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伊部のシークレット・サンタであるアッシュが渡したプレゼントが気になった英二が、アッシュ本人に聞いていたところ、電話が鳴った。
「僕がでるよ」
英二は受話器をとった。アッシュは内心ホッとしていた。
「はい?」
「あ、英二か? マックスだ」
「マックス、どうしたの?アッシュと代わろうか?」
そう言って英二はアッシュをちらりと見た。
「いや、いい……お前に今日の礼を言っておこうと思ってな。うちのガキも世話になっちまって」
マックスが代わらなくてもいいと言うので、英二は顔を左右にふってアッシュに「必要ない」と合図をした。するとアッシュはビールとるためにキッチンへ行ってしまった。
「とんでもないよ、 マックス。今日は来てくれてありがとう。マイケルたちと一緒にいるの?」
「いや……ジェシカを怒らせてしまって……まぁそれは構わないんだが」
マックスの声は疲れていた。よほどジェシカに詰め寄られたのだろう。
「えぇ? 喧嘩したの?どうして?」
「ちょっとな…それでいまシュンイチのところにいる」
「それは大変だね」
「ははは……お前からもらった本と一緒に避難してきたぞ。 あぁ、そうだ。今日のシュンイチはご機嫌だぞ」
「伊部さんが? どうして?」
「あぁ、アッシュには内緒だぞ。あいつが知ったら怒りそうだからな。実はシュンイチのシークレット・サンタはアッシュだったんだが…」
「そうみたいだね。さっき聞いたけど、詳しくは教えてくれないよ」
言いづらそうな先ほどのアッシュの様子を英二は思い出した。
「まぁな、あいつは素直じゃないからお前には言いたくないだろうよ」
「へっ?」
アッシュの伊部へのプレゼントと自分がどう関わっているのか英二には全く理解できなかった。
「プレゼントは高そうなスパークリング・ワインだ。いまシュンイチと一緒に飲んでいるよ」
「あぁ、それで伊部さんはお酒を飲んでご機嫌なんですね。お酒が欲しいって伊部さんはリクエストしたのですか?」
「いや、そうじゃない。シュンイチがご機嫌な理由もリクエストも……。俺とシュンイチは悪ノリしてくだらねぇリクエストを書いちまった」
マックスのリクエストである 『女房への慰謝料』 『幸せな一般家庭』 を思い出した英二は深く頷いた。
「確かに……。でも伊部さんは何をリクエストしたのですか?」
「シュンイチはガールフレンドを置いて日本に来たから寂しいと言ってたんだ。それであいつは 『心と体が温まるもの』 って書いたのさ」
「心と体が温まるもの…? 」
もし英二がこのリクエストのかかれたくじを引くと、何をプレゼントするか悩んでしまうだろう。
「な、すぐには浮かばないだろう? 何がそいつにとって温まるものかなんて分からねぇし 」
「あぁ、温まるものだからお酒を贈ったのか。 たしかに酔えば体温があがるよね。でも心って……? どうするんだろう……」
伊部に世話になっている英二でもすぐには浮かばない。マックスはおかしそうに笑った。
「へへ、アッシュのヤロウも色々考えたんだろうな。あいつ……」
「どういうことだい? おしえてよ」
英二は気になって仕方なかった。
「メッセージ付きのワインラベルが貼ってあったのさ。きっとラベルをオーダーしたんだろう」
「オリジナルのワインラベル? ふぅん、そんなことできるんだ。メッセージって……」
「あぁ……そのラベルには 『英二との出会いに感謝します。伊部さん、ありがとう―』ってプリントされていた」
「……えっ!」
予想外のアッシュの言葉に英二は驚いた。
(アッシュがそんなことを……)
彼がそんな素直な言葉を伝えるとは全く想像できなかった。伊部のストリートキッズへの取材がきっかけでアッシュと英二は出会った。このきっかけを作ってくれた伊部にアッシュは感謝の気持ちを伝えた。
英二を何度も日本へ帰そうとした伊部だが、彼のおかげでアッシュは自分が唯一信じられる英二に出会えたのだ。
英二は嬉しさと驚きで声がでなかった。
「……」
「シュンイチはすっかりご機嫌で、酔っぱらっちまってるよ……すげぇ効果だな。ははは」
どうやらマックスも一緒に酒を飲んでいるらしく、彼も機嫌よく豪快に笑った。
「――ねぇ、マックス……お願いがあるんだけどいいかな?」
英二は穏やかな声で問いかけた。
「なんだ、言ってみろ」
「伊部さんに伝えてくれるかな? そのボトル、捨てずに置いといてくださいって……」
「あぁ、もちろんだ。今度こっちへ来たとき、こっそり見せてやるよ」
「そうだね、よろしく……」
英二は静かに電話を切った。ふと窓をみると雪が降っていた。外はかなり冷えているはずだが、英二の心はあたたかだった。
「わぁ、綺麗だな……今年はいいクリスマスだったよ……」
笑顔を浮かべ、英二はしばらく雪を眺めていた。
***
英二がキッチンへ行くと、アッシュはバドワイザーを飲みながら新聞を読んでいた。英二に気付くと彼は冷蔵庫からバドワイザーを取って英二に渡した。
「ありがとう――」
「なぁ、マックスは何の用でかけてきたんだ?」
「あぁ、今日のお礼とジェシカへのグチさ」
「げっ…電話に出なくてよかった」
「あははは……確かに出なくてよかったかも。マイケルも楽しかったって喜んでいたよ」
アッシュは英二がいつも以上にニコニコ笑って上機嫌なのに気が付いた。
「――おまえ、どうしたんだ?なんか変だぞ?」
「え? そう? いや……ちょっと嬉しいことがあったもんだから」
「嬉しいこと?」
「内緒だよ」
「教えろよ、気になるじゃないか」
「別になんだっていいだろう」
「ひどい奴だ、教えてくれたっていいじゃないか」
いつの間にか先日のやりとりの真逆になっていることに二人は気付いていない。
英二はバドワイザーを開けておいしそうに口に含んだ。
「シークレット・サンタ……楽しかったね。また来年もやりたいな」
「話を勝手にかえるなよ。マックスとの電話、随分盛り上がっていたじゃないか――質問に答えろ」
英二は声のトーンを落として静かに答えた。
「たいしたことじゃない。『メリケンサックの使い方』 についてマックスに聞いていたのさ」
「――は? お前がメリケンサックを? 何を言ってるんだ?」
まだ英二がメリケンサックを貰ったことを聞いていないアッシュは、喧嘩や戦いとは無縁の英二がメリケンサックを使う姿を想像できなかった。
「これから君が寝起きが悪いとき、これが役に立ちそうだ」
わざと意地悪く英二は微笑んだ。
「怖いなぁ、オニイチャン」
「へへへ、そうだろう? 年上を怒らせるなよな。 さぁ――もう一本飲むかい?」
そう言って英二はアッシュに冷えたバドワイザーを渡した。
「――はいはい。乾杯でもするか」
アッシュは受け取ってニヤッと笑った。
「そうだね」
「何に乾杯する?」
「うーん、それじゃ……」
英二もニヤッと笑った。
「「シークレット・サンタに乾杯!」」
缶ビールを軽く当てて、二人は乾杯をした。
「ところでアッシュ。君のシークレットサンタは誰だったの?」
「おまえこそ誰だったんだ?まだ聞いていねぇよ」
「そうだった。僕、すごいプレゼントを貰ったんだ!」
二人は楽しそうに自分たちのシークレット・サンタについて語りだした。
<終>