本格派投手、技巧派投手の定義に関する考察 | Peanuts & Crackerjack

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【はじめに】


投手をその投球スタイルによって分類した呼び名は非常に多く存在します。

本格派、技巧派、速球派、軟投派、、、、、、

ただし、それのいずれをとっても問題なのは

① その定義が非常にあいまいであること

② そのスタイルが結果や成績として客観的データのどの部分に如実に反映されているかが不明確で

  そのスタイルの中で一流投手として成長し、継続して素晴らしい成績を残すために
  客観的データのどの部分を重要視し、そのために具体的に投手が何を最優先事項として
  重点的にのばし、また逆に改善していくかの道程が明確に確立されていない


この2点が挙げられると思います。

ここでは、こういった課題を克服していくための一歩として

投手を三類型に分類し、定義づけをおこない特長を明らかにするとともに
“主に先発投手として”それぞれのスタイルで継続して素晴らしい成績を残していくために
その“投球の軸”として最優先に重要視すべきことは何かを考察していきたいと思います。

なお、この考察は主に近年のライオンズ投手たちの投球を観察し分析し続けた結果に拠るものであり
ライオンズとの対戦を通じて多少は他のパ・リーグ投手たちの投球をも観察し分析したりもしておりますが

その他チーム所属の投球の情報量は(特にセ・リーグに所属する投手に関して)
圧倒的に限られたものであり、まだまだ大きく改善すべき点があるということ、

つまりは今日ここで挑戦する定義づけは
投手の投球スタイルを明確に客観的データで分類していくための
第一歩、叩き台であるということは予めお断りさせていただきたいと思います。


【投球スタイルの三類型分類とその定義づけ】


■ orthodox strikeout pitcher(本格派奪三振投手、または本格派エース)■

  先発投手ならばQSをクリアしてくるなどの素晴らしい投球を魅せるゲームにおいて、
  その奪ったアウトの大部分のうち数多くを三振が占める投手

■ orthodox groundout pitcher(本格派グラウンドアウト投手)■

  先発投手ならばQSをクリアしてくるなどの素晴らしい投球を魅せるゲームにおいて、
  その奪ったアウトの大部分のうち数多くをグラウンドアウトが占める投手

■ crafty flyout pitcher(技巧派フライアウト投手)■

  先発投手ならばQSをクリアしてくるなどの素晴らしい投球を魅せるゲームにおいて、
  その奪ったアウトの大部分のうち数多くをフライアウトが占める投手

  (※ここでフライアウトとは、エアアウトのうち
    外野フェア領域に到達した飛球を外野手が処理したものを指します。以下同じ定義です)

さて、簡単に補足説明を施していきます。

① 本格派と技巧派をわける基準について

   上述しましたように、本格派はそのアウトの大部分を三振もしくはグラウンドアウトで奪う投手で
   逆に技巧派とはそのアウトの大部分をフライアウトで奪う投手のことと定義しました。

   これは、HR/FBという、外野フェア領域に到達したフライボールの総数に対する総本塁打数の割合が
   統計的に投球回が多くなっていけばいくほど投手ごとにほぼ一定の範囲に収束するというデータに拠るものです。

   (※NPBでは全体としてこの値が8~9%程度というデータが残っており
     ちなみに2010年度は9.24%なのに対し、2011年度は9/1までで6.16%と
     統一球や広いストライク・ゾーンなどの影響もありかなり低い値に留まっています。

     なお、参考にさせていただいたデータはこちらになります。また、このデータにおいて
     “外野フライ”とはファウルフライアウトをも含めた外野に飛ばされたフライの総数を指すため
     多少ここで定義するHR/FBの値よりは低くなっております)

   つまり、大部分の投手にとっては概ねフライアウトを数多く奪うということは
   それだけ大量失点を招きかねない本塁打を浴びる可能性が高まるということで
   つまりはそれは非常に危険な兆候であるということがあり

   だからこそ本格派-つまりorthodox(オーソドックス、正統な)-投手にとっては
   三振やグラウンドアウトを数多く奪いつつイニングを順調に重ねていかない限り

