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数日後の昼下がり、アッシュの外出中にコングとボーンズがアパートにやってきて何をするわけでもなくダラダラと過ごしていた。
ボーンズはソファに寝転がって英二の漫画本を読み、コングはポテトチップの袋に手を突っ込んでボリボリと音をたてながら食べている。
「ねぇ、君たちに相談があるんだけど」
英二が声をかけると、コングは空になったポテトの袋を残念そうに見たあと、気怠そうに英二の方を振り向いた。
「なんだよ?喧嘩の仕方でも知りたいのか?」
握りこぶしを作り、パンチをするふりをするコング。
「あはは、それはまた今度。。。あのさ、ハロウィンにここでパーティーを開きたいんだ!どんな風にすればいいと思う?」
英二の提案に驚いたボーンズは漫画本を床に落とした。
「はぁ~!? パーティーだ? ここで?」
目を丸くする彼に、英二はわけが分からずキョトンと首を傾げた。
「え? それ以外にどこがあるんだよ? 」
ボーンズは、アッシュの言葉を思い出していた。
(たしかに予想外の行動にでてきたなぁ。。。)
頭をボリボリ掻きながら、面倒臭そうにボーンズはため息をついた。
「おまえさぁ、外に出られなくて鬱憤たまってるのは分かるけど。。。」
「何か問題でもあるの?」
どこまでものんびりとした口調の英二に、ボーンズだけでなくコングも困ったような視線を向けて強い口調で言う。
「大いにあるさ!ここはアジトでもあるんだぞ!」
「ガキじゃあるまいし、俺たちはお菓子を貰って遊んでいる暇はねぇんだぜ?」
(こうしている間にオーサーの奴らが。。。)
英二に対して口にだして言う事は出来ないが、心の中で彼らは近々やってくるボスとオーサーとの勝負に敏感になっていた。
反対されたのが予想外だったのか、英二はしばらく黙っていたが、ニヤッと笑った。
「君たちの言いたい事はわかるよ。アッシュは別人を装っているし、この家に関係者以外の人間を入れることを嫌う。。。でも、一方で怪しまれないように周りの目をすっごく気にしているよね? それなら普通の一般家庭らしく、ハロウィンパーティーぐらい開いてもいいんじゃない? 近所の子供たちにお菓子をちゃんとあげて愛想良くしてやればいい。親も近くで見ているだろうし。。。うちは不良が集まる家じゃなくて、普通の家なんだよってアピールできるチャンスじゃないか。」
アパートへ出入りする度に、ドアマンやアパートの住民から怪しげな目で見られていることに引け目を感じていた二人はお互い視線を合わせた。だが、まだ納得はしていない様子だった。
「おまえなぁ。。。ボスが知ったら絶対に反対するぜ?」
「そうだ、ボスは反対するに決まってる」
ボスに叱責されることを恐れている二人に、英二はやけに自信ありげな表情を浮かべながら力強く自分の胸を拳でどんと叩いた。
「アッシュのことは僕に任せてよ!君たちが怒られないようにするから!」
「。。。おまえ、時々すげぇ大胆なことを言うよな」
「そう? でも何とかなると思うよ。それじゃ、アッシュには秘密にしておこう、サプライズにしようよ!」
勢い良く喋りだす英二を二人は黙ってみていた。どんどん計画を練っていく英二をとめる術は二人にはなかった。
「アッシュならドラキュラのコスチュームとか似合いそうだと思うんだ。。。彼、着てくれるかなぁ? 僕はゴーストでもいいんだけど。。。」
(ボスがコスチュームなんて着るだろうか?)
