平日休みって最高だねぇ」
友人達も上機嫌だ。
服や雑貨を見て回って、時々セールを覗く。気付いた時には結構良い時間だった。
「あ……そろそろ?」
しきりに携帯を気にする彼女に、他の子も気付く。パウダールームを出た後に、彼女が皆にも話したのだ。
「うーん、そうなんだけどさ」
一人が彼女の携帯を覗き込もうとする。
「ちょっと! 何見ようとしてるのよ!」
「え、良いじゃーん」
「駄目だって」
「何よう。ひょっとして相手、彼氏だったりしちゃったりして?」
「ちっ、違うわよっ」
今まで適当にあしらっていた彼女が急にぎこちなくなる。友人達がそれを見逃す訳が無い。
「あーやーしーいー」
「どういう事なのさー」
彼女の目が泳いでいる。助けを求める様にこっちを見てくるが、どうしようもない。それに、私も興味が有る。
「あ、あぁぁ、ちょっと、メール来たから! ほら、そろそろ行かないと!」
「ちぇ……参考に出来そうな良い話が聞けると思ったのにな」
私がそう言うと、彼女は困った様に笑う。連られて皆も笑った。
「それじゃあ、私達は帰るからさ。頑張りなよ?」
「明日の結果報告、楽しみにしてるからねー」
向こうのグループと合流しようと意気込む友人達。全力で拒否する彼女。その声と姿が遠くなる。
(さて、と……)
上手くいっていれば、丁度彼も一人になっている頃だ。今何処に居るのか、と彼にメールを送る。
(自分の気持ちか……)
彼には伝えず、胸にしまっておくつもりだったもの。言えるだろうか。ちゃんと伝えられるだろうか。進路の事さえも、言えるかどうか危ういと言うのに。
(駄目。弱気になっちゃ駄目)
友人達の姿はもう見えない。