   最少失点にまとめつつ長いイニングを投げていく素晴らしい投球は非常に困難であるのに対し

   逆に技巧派-つまりcrafty(様々に打者を騙し翻弄する球種、投球術に優れた)-投手
   打者が“これは確実に痛烈に打ち返し、結果を出すことができる甘い球”と判断し
   積極的に打ち返していった投球において数多くの微妙な打ち損じを誘発し

   結果数多くのフライアウトを数多く奪っていきながらうまく最少失点にまとめつつ
   イニングをどんどんと消化していく素晴らしい投球を魅せることができるということです。

② 奪三振投手を“エース”と定義する理由

   こちらに関しては、感覚的にもかなり理解していただきやすいことと思いますが
   統計的にもBABIP(Batting Average Balls In Play)という

   どんなに“うまく打たせて取る”スタイルの投手であろうとも
   打者に(本塁打を除き)フェア領域に打球を打ち返されると

   その打球がアウトになるか、それとも出塁を許すかといった“結果”に関しては
   チーム守備陣のフィールディングの巧拙や、そして“ひとにぎりの運”といった
   その投手の力の及ぶ範囲ではない要素が大きく働くという分析があり、

   つまりは逆に打球を前に、フェア領域に飛ばされることがない三振を奪ってアウトを重ねれば

   ヒット、HR、そして失策や野選などをも含めた出塁を許す可能性を根元から断つことができ
   その他のスタイルの投手に比べ、特にスタイル通りに好投を魅せている時に
   明らかに失点、そして自責点をかなり低く抑えることができ

   それが相手投手もそのスタイル通りの素晴らしい投球を展開し
   自分も含めた両チームの投手がみごとQSをクリアしてくる投手戦の中で、

   また特にエース対決の中でそれでもチームに勝利をもたらしながら
   自らの勝ち星を稼いでいくためには三振を数多く奪うということは極めて重要であり

   またそれでこそチームの“エース”と呼ばれる投手だから、ということです。


【スタイルに関わらず、どの投手にとっても共通して重要な要素】


どんなスタイルの投手であっても、もちろん技巧派フライアウト投手であっても
変わらずに重要なのはやはりその本来の、持てる最高のスピードとスピンとを併せ持つ速球
制球よく、思うように数多く駆使していき、また常に改善し向上していくこと。

過去記事でも何度も触れている通り、どんなに器用な投手であろうとも
制球を重視したり、力を終盤にとっておこうとするがあまりに

腕を振っての最高の速球をゾーンに大胆に投げ込みつつ、
その上である程度自分の思うような制球をも両立するのではなく

まずは制球を最優先に、抑えた速球を数多く駆使していくという投球は
数ゲーム、いや数シーズンにわたって通用することももちろんありますが

それは打席を重ねられ、球の軌道を何度も目に焼き付けられ、そして研究が積み重なるにつれ
必ずみごとに弱点を暴きだされ、うまく攻略されていき

長年にわたって“一流”と呼ばれる素晴らしい成績を継続して残すことは
非常に難しいということです。

なお、針の穴を通すかのような制球を求めすぎることなく
常にその持てる最高の投球をゾーンに大胆に投げ込みつつどんどんと勝負し続けながら

四死球をできるだけ減らしていき、なおかつ本塁打をも減らしていくこと
どんな投手にとっても共通して重要な課題、要素であることは言うまでもありません。


【スタイル別にみる、投球の軸・ポイント】


それでは、上述のようにその本来の、持てる最高のスピードとスピンとを併せ持つ速球を
制球よく、思うように数多く駆使していき、また常に改善し向上していきながら

四死球や本塁打を減らしていくことは
どんなスタイルの投手であろうとも共通して非常に重要な土台、前提であるとして

その他に、スタイル別に投球において重要なことは何なのかを見ていきたいと思います。

■ orthodox strikeout pitcher(本格派奪三振投手、または本格派エース)■

  その最高の速球を含めて、最低3つのout pitch(勝負球)を持ち
  球種を絞られやすくされないようにその3つの球種を

  どれひとつ欠かすことなくバランス良く制球よく、そして
  その素晴らしい精度を維持しつつ縦横無尽に駆使し続けること。

  もちろんDarvish投手のように、素晴らしい精度を誇る勝負球を
  3つとは言わずそれ以上多彩に数多く誇る、超一流の本格派エース投手もいますが

  基本的にエースの最低限の必要条件、という意味で見れば
  勝負球はその持てる最高の速球に加え変化する方向の異なる他の2つの球種という
  最低限3つこそがその投球を支える重要な軸であるということであって

