夕食を食べ終え、いつものように英二は後片付けをしている。だがその横顔がどこか冴えない。食事中からアッシュは彼の異変に気づいていた。
一方英二も、先ほどからアッシュの鋭い視線に気づいていてわざと視線を合わさず後片付けに集中していた。
「おまえ、今日は何かあったのか?」
「え…どうしてそんなこと聞くの?」
振り返った英二の瞳は不安に揺れ、声も少し掠れていた。皿をシンクに運ぼうとしたが、手が滑ってしまった。ガシャッと大きな音が響き、一瞬英二はハッとした。
「わぁっ! ……よかった、割れていない」
戸惑った様子の彼を見てアッシュはますます怪しいと確信していた。
「何か違う…いつもと。視線を合わさないし声も少し違う……」
冷静に分析されている事に気付いた英二は思わず苦笑した。
「ははは……君ってすごいね」
認めた英二を見てアッシュもニヤッと笑った。
「オニイチャンは思っていることがすぐ顔にでるからな」
「う……」
「で、何が起きた?」
「……」
「朝までキッチンにいるつもりか?」
「――ふぅ、」
英二は観念したのか、小さく息を吐いた。そしてややうつむき加減にぼそりとつぶやいた。
「また……僕は誤解されたみたい。それだけさ」
英二の告白を聞いた時、アッシュの体はピクッと一瞬硬直した。理由を聞く前に、数か月前の嫌な記憶がよみがえってきた。
英二は困ったような笑いをほんの僅かな間、浮かべていた。
「きっと僕の英語がちゃんと伝わらないせいだ、ははは」
英二はカチャカチャとテーブルの上の皿を片付けはじめた。アッシュは英二に見えないよう大きく息を吐き、彼を刺激しないよう、落ち着いた口調で聞いた。
英語力なんて関係ないことなどアッシュは分かっていた。彼はどうやって英二に聞こうかと考えていたが、ストレートに聞くことにした。
「どんなことがあった?」
しかし英二はアッシュの方を見ようとはしない。
「ん? たいしたことじゃないよ…もう気にしていないから…大騒ぎするほどのことじゃない」
英二は小さく笑ってシンクへと最後の皿を運んだ。
「……」
絶対にそんなはずはないとアッシュは確信していた。心配かけまいとしているに違いない。
本当は英二に嫌な思いをさせた奴が誰なのか、アッシュは問い詰めたかった。
しかし問い詰めても英二は頑固だから言わないだろう。事を荒立てたくないと思っているはずだ。
英二はシンクの方を向いて皿洗いを始めた。彼の背中が寂しく見える。アッシュはその背に向かってできるだけ優しい口調で言った。
「困ったことがあったら、いつでも俺に言え」
本当は英二を困らせた奴をこらしめたかったが、そんなことを英二は望んではいなかった。
数か月前、英二が危険な目にあったことを自分のせいだとアッシュは考えていた。傍に英二を置くことで危険な目にあわせたくはなかった。
振り返らないまま英二は答えた。
「……うん――ありがとう」
<続>
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皆さまおはようございます!
今日から新連載の小説がはじまります…ちょっとシリアスな雰囲気ですけど、何があったのでしょうか?
どうぞ楽しんで頂けたら幸いです。
最近ちょっぴり忙しくなってきました…色々やりたいことがありすぎて(^^;)
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