シンは外の空気を吸って気分転換をしようと屋上に出た。
「おっ、晴れてるな――」
空は青々としていて雲ひとつない快晴だった。しかし、彼の気分は快晴の天気とは正反対だった。
(ラオ、俺やっぱりアッシュと闘えないよ。それに英二……あいつの事が気になって仕方ねぇよ。若様は英二の事が嫌いみたいだけど、俺はそうじゃねぇ――)
ボスならではの悩みに加えて、ショーターの死を巡るアッシュとの対決、英二への淡い想いが何なのか分からず、憂鬱な気持ちで空を眺める。すると屋上にある物干しに洗濯ものを干す英二を見かけた。
「英二じゃねぇか! あっ……」
シンは英二に話しかけようとしたが、その場にアッシュがいることに気づき、やめた。アッシュはシンが見ていることにも気付かず楽しそうに英二と話している。
(何やってるんだ?)
シンはしばらく二人を見つめていた。
英二は洗濯ものを干しながら話しているが、 アッシュは手伝おうともせずその近くに立ってニヤニヤ笑っている。そのうち英二が怒って両手をふりながらアッシュを追いかけ始めた。アッシュは楽しそうに英二に追いかけられている。
「何やってんだ? あいつら?」
その辺りにいる、ごく普通の少年らしい笑顔を見せるアッシュを見てシンは驚いた。
(ガキみたいに何をしているんだろう? それにしても楽しそうだな――)
「ふざけてないで、君も手伝ってくれよ――」
走り疲れて立ちとまった英二がシンに気がついた。
「……あ、シン! どうしたの? 」
その途端、アッシュの表情はいつも通り無表情に戻った。アッシュが心を開いているのは英二だけなのだとシンは今更ながら気が付いた。
「あぁ、外の空気を吸って気分転換しようと思って」
バツが悪そうにシンは答えた。
「――シン、仲間の様子はどうだ?」
アッシュがたずねてきた。
「あぁ、大丈夫だよ。みんなタフだし……英二が面倒みてくれているから……」
「そうか、英二にまかせておけば大丈夫だな」
「シン、良かったね。皆ちょっと元気出てきたよね?」
「そうだな。皆、英二をチャイナタウンへ招待したいって言ってるしな」
その言葉にアッシュの眉がピクリと動く。
「何? お前、そんな約束をしたのか?」
「いや、約束っていうわけじゃないけど……」
困ったように答える英二。
(アッシュ……怒ってるよな? へぇ、嫉妬したりするんだ……案外かわいいところがあるじゃねぇか……)
今まではアッシュを無感情でクールな人間だと思っていたが、そんな事はないと気づいた途端、アッシュを少し身近に感じることができた。
アッシュの表情が曇ったことに気づいたシンが少しばかりいたずら心を起こす。
「でも来るんだよな? 英二」
期待いっぱいの目で見られた英二は困ったように答える。
「まぁ機会があれば……」
「残念だな、シン。危険な所へ英二を連れ出すわけにいかないんだ」
アッシュがシンの申し出を断ろうとしたが、
「大丈夫! 俺が送り迎えをしてやるよ。これでもチャイニーズのボスなんだぜ。それにお前達が送り迎えすると逆に目立つからな」
英二がアジア人で良かったと思いながら、シンはやや強引に答える。
「……」
じーっとアッシュは英二の眼を見た。その眼は「いくな」と言っていた。
「な、何?」
だが、英二は気づいていない。
(よし、あと少しだ!)
「皆、英二に御礼がしたいだけだよ。誰かさんが面倒を英二にすべて押し付けるし……。英二、すげぇ頑張ってたもんな」
「ちょっと……シン!」
慌てて英二がシンをとめようとするがもう遅い。痛いところをつかれたアッシュは眉間に皺をよせた。
「ふん、――勝手にしろよ」
そう言ってアッシュは二人に背中を向けて、屋上から去っていった。
「アッ……行っちゃった……」
英二はため息をついた。完全にへそを曲げたアッシュの機嫌が直るには時間がかかるだろう。きっと子分たちはそんな彼をみてビクビクするにちがいない。
「もう、人が悪いよ。どうしてあんな事を言ったんだい?」
「――嫉妬させたかったから」
「嫉妬? どういうこと?」
(やっぱり分からないか。でも今はこれでいいや――。英二への想いもアッシュへの対抗意識なのか、憧れなのか良く分からないしな――。何より、アッシュに仕返しができたぜ……)
「何でもないよ。英二、今晩またお粥を作ってくれよ」
「別に構わないけど……味付けはどうする?」
「アッシュが食べたことのない味付けで」
「……?」
「あ、俺の仲間には食わすなよ。俺だけが食べるんだからな」
(そしてアッシュに自慢してやるんだ)
シンはほくそ笑む。
「じゃぁよろしく! それから……」
「それから?」
英二はシンの言葉を待った。
(英二に見られると……引き寄せられちまうぜ)
シンは一歩前に近づき、英二の前髪に触れた。
「……?」
(シン、一体何をしているんだ?)
「髪にゴミがついていたから……とったよ」
「あ、ありがとう……」
(ゴミなんて嘘に決まっているだろう……)
「必ず俺らのところへ来いよ。約束だぜ――!」
手をあげてシンは去って行った。
「……何なんだ? アッシュもシンも……変なの。まっいいか――」
事態が良く分からないまま、一人屋上に残された英二は洗濯物の残りを干しはじめた。
当分英二を巡るバトルは続きそうである。
<完>
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何となく中途半端で終わりましたが、それでいいのです(← ひらきなおり)。
英二って不思議ちゃんというか天然だけど、気づかいや優しさや癒しのオーラを持っていますよね。きっとチャイニーズやブラックにも気に入られると思うのですが……
。月龍みたいなひねくれ者には受け入れられないと思いますが……
。
おつきあい頂き、ありがとうございました☆(^^)