  だからこそ、これから長年にわたって素晴らしい成績を継続しつつ
  エースとして相手攻撃陣を圧倒するような投球を魅せていくことを目標とする若い投手たちは

  もちろんDarvish投手をその憧れとして、目標として
  参考にし、真似をしていこうとすることは当然素晴らしいことなのですが

  その投球を支える、軸となる素晴らしいスピードとスピンとを誇る速球やスライダー等を
  自分が身につけることは“才能的に”非常に難しいとその部分は早々にあきらめ

  その代わりにその何種類あるかわからない数多くの多彩な球種群やその技術ばかりに
  どうしても若い投手たちが目を輝かせ飛びついてしまいやすいということは

  かえって投球の軸を見失わせる、余計な廻り道をしてしまうため
  非常に注意すべき点であるということは忘れてはいけないことでしょう。

  勘違いしてはいけないのは、例えば2009年の日本シリーズ第2戦で
  Darvish投手がジャイアンツ相手に魅せた

  故障しながらでも本来よりおちる速球と球速差のかなりあるカーヴとを軸に
  素晴らしい成績を残すことに成功した非常に器用な投球は

  決してDarvish投手の投球を長年にわたって支える投球の軸などではなく
  それはどちらかといえば軸が、土台がしっかりとあった上で

  その投球に彩りを添え、なお魅力的な投球に装飾していくスパイス、脇役にすぎないもので

  もしその投球をリーグ戦で、継続して展開していけば
  必ず対戦チーム攻撃陣は打席を数多く経験し、軌道を目に焼き付け研究を重ね

  時間はかかったとしても攻略していくことはじゅうぶん可能だったということ。

  そういった意味で、エースを目指す若い投手たちはどちらかといえば
  杉内投手や和田投手といった、速球をその球速表示以上に打者たちに体感させる工夫などを重ね
  球種の少ない中で三振を数多く奪いエースとして長年活躍し続ける、

  どちらかといえば不器用にその少ない勝負球を
  その投手独自のものとして磨き続け、向上させ続ける投手たちこそ

  まずは目標として設定し、その投球の真髄を盗んでいく
  対象とすべきではないかと思います。

■ orthodox groundout pitcher(本格派グラウンドアウト投手)■

  目を見張るような素晴らしい、三振を数多く奪うことが可能な勝負球を
  複数持たない、主に若い投手に多いのがこのスタイルの投手。

  まだまだキャリアも浅く、大ヴェテランのように
  豊富な球種や打者のタイミングを外す投球術をも持たない投手にとって

  避けて通れない投球の基本であり最も重要なことは
  まずはその持てる投球をどんなに緊迫の場面であっても
  変わらずに恐れずに自信を持って大胆にゾーンに投げ続けることであり

  その土台の上で

  ① ゾーン内からゾーン外へと大きく変化していく球種よりも
    変化量は少ないがゾーン内で留まって鋭く変化し、打者の打ち損じを数多く誘発する
    いわゆるmoving fastball(動く速球)系の球種を複数持ち、その投球の軸とすること


  ② 外野へ到達するフライアウトをできうる限り防いでいくために
    ゾーンの低めへ意図した投球は高確率で低めへ到達する制球を磨いていくこと


  この2点が非常に重要になってくるでしょう。

■ crafty flyout pitcher(技巧派フライアウト投手)■

  基本的にこのスタイルの投球は上述したように非常に高度な技術を要するものであって

  以前は本格派エースや本格派グラウンドアウト投手の投球を長年にわたって魅せ続け
  活躍し続けてきた投手たちがその中で数多くの修羅場をくぐりぬけ経験を積み、

  試行錯誤の中で成功と失敗を重ね進化し続け、今や大ヴェテランの域に達しつつある時に
  豊富な微妙に軌道や球速の異なる球種を、そして打者のタイミングを外す投球術を駆使し