(お遊戯会かよ。。。)
ボーンズとコングは再度深いため息をついた。
「オレ、手に負えねぇ。。。」
「同感だ。。。運を天に任せようぜ」
こうして二人は英二に押されてしぶしぶハロウィンパーティーの開催を受け入れた。
***
10月31日の夜、外出先から戻ってきたアッシュがアパートでまず見たのは、困惑した顔で弁解する子分の顔とこの世で最も嫌いなカボチャの山だった。
鳥肌が全身にたつのを感じながらも、かろうじて部屋に入り、そして楽しそうにどこかほくそ笑みながら酒を飲んでいる英二を見た瞬間、アッシュは全て理解した。
「おまえ。。。わざとか?」
そう怒ろうにも、苦手なカボチャがまるで盾のように英二の周りを囲っていた。
「アパートの子供たちがパレードのための寄付あつめに5ドル寄付したら、こんなにくれちゃった」
「他人をここに入れるなと、あれほど。。。」
部屋を見渡すと、絨毯の上には子供達にあげるためのお菓子の残りや近隣住民からの差し入れ料理が数多く並んでいた。自慢げにお隣の主婦との交流があることを話す英二にアッシュは何と言っていいのか分からなくなった。
(まさか近所の主婦とまでつきあいがあるのか!? こいつ、すげぇな。。。)
カボチャに怯えながらも、子分たちの手前強気でいるアッシュの反応が面白いのか、英二はすっかり調子にのっている。自分の顔にカボチャをかぶってアッシュの前にジリジリと近づいてきた。
「それ以上近づけたら泣くぞ!」
ボーンズは酔っぱらっていたが、コングは二人の様子を少し離れてみていた。
(なんか今日のボスちょっと変だなぁ。何かビビってる気がする。それに冗談でもボスが『泣くぞ』と言うだなんて。。。)
不思議そうに首を傾げていたが、すぐに忘れて目の前の美味しそうなチキンにかぶりついた。
「アッシュー」
「離れろっ、カボチャヤロー!」
***
酒が足りなくなり、ボーンズとコングはスーパーへと買い出しにでかけていた。
「なぁ、今夜のボス、酔ってたのかなぁ? ちょっと変だったぜ? オレ、ボスが酔ってるところを見たことがねぇからよく分からねぇや」
そう言いながらコングは買い物かごに酒とつまみを放り込んだ。
「俺もねぇよ。ただでさえボスは酒に強いし、俺たちみたいにバカみたいな飲み方は絶対にしねぇからな」
ボーンズは酔いが若干冷めつつあったが、まだ頭がぼんやりするようで欠伸をなんども繰り返している。
「まぁ、ボスは絶対に油断しねぇってのもあるだろうけど。。。」
「ボーンズ、お前は酔って寝てただろ? 俺、見ちまった。ボスが酒をグイグイ飲みながら大笑いしていたんだぜ? しかも呂律が廻ってなかった気がする。。。」
「それ、本当か?」
「あぁ、二人ともバカみたいに騒いでたし、正直言って何の話しているかよく分からなかったけど。。。あんなボスの声を聞いたのは初めてだった」
コングが不思議そうな顔で話すのをボーンズはじっと見ていたが、視線をそらしてつぶやくように言った。
「なぁ、やっぱりボスは英二を日本に帰すのかな?その日が近いってことか?」
「アレックスによると、オーサーとの勝負はもうすぐなんだろう?」
「あぁ、心の準備しておこうぜ。今晩か明日かも知れねぇし。。。」
楽しそうな二人の姿を見るのはもう最後かもしれない。近くで見守ってきた子分たちも何だか寂しい気持ちになってしまう。
「あのよ、こういっちゃ何だけどよ。。。その時が来るまで、出来るだけ俺たち、邪魔しねぇでおこうぜ」
「そうだな。。。優秀な子分は、色々と気づかないフリも出来るってことさ」
***
「まともな世界の人間とつきあうなんてことは、もう周囲が許しちゃくれないのさ」
アッシュの初恋の相手が殺されたことを知った英二は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「本当の俺をよく知っている奴らは。。。俺を恐れて殺そうとするか、利用しようとする。俺と関わって巻き添えをくらうくらいなら、はじめから。。。」
普通の人間としての生活をとっくに諦めたかのような表情を見せるアッシュの横顔は、寂しさが浮かんでいた。
