数か月前――
子分の中にアッシュをカリスマだと心酔している者がいた。彼の名はリチャード。彼は英二の存在が非常に目障りに感じていた。
「なんだよ、あのジャップ……ボスにちょっと気に入られているからって調子にのりやがって」
自分はほとんどボスに目をかけられることはない。ボスに憧れてグループに入ったリチャードは幹部になってボスの傍につくことを望んでいた。
ところがディノ邸を襲撃した後、一人の日本人がボスと行動を共にし始めた。どうみてもひよっこのガキだ。特別な能力があるわけでもなく、銃なんて使えそうもない。彼はなぜボスがこの日本人と一緒にいるのか分からなかった。
リチャードは英二がまるでボスを独り占めしているように感じ、嫉妬に近い感情を抱いていた。とは言え、ボスの手前、嫌な顔を見せることはできなかった。
「リチャード、この新聞をボスのアパートに届けてくれ」
ある日、アレックスから頼まれ、ボスの住む高級アパートに子分は向かった。
(すげぇ・・・このアパートに来たのは初めてだぜ。さすがボス、こんなところに住んでいるのか)
リチャードはドアマンの不審そうな視線を無視してアパートに入り、エレベーターボタンを押した。
「ボスに何て挨拶しようかな…」
下っ端の彼は滅多にボスと言葉を交わすことはない。彼はボスと会うのを楽しみにしていた。
「はーい。ちょっと待ってて」
聞こえてきたのは少し訛りのある声だった。ボスではないことにすぐ気付いたが、リチャードはドアが開くのを待っていた。
「お待たせ!」
ドアが開き、見えたのは小柄な黒髪の少年だった。それはリチャードの嫌いな英二だった。
「え……」
彼は思わず眉をひそめた。先ほどまでのテンションは下がり、リチャードは一気に気分が悪くなってしまった。
「君は……アッシュの仲間だね。 あ、新聞を届けてくれたんだね? 」
英二はリチャードを見るのは初めてだった。リンクスの仲間は頻繁にやってくるが、彼らと英二の関係は良好だった。アッシュの仲間とは、できればいい関係を築きたいと思っていた彼は愛想よく目の前の生意気そうな少年に話しかけた。
「……あぁ」
リチャードの鋭い視線が気になったものの、きっと初対面だからだろうと思い、英二はリビングにいるアッシュに向かって声をかけた。
「アッシュー、君の仲間が新聞を届けてくれたよ!……って、聞いていないのか? ねぇ、君……うちにあがっていく?」
憧れのボスに向かってごく自然に話しかけている英二の姿を見て、リチャードはどういうわけか苛立ちを感じ始めていた。
「……」
(なにが「うちにあがっていく?」だ、ここはボスの家だろうが!)
リチャードにしてみると、戦力にもならない英二が当然のようにこのアパートでボスと暮らしているのがきにいらない。 忌々しそうに英二を睨みつけるリチャードを英二は不思議そうに見ていた。
「……?」
「けっ!」
リチャードは英二に新聞を押し付けた。英二は面喰ったように新聞を受け取った。
「……っと!」
舌打ちをしたリチャードはくるりと背を向けて帰って行った。
<続>
英二とリンクス達の関係ってどうだったのでしょう? コング・ボーンズとは仲良くしていましたよね。
ちなみにコング・ボーンズは幹部扱いなのかしら?英二のガードをまかされるぐらいだから、ボスの信頼を得ているのでしょうが…。
私の予想なのですが、アッシュは子分に英二のことをあまりきちんと説明していない気がします。
そもそも子分は何人いるんでしょう? 今度漫画を見て数えてみようかな…あ、検証シリーズにするとは言っていませんよ?(笑) 100人とかいたら怖いなぁ…50人未満かな?(^^)
カリスマ的存在のアッシュと常にそばにいる英二を羨ましいと思うのかもしれないし、「あいつには何かがある…」と思いこんでいるかもしれない(笑)
今回は残念ながら英二をよく思わない子分を登場させてしまいましたが、どうなるのでしょうか?