  打者たちがこれは外野へ痛烈なラインドライヴの飛球を打ち返せる甘い投球だと判断し
  積極的に早いカウントから打ち返しにいったのにもかかわらず

  結果うまくバットの芯を少し外され、打球が数多くポップフライに近い
  野手陣にとって捕球しやすいフライアウトになってしまうという投球をさします。

  ただし、この投球は打者たちがその術中に見事にはまり
  早いカウントから凡打を繰り返してくれているうちはいいのですが

  その投球術に気づき、徹底して忍耐強く闘い続ける打席を創られ続ける
  とたんに球数がかなり増えていく苦しい投球が続いていき、遂にはとらえられ

  痛打を数多く浴びせられるという危険ともかなり近い投球であることは確かで
  そんな時にはゲームの中盤から終盤にかけては救援陣の力を借りることが多く

  チームの勝利のためには、他のスタイルの先発投手登板時よりも
  そのチームがどれだけ優秀なブルペン陣を整備できているかが非常に重要になってきます。

  ですから、このスタイルの投球は基本的に大ヴェテランの独擅場であり
  なかなか若くキャリアの浅い投手たちがスグに、ダイレクトに目指すべき投球ではなく

  彼らはまずは本格派エースもしくは本格派グラウンドアウト投手を目指すべきです。

  ただし、牧田さんは下手投げというとても貴重な、独特な特長をもち
  またNPBデビューが26歳と非常に遅く、それまでのアマチュアでのキャリアにて
  多彩な球種と打者のタイミングを外す投球術とを自分のものとし、磨き続けてきたのですから

  もちろん安定して長いイニングを消化できる本格派グラウンドアウト投手の投球をも目標にし
  数多くのグラウンドアウトを奪っていきながらNPBでのプロのキャリアを積み重ねていきつつも

  ルーキーではありますが例外的に直接、技巧派フライアウト投手スタイルをどんどんと磨き交え
  完成させていくことをも今から大きな目標としていくことが可能ですし、
  またそうしていってほしい投手ではあります。

  ただし、以前も指摘した通りそういった豊富な技術は
  あくまで脇役・スパイスとして駆使しているうちは非常に効果的なものですが

  どんなに緊迫の場面でも恐れず大胆に、ゾーンにその最高の速球を軸にどんどんと投げ込むという
  例え技巧派投手であっても欠かすことのできない投球の基本ができていない
  苦しい投球の中で頼りすがって駆使したとしても

  特に相手打者が数多くの修羅場をくぐってきた大ヴェテランであればあるほど
  その技術は逆に弱気のあらわれと早々に見抜かれ、まったく効果を示さないどころか

  かえってその心理を見抜かれ、結局は散々な結果を招くものでしかないということは
  決して忘れてほしくない重要なポイントです。


【付記】


以上、私が今までライオンズの主に先発投手陣を観察し分析し考察し続ける中で
その投球をいくつかの類型に分類し、定義づけをおこない、そして

それぞれの投球の特長や必要条件となるものは何なのかを考察し続けたものを
文字として論理的道筋を、順序を追って整理し、まとめた記事となります。

もちろん上述した通りまだまだ情報は圧倒的に不足しており
この定義づけに関しても更に数多く改善すべき点が多いだろうことは容易に予測されます。

ただ、どこまでいっても完璧な分類、定義づけといったものは不可能であって

要はその投手がそれぞれ本来の素晴らしい投球ができているかを測る指標として
“アウトをどうやって奪っていくか”という明確なデータから見えてくる客観的な定義づけを施し

それを土台にして投手たちが余計な廻り道をすることなく
まっすぐに、地道に一歩一歩その“王道”を進んでいけるようになっていく

ひとつの助けになってほしいという動機からスタートした
あくまで第一歩として、叩き台としてのものであるということは再度お断りしておきます。

今後も更なる客観的な、より真実に近づく定義づけ、考察に少しでも近づいていくため
数多くの投手の投球を注意深く観察し続け、そして残した成績を客観的なデータとして
分析し続け、また考察を施し続けていきたいと思います。