【クリスマス・オムニバス小説】シークレット・サンタ 第四話:それぞれのプレゼント | BANANAFISH DREAM

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ボーンズはピザをガツガツ食べているコングの背中を小突いた。



「ん? なんだよ、ボーンズ。このピザ、美味いぞ。お前も食うか?」



口いっぱいにピザをほうばったままコングは振り返った。ボーンズは首を左右に降り、窓際を指さした。そこにはアッシュとマイケルがいた。マイケルは自分が描いた絵の説明を一生懸命アッシュに話していて、アッシュはマイケルの肩に手を置いて微笑みながら頷いている。



「コング。おまえはボスのシークレット・サンタだったよな? だがあの子供がボスにプレゼントを渡したぜ? どういうことだ?」



「あぁ……まぁ、な」



コングの口が止まった。



「おまえ、あの子とくじを交換したんだな?」



ボーンズが問い詰めるとコングは困ったように目を泳がせていたが、観念したのかコクリと小さく頷いた。



「そうだよ。 くじを引いた日、あの子も来ていた。『どうしてもアッシュにプレゼントをあげたい』 って泣き叫んでいたから交換したんだよ。 それに俺、ボスに何をあげていいか分からなかったしな」



照れくさそうにコングは笑った。



「やるじゃねぇか、コング……それで、おまえは誰のシークレット・サンタなんだ?」



「あぁ、英二だよ」



「そうか、英二なら安心だな。 おまえってくじ運が強いのか? ボスやら英二やら……。英二には何をあげたんだよ?」




「あぁ、キャラメル味のポップコーンだ」



「……は? ポップコーン?」



「うまいぜ、俺の大好物さ!」



そういってコングは新しいピザを手に取った。



「あのなぁ、おまえが好きなもんあげてどうするんだよ? シークレット・サンタは相手が好きそうなもんをあげるんだぜ?」



ボーンズは呆れてため息をついた。



「そうなのか? 英二は喜んで受け取ってくれたぜ」



英二の性格を把握しているボーンズはため息をついた。



「ったく……ポップコーンなんて毎日お前が食っているもんだろうが。ほとんど毎日英二と会っているくせに……あきれたやつだぜ」



「へへ、そう言うと思ったぜ。 実はもうひとつプレゼントを渡したんだ。超クールだぜ」



コングはそういってウィンクをした。



「そうか、お前やるじゃん」



コングのことをのろまで呑気な奴だとボーンズは思っていたが、意外と気が利くじゃないかと見直した。コングは得意げに笑った。



「そのプレゼントはな、英二がリクエストしたものだよ。あまりにイメージ通りだったからあいつ、すっげー驚いてたぜ」



そういってコングは親指を立て、再びピザにかぶりついた。




    ***



一方、英二はコングからのプレゼントを開けて、思わず苦笑していた。



「ははは……」



「英ちゃん? どうしたの?」



困った様子の英二を見て、伊部が声をかけた。英二は頭を掻きながら箱を伊部に見せた。



「いやぁ…僕のシークレットサンタからプレゼントを二つも貰ったんですけど、ちょっと変わっているんです。一つはポップコーンで、もう一つは……。僕のリクエストの書き方が悪かったのかなぁ?」



そう言って英二はポップコーンを口に入れた。



「……? いったい英ちゃんは何をリクエストしたの?」



戸惑う英二を不思議そうに見ながら伊部は聞いた。



「えぇ。僕、体を鍛えたくてくじ引きに 『強くなれるアイテム』 って書いたんですけど、ちょっとうまく伝わらなかったようです……」



黒い革に鋭く尖った角のようなものが付いている。伊部は英二からそれを受け取り、指に当ててみた。



「もしかして……メリケンサック? これって凶器じゃないの?」



伊部は驚いている。漫画で見たことはあったが実物を見るのは初めてだった。英二がこのメリケンサックをつけて誰かと戦うところなど全く想像できなかった。



「ま、まぁ…もし強盗が入ったり危ない目にあいそうになったりしたら使えるかも」



きっと使うことはないだろうと思いながら英二はメリケンサックを箱を閉じた。



「僕はこっちの方が好きです」



そういって英二はポップコーンを口に入れて微笑んだ。その笑顔を見て伊部も思わず微笑んだ。



「そういえば……英ちゃんはマックスのシークレットサンタだったよね? 彼には何をあげたの?」



「マックスの 『悩み』 が減るように考えてプレゼントしたのですが…」



「彼の悩みって?」



英二は声のトーンを下げて伊部の耳元で囁いた。



「それはもうすごく深刻なんですよ。 マックスのリクエストは 『女房への慰謝料』 か 『幸せな一般家庭』 ですからね」



         ***




「マックス!これは何?」



ジェシカは甲高い声をだしてマックスが受け取ったプレゼントの箱を指さした。耳をおさえながらマックスはゆっくりと振り返った。



「なんだよ、うるせぇな…」



予想通り仁王立ちをして睨んでくるジェシカの顔は恐ろしくて見れなかった。マックスは少し視線をそらしてジェシカの様子をうかがった。



「説明してちょうだい。なぁに、これは?」



ジェシカが手にしていたのは離婚と慰謝料に関するハウツー本だった。



「なんなの、この本は? 『慰謝料ゼロの別れ方』 『恨みっこなしの離婚』って!」



本を持つ手が震えている。



「あぁ、それは俺のシークレット・サンタからのプレゼントだ」



「シークレットサンタ? いったい誰が、何のために?」



「英二だよ……俺がふざけて書いたリクエストを本気にしてこんなもん買ったんだよ」



マックスは恐々と答えたが、意外にもジェシカの怒りはあっさりと消えた。



「英二が? ふーん、じゃぁ仕方ないわね。あの子は真面目だし素直だから…あなたのジョークを疑わなかったのね」



落ち着いたトーンで話すジェシカを見て内心ホッとしていたマックスはつい余計なことを言ってしまった。



「おまえもアッシュや伊部と同じで英二には甘いな」



ニヤニヤ笑う表情が気に入らなかったのか、ジェシカは再び怒鳴り声をあげた。



「私は誰かさんと違って、素直で可愛げのある子が好きなの!何を調子に乗っていんのよ!」



「は、はい…ごめんなさいっ!」



(クソー、あとで英二にもらった本を熟読してやる…!)



謝りながら、マックスはもらったプレゼントがすぐに役立ちそうだと確信していた。




         ***



パーティーは無事に終わり、みんなそれぞれ帰っていった。空になった缶ビールやスナック菓子の袋があちこち転がっている。すっかり散らかってしまった部屋を見て、英二は苦笑した。



「英二、おつかれさん」



「たのしかったな――片付けは明日でいいか、今日は飲もうぜ。まだ冷蔵庫にビールが残っている」



「そうだな。飲みなおしたい気分だ」



「そういえば……君は伊部さんのシークレット・サンタだったよね、何をあげたの?」



英二が聞くと、アッシュはチラリと彼の顔を見た。



「なんだっていいだろう」



「ひどいなぁ、教えてくれたっていいじゃないか」



「ただの酒だよ」



「へぇ、そうなんだ!どんなお酒?伊部さんは何が飲みたいって書いてあったの?」



「――いや、そうじゃなくて……」



アッシュが戸惑っているその時、電話が鳴った。



<続> 次回最終です♪



     ***



コメディのような展開になってきましたね^^;)


英二とメリケンサックって全くイメージにないな…(笑)


マックス&ジェシカが再婚している設定で読んでもらえれば嬉しいです。


もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM


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