「英二! 何をしている!やめろっ!」
英二は自分自身にナイフを突き刺そうとした。慌てて英二の手首を持ち、アッシュはやめさせようとした。
「はなしてよ、アッシュ! 僕は君を殺したくなんてない……君を傷つけるぐらいなら僕は死ぬ!」
鬼と闘っていた英二はアッシュを殺せという鬼からの命令に抵抗しようと自らの命を断とうとした。
「馬鹿なことはよせっ!」
アッシュは英二の手首からナイフを奪い、放り投げた。
「あ……僕は……なんてことを!僕はなんて汚い奴なんだ!」
そう言いながら英二は床にペタリと座りこんだ。
アッシュは英二の頬に両手を添えて、不安に揺れる英二の黒い瞳をじっと見つめて思いのたけをぶつけた。
「ちがう! 英二いいかよく聞け、光と闇両方持っているから人間らしいんだ。ここ(香港)だってそうだろ?綺麗な所、汚い所があるから魅力的な街が出来ているんだ」
「……」
英二はじっとアッシュを見ている。
「もしも、もしもだぞ、オマエの心がけがれていたとしてもそんなの全然問題じゃない!オマエはオマエだ!オレはそんなオマエが丸ごと好きだ!大切な親友だ!」
そう言ってアッシュは震える英二の身体をきつく抱きしめた。抱きしめられた英二は、アッシュの温かい体温や彼の想いを感じた。
(こんな事をした僕を好きだと言ってくれるだなんて……)
英二の身体の震えがおさまり、ふっと脱力した。アッシュを殺さずにすんだこと、そんなことをした親友だと言ってくれる彼に心から感謝して涙した。
大人しく静かになった英二の背中をアッシュが心配そうになでた。英二は抵抗せず、アッシュに身体をあずけている。
(――あっ、体が軽くなった気がする……)
ようやく体が自由に動くようになった英二はゆっくりと顔を挙げた。彼の眼が再び輝きはじめたことにアッシュは気がついた。英二から邪気は全く感じられない。
「……本当に? アッシュ、こんな僕の事を嫌いになったりしない?」
「あたり前だ!!」
英二の顔がパッと明るくなり、いつもの温かい笑顔が戻った。
「ありがとう、アッシュ。嬉しいよ―――クスッ、それにしてもアッシュ、よくそんなクサイ台詞が言えたね?フフ……」
「なっ、なんだとー!!オ、オレはオマエを慰めようとしたんだぞ!!それをオマエは……この恩知らず!!」
「アハハハ、ごめんごめん、すごく嬉しかったよ!」
いつもの英二に戻っていた。鬼の呪いは完全に解けたようだった。英二の明るい笑顔を見て、アッシュはようやく安心した。
「こいつ――能天気だな!」
怒ったように言いながらも、嬉しくてたまらないアッシュは英二をもう一度抱きしめた。
「やっといつものオマエに戻ったな。明日は時間が空くからどこでも連れて行ってやるよ」
「うん、ありがとう。でも僕やっぱり早くNYに戻りたい。僕たちはNYが一番合っている気がするよ。アパートに戻って、皆の顔が見たいなぁ」
「英二らしいな……」
「なんだよ、それ」
「思ったこと、そのまんま言っただけ」
ふたり噴き出して笑ったその時、香港の夜空に幾すじもの光の帯が浮かび上がり、イルミネーションが煌めいた。
「「わっ……」」
さきほどまで振っていた大雨はいつの間にかあがり、香港の夜景が美しく輝いていた。
「何あれ?」
「花火?」
二人は窓辺に移動した。イルミネーションと同時にたくさんの花火がドーンと上がりはじめた。美しい香港の夜景に華やかな花火が立て続けに放たれた。
「何かのお祭りなの?」
「さぁ?俺にも分からないが……」
花火とイルミネーション、摩天楼の光が美しく光り輝いている。
「すっごいね!」
「綺麗だな……」
花火はクライマックスをむかえた。辺り一面が光に包まれ、花火の音が響いた。それと同時に英二は叫んだ。
「アッシュー、僕も君が大好きだよーー!!」
英二の叫び声は花火の大音量でアッシュには聞こえなかったようだ。
「何? 英二、何か言ったか?」
アッシュは聞き返したが、
「美味しい『ふかひれラーメン』が食べたいな、って言ったの!」
英二は誤魔化して笑った。
「安心しろ、明日食べに連れていってやるから」
「楽しみにしているよ!」
「オマエはいつでも食い気だな、アハハハ!」
「――えへへへ。あと、飲茶とマンゴープリンもはずせないな」
「そんなに食っていたらコングみたいに太っちまうぞ? 」
「失礼なっ!このっ!」
英二が枕をアッシュに向けて放り投げたがアッシュは見事にキャッチした。
「ほらよっ!」
投げた枕は見事に英二の顔面に当たり、ベッドに転がった。
「こ、この――!」
逆襲しようと英二が枕を取ろうとベッドにダイブした。
「おおっと!そうはいくか!」
アッシュも 枕を奪おうと同じくベッドにダイブした。
「負けるものかっ!」
高級ホテルで突然枕投げが始まった。二人はベッドに転がり、枕を奪いあおうとはしゃぎ始めた。それはNYのアパートでいつも行われる光景だった。
「アハハハッ!」
「まてよ――このヤロっ! ヘヘッ! 」
二人の笑い声が、輝く香港の夜空に響いていた。
≪終わり≫
★★★
≪おまけ≫
「あぁ、英二の呪いはもう解ける頃だ。知り合いの風水師に呪いを早く解いてくれるように頼んだよ。一時的に呪いが強くなるけどすぐに解けるって言っていたぜ」
電話で話していたシンはふと窓の外をみた。いつの間にか雨はあがり、夜景が輝いていた。そのことに気づいたと同時に、花火があがった。
「うわっ! ――若様、あの花火は……何なの?」
「二人に悪い事をしたかなぁと思ってさ……これもプレゼントさ」
「そっか……いいもの見させてもらったよ。でも、もうプレゼントはこりごりだよ。……またな、若様」
電話を切った後、自分の部屋から見える花火を眺めてため息をついた。
シンは一人、カヤの外で「ふてくされ」でていした。
「チェッ、あいつ等完全に二人の世界に入っちまいやがって…知り合いの風水師に呪いを早く解いてくれるように頼んだのはオレも協力したんだぞ!!」
シンは窓辺に移動した。
「面白くねぇー!!ばかやろっ!!」
花火のクライマックスと共にシンも大声で叫んだ。
≪おまけ終≫
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いかがでしたか? 読者さまとの共同創作、私はすごく楽しかったです。シンがちょっとかわいそうな気もしましたが…(笑)よければ皆さんのご感想を聞かせてください。そして共同創作希望の方がいらしたら、ぜひお声をかけてくださいね~。