重い空気を誤摩化すかのように、二人は乾杯を重ねた。
ふと、アッシュがつぶやいた。
「俺が怖いか?」
この言葉を彼が言う時、それは彼が不安に陥っている時だと英二は気づくようになった。
英二は立ち上がり、腰に手を当てながらわざと大げさにため息をついた。
「また、それか。もう!そんなワケないだろう!」
そして握り拳を作り、英二はアッシュの頭をゴツンと叩いた。もちろん力は加減して。
「な。。。お前、なにすんだよ!」
痛みなどほぼ無かったが、英二の行動に驚いた彼はするどく睨みつけた。
「僕は良く知っている!本当の君は。。。しょせん『カボチャが怖いお子ちゃま』だ!弱虫だ!」
カボチャのことを言われ、アッシュは気恥ずかしそうに舌打ちをした。
「うるせぇ。酔ってるのか? この、ガキ」
「君の事を怖いだなんて、全く思わない。僕のよく知っている君は、他の人が思ったり話しているのと全く違うんだからね!。。。それに、僕は君よりも年上だ」
ムキになって言う英二の方が数倍子供っぽいことは分かっていたが、憎まれ口を叩かれてもいいのでとにかくいつもの調子に戻ってほしいと英二は心の中で願っていた。
「そんなに敬って欲しいのなら年上っぽいことをしてから言えよ」
ニヤッと嫌味っぽく言われ、可愛くないと思いながらも 落ち込まれるより数倍ましだと英二は頬を膨らませた。
「ちぇっ。。。」
「ははっ、やっぱりお前変な奴だな」
笑うアッシュの表情は明るくなっていた。それを確認し、英二はホッと内心胸を撫で下ろした。
「ふぁぁ。。。眠くなってきた。お腹もいっぱいだし。。。」
欠伸をしながら英二はゴロンと床に寝転んだ。コングとボーンズはとっくに眠っていた。
「おまえも、そろそろ寝るか?」
「そうだね、ハロウィンを君と過ごせて良かったよ。。。アッシュ、君は楽しめたかい?」
パーティーの準備で疲れた体が重い。英二は目をこすりながら次第に自分の意識が遠くなるのを感じた。
「はいはい、誰かさんのおかげで。とーっても楽しめたぜ」
どこか一本調子で答えながらも、まんざらではないといった表情をアッシュは見せる。
「ふふっ、そうか、それなら良かった。。。それでね。。。」
微笑みながらも英二の瞼は半分以上閉じかかっている。
「英二? そこで寝るのなら、寝室から毛布を取ってこいよ。風邪ひくぜ?」
アッシュが声をかけると、ボソボソと英二はつぶやいた。
「来年も、一緒にハロウィンを過ごそうぜ。。。約束だ。。。」
「。。。」
アッシュは黙ってしばらく英二の顔を見つめていた。
すっと立ち上がり、神妙な表情でアッシュは寝室へと向かった。
(来年。。。オレに未来の約束ができるだろうか)
明日生きているかどうかも分からない自分に未来の約束ができるのだろうか。
毛布と枕を二組抱えながら、アッシュはリビングに戻ってきた。
英二はとっくに眠りの世界に入っていた。
(おまえの言う通りだ。。。本当の俺は弱虫だ。。。おまえを手放すことを恐れている)
来年の約束はできない。
一分一秒でも二人で過ごせる時間が長く続くように願いながら、アッシュは英二の体にそっと毛布をかけた。そして寄り添うように隣に横たわり、瞳を静かに閉じた。
*終*
(あとがき)
ハロウィンに間に合うよう、急いで仕上げました~フゥ、私のハロウィンイベントは無事終わった(笑) 若干 捏造気味の会話、内容もちょこちょこ飛んでいます。。。(;^_^A
オーサーとの勝負が始まるまでお話でした★
本当のアッシュがどれほどキュートで繊細か、英二を通じて 私たちはいつも見守っていました。こんな相手に出会えるって最高ですよね~(^∇^) ほんのわずかな時間だけだったのが悲しいけど、それでも幸せなひと時だったことでしょう
![ハロウィン](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/101.gif)
皆様、ハッピーハロウィン! お読み頂きましてありがとうございます。
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