タコ焼きパーティー (後編) | BANANAFISH DREAM

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もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM




 たこ焼きはリンクス達に好評だった。つまようじを上手に使えないコングはたこ焼きをフォークに刺した。



「これ、めちゃくちゃ美味いな!」



 よほど美味かったのか フォークにたこ焼きを3つ突き刺し、まるで串焼きか団子のような状態である。3つずつ食べてはまた次のたこ焼きを刺し、テンポよく食べていく。



 一方ボーンズは、マヨネーズではなくケチャップとタバスコをつけている。



(なんだかちょっと違うけど……細かい事はまぁいいか。ははは……)



 食欲旺盛な子分たちに苦笑しながら英二はアッシュを見た。彼はつまようじを上手につかって食べていた。



「英二!食い足りネェよ、たこ焼きをもっと焼いてくれ!」



 コングは作ることよりも食べることに集中したいようだ。気が付けばすで焼いたたこ焼きが空になっていた。英二はボールに残った生地の量を確認した。



「OK、まだまだ生地はあるよ」


 再びたこ焼き作りを再開しようとしたが、アッシュが英二の腕からボールを奪った。



「あれ、アッシュどうしたの?」

「今度は俺にも挑戦させてくれよ。お前、まだ食べていないだろう?」



 そう言いながらアッシュは自分のたこ焼きを英二にやや強引に押しつけた。そして興味深そうに鉄板を見た。



「英二より上手に焼いてやる」



 にやつきながらアッシュはたこ焼きを作り始めた。



「……」


(――珍しいなぁ、アッシュが料理をするだなんて!)



 アッシュが料理をするところなんてほとんど見た事がない英二は内心驚いていたのだが、下手なことうぃうと機嫌を損ねてしまうので黙ってみることにした。



 彼は英二がたこ焼きを作る工程をちゃんと見たようで、初めてにしては手際よくたこ焼きを作り始めた。楽しそうに明るく笑うの姿を見るのが珍しいようで、コングとボーンズはたこ焼きよりもボスの顔をじろじろと見ている。


(ボス、すっげー機嫌よくねぇか?)


(そうだな、あんなに笑っているのを見るのは久しぶりだ)


 タコピンで生地をひっくり返すのに手間取っていはいたようだが、何度か繰り返すとコツをつかんだようで、アッシュは綺麗な形のたこ焼きを焼きあげた。



「ほら、できたぞ!」


「わぁ――アッシュ、ちゃんと作れたじゃないか。はじめてでこんなに綺麗に焼けるだなんて……君、すごいね」



 英二に誉められてアッシュは少し照れくさそうだった。



「そうか? 英二のたこ焼きに比べると少し固い気がするけど。やっぱりお前が作った方が美味い」



「僕はこれぐらいの固さの方が好きだよ。うーん、美味い!君って本当に何でも出来ちゃうんだな……すごいよ!」



 そう言って英二は美味しそうにほおばった。



「……誉めすぎだよ。そんなこと言っても後片付けは手伝わないぞ」


 英二の言葉と笑顔に完全に照れてしまったアッシュはプイっと横を向いてしまったが、その表情は怒っておらず、いつもより子供っぽい。恥ずかしさをごまかすためにわざと素っ気なくしているのは明らかだった。



「「……」」

(ボス、照れているのか? まじかよ!可愛いじゃないか)



(あんな顔をみるのは初めてだ! 明日、仲間に言ってやろうっと!)



 コングとボーンズの考えはボスにお見通しだったらしくアッシュは二人をジロリと睨んだ。


「なんだよ?」



「「いいえ、なんでもないです、ボス!」」





  ***





 大食いのコングがいるせいで、あっという間にたこ焼きが無くなってしまった。
 


「よし、まだ生地があるから次を焼くか!」



 英二は手際よく焼き始めたが、ニヤニヤと怪しく笑っている。



(何を笑っているんだ――何か企んでいるな?)



 アッシュは英二が悪だくみを考えている事に気が付いた。



「焼けたよ――好きなだけ食べて! でも一つだけ激辛だから気を付けろよ!」



「激辛? 何をいれたんだ?」



「ハバネロだよ。ロシアンたこ焼きゲームさ!」



「げぇっ! まじかよ?」


「ありえねぇ!」


 コングとボーンズが文句を言った。

「面白そうだろう?僕もやるよ!誰に当たるか楽しみだ」



 そう言って英二は適当にたこ焼きを皿に入れた。



「どれが激辛か、分からねぇよ」



「分からないから面白いんじゃないか。僕も食べようっと!」



 英二はたこ焼きを口の中に放り込んだ。



「うっ!!」



 英二は自分で食べたたこ焼きが激辛だった。



「辛い! 辛いよ――うえぇっ!」



 あまりに辛くて瞳から涙がポロポロと流れ落ちた。



「ばっかだなぁ、英二!」



「お前、自分で企んでおいて自分が撃沈するのかよ……」



 コングとボーンズは完全に呆れかえっていたが、アッシュが素早く動き、氷水の入ったグラスを手渡した。



「何やってるんだよ、ほら、水を飲め……大丈夫か?」



「うん、ありがとう――ごほっごほっ!」



 急いで水を飲んだが、器官にはいってしまい 英二は苦しそうに咳き込んだ。



「おい、落ち着けよな……」


 

 アッシュはそう言って英二の背中をトントンと叩いてやった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」



 先ほどから ボスが英二を気遣って自ら行動していることに子分たちは何度も驚かされた。



 もし 熱々のたこ焼きや 激辛たこ焼きを食べたのが 英二以外の人間だったなら、絶対にアッシュはこんな事はしないだろう。せいぜい「バーカ、何やってんだ」と冷たく言うぐらいだ。



 背中を優しくそっと叩いて甲斐甲斐しく世話をするその姿や、いつもより何十倍も柔和な表情のボスを見て、アッシュにとって英二は本当に大事な存在なのだと感じられた。

 ふだん決して見れないボスの一面をコングとボーンズは見たのだが、勘のよい彼らはこのことは黙っておいた方が身の為だと思い、それぞれの胸にしまっておくことにした。



<完>



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ささやかな日常からアッシュが英二を大事にしていることを伝えたかったのですが、たこ焼きを誉めあうところは 「のろけている新婚夫婦の会話」のように思えて、笑いながら書いていました。