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「――アスラン、――アスラン……」
懐かしい声が遠くから聞こえてきた。アッシュはその声に聞き覚えがあった。
(あの声は――グリフィン? まさかそんなはずがない……)
やさしい兄の声――アッシュはかつて兄の大きな手の平で頭をなでられたことを思い出す。
「おーい、アッシュ! ――アッシュ!」
すると今度は騒々しいだみ声が聞こえてきた。アッシュはその声にも聞き覚えがあった。
(あのやかましい声は――ショーター? でもあいつは、俺が……)
アッシュのことをかつて本気で叱ってくれた親友のはげ頭とサングラスを思い出した。彼はアッシュにとって数少ない信用できる友人だった。
(あぁ――きっと俺は夢を見ているんだな。それかあの世に行っちまったのかもしれないな……)
そんな事を思いながら、アッシュはゆっくりと目を開けた。確認するのは少し怖かったが、懐かしい二人の声を聞いてむしょうに会いたくなったのも事実だ。
あたりは深いグレーの世界だった。現実なのか夢なのかはよく分からなかった。
「グリフィン? ショーター?」
アッシュは二人の名前を呼んだ。
するとぼんやりグリフィンの姿が目の前に浮かんできた。
「――アスラン、大きくなったな……。お前の事、ずっと心配していたよ。そして世話になったな……久しぶりに会えたのに、俺はあんな姿になっていたから――お前はショックだっただろう……?」
兄のグリフィンに出会えたことにアッシュは感激する。しかもバナナフィッシュを投与される前の、アッシュの記憶のままの優しい兄の姿だったことが何よりも嬉しかった。
「グリフィン――、俺は昔のままの兄さんにずっと会いたかったんだ……。兄さんと話したいことが、山のようにあるんだ。本当に……」
壮絶な経験をしながら残酷な世界を生き抜いてきたアッシュにとって、兄のグリフィンとの想い出は宝物であり、全てだった。軍隊に入り、ベトナムへ行った兄といつか再会したいと辛い思いをしながらも懸命に生きてきたのだ。それなのに現実は悲惨だった――変わり果てた兄の姿を見た時、希望は崩れ去った。
もう昔のグリフィンに会う事はできない――そう覚悟した。
「アスラン、俺もお前に会いたかったよ。ベトナムでもお前を忘れた事はなかったよ……」
「本当に? 」
「あぁ……本当だ」
グリフィンは昔のようにアッシュのあたまを撫でてくれた。グリフィンの体温を感じ、アッシュは安心する。兄の手の平を手にとってじっと眺めた。
「どうしたんだい?」
「温かい……本物だ……」
「当たり前だろう? おかしなことを言うんだな」
アッシュはグリフィンの手の平を自分の頬にあてた。なぜそうしたのだろうか――。
兄の愛情は本物だと信じられる。今まで欲しかったものを受け取りたかったのかもしれない。
「もう少し、このままでいさせてくれよ。グリフィン兄さん……」
「あぁ、いいよ。……おい、泣いているのか?」
グリフィンの手にアッシュの涙が伝う。もう片方の手のひらでグリフィンはアッシュのあたまを撫でた。
「何だよ……俺は……子供じゃねぇぞ――」
拗ねながらアッシュは兄を睨んだ。
「俺にとっては子供みたいなものだよ。年も離れているしな――ハハハ……」
兄は明るく笑った。その笑顔は確かに兄そのものだけど、誰か他の人の笑顔のようにも感じられた。
<続>
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新年初の連載スタートです。今回はある読者さまのリクエストを参考に、少しだけ内容と設定を変えて創作しました。3話完結予定です。