わが子に伝えたいプロフェッショナリズム ■書評■ 『心の野球―超効率的努力のススメ』 | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

わが子に伝えたいプロフェッショナリズム ■書評■ 『心の野球―超効率的努力のススメ』


高校野球時憧れの甲子園で通算20勝をあげ、ひと騒動あったドラフトを経て入団した読売ジャイアンツでは21年間にわたって「18番」を守り、大リーク引退後、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を主席で卒業……。

そう、桑田真澄さん。
野球外のことなども絡んでダーティーなイメージがついた時期があったし、プロ野球選手としてもベテランの域に入った後半の数字が今ひとつだったために、若い人の間ではあまりいいイメージがない、あるいはそもそも関心のもたれ方が低いかもしれない。

だけど、僕らくらいの年代だと、彼に対してヒーローのイメージを持っている人も少なくないだろうし、どちらかと言えば僕もその一人だ。
野球ゲームでは常に桑田を先発に選んだし、あの投げ終わった後に帽子が少しずれるさまとか最高にいい雰囲気だった……って、そんなゲームの話をしても仕方ないか(汗)

だが、大人になったいまは、ヒーローと言うよりも、むしろ「プロフェッショナル」として注目したい方であり、僕の中では「プロフェッショナル」を具体的に思い浮かべた際に名前が浮かぶうちの一人として、考え方などに大変興味がある方だ。
そんな桑田さんの原体験である一つの事実を本書で知って、僕の関心は大いに高まった。

早生まれの辛さ: 小学生時代は4月1日の早生まれということもあり、先生の言うことが理解できない、勉強もできない落ちこぼれだった。(p.16)

え? あの甲子園のヒーローだった桑田さんですら、小学生時代は早生まれとしての遅れを実感していたのか……という驚き。
わが子も3月19日の早生まれであり、同級生になるような子たちと比べると、勉強面は分からないけれど、運動面ではやはり親としては不安を感じていたりするから…。
そりゃあ、そうだよ。
うちの子がまだ妻の体内に影も形もない時に生まれた子、うちの子が生まれ出たときには既につかまり歩きをしていたような子と同級生なんだから。
※ この辺は『天才! 成功する人々の法則』などに詳しいので、ここでは深くは触れない。

だけど、桑田さんは中学に入り、あることに気がついたことでその後の人生が大きく変わっていく。
それは「努力の楽しさ」だった。

もともと自分の桑田さんに対する関心・憧れから手に取った本書だが、ちょっと読み方を変えて「早生まれのわが子に伝えたいプロフェッショナリズムの3つの精神」を意識してみたい。

1. 努力

僕自身は「努力」しているつもりなのだが、周囲にはあまりそう見られないことが結構あったりする。
「いや、努力してるって」なんて言ってきたけれど、なんなんだろうなあ…と思っていた。
多分、僕があまり辛そうに見えるタイプじゃないからそう言われてきたんだろうと思う。
実際には辛い思いもしているし、内心はいろいろあったのだけれど……。

超効率的努力: この本で僕が伝えたいことは二つある。一つは「努力」という言葉の解釈だ。タイトルにあるとおり、僕は「超効率的努力」で自分のキャリアを形成してきた。(p.4)
 派手なエピソードに惑わされてはいけない。
 決して量ではない。よくいわれるような汗と血の結晶がプロ野球選手を生むわけではない。
 一番大事なのは質だ。(p.6)

桑田さんのこの断言によって、僕の中のもやもやは吹き飛んだ。
そう、「努力」という言葉の裏には「(辛そうに見えるほど、辛いのを我慢して)頑張っている」という意味が暗黙の了解のようにつけられていたのだろう。
だからこそ「努力」を礼賛するようなタイプの人には、がむしゃらに頑張る姿が好きという人が少なくない。

個人的には体育会系のノリとか嫌いじゃないけど、でも、それって意味がないわけで。
同じ結果、より良い結果を出すために、効率よく「努力」した方が絶対にいい。
そう思っていても、自分は声を大にして主張することができなかったんだなということに気がつく。
正しく、楽しい「努力」をわが子には知ってもらいたいし、してもらいたい。

努力こそ成長の源でありエンジンだ!:  気づく人と気づかない人。それだけで大きな差が生まれてくる。
 この「気づく」というのは準備をしっかりしていれば身につく。その準備で一番大事なのは努力。努力していない人には、誰も力を貸してくれない。でも、努力、努力、努力を重ねている人は、突然気づけたり、ポーンと突き抜けたりする。(p.149)

もちろん、ここでも正しい「努力」でなければ意味がない。
逆に言えば、こうしたことをもたらさないような「努力」であればする意味がないわけで、間違えちゃってる人に対しては、桜井章一さんの『努力しない生き方』なんかも大いに参考になるはずだ。

2. 諸行無常

これ、堀江さんなんかも言っているし、チベット仏教のスマナサーラ氏も説いている思想。
桑田さんからは仏教的な匂い(?)がするので「ああ、なるほどね…」とすんなり合点がいく。

無常観: 世の中には、永遠なものはない。
 家族、友達、命、財産、何ひとつ変わらないものはない。
 ゆえに、一瞬一瞬を精一杯生きたい。(p.80)

何も特別なことは言っていないと思うのだけれど、なんだか妙に心に刺さって、普段から見返すモレスキンノートに書き写した言葉の一つだ。

一瞬、一瞬を感性を研ぎ澄まして生きていくということは、要は日々是精進、みたいな感じかなと。
そして、だからこその「努力」だとも。
何もかもが永遠じゃないということは、良い意味でも悪い意味でも「今の自分」だって永遠に続くわけじゃない。
「努力」を続けていかなければ悪いほうに変わってしまうし、「努力」を続けていれば良いほうにだって変われるんだと。

幼いわが子にはまだ難しいか…… いや、僕にだって難しいけど。

3. マイペース

プロ野球時代の桑田さんの練習法や調整法から感じるキーワードの一つ。
ただ、せわしない現代にあって他人から「マイペースだよね」と言われるのは必ずしも褒め言葉になっていなくて、えてして「空気読めないよね」とか「自分勝手だよね」というネガティブな含みを持つことが多い。
もちろん、ここで学びたいのはそういう意味でのマイペースではない。

大切にしたい価値観: 僕は、周囲の人にとって格好いいことをするために生きているわけではなく、自分が充実した人生を送るために生きているわけだから、自らの価値観を大事に、マイペースでいくことが大事だと思う。(p.215)

これは、明らかに落ち目になっていた桑田さんがメジャー挑戦、現役続行を選択していたときのことを振り返りながら書かれていること。
正直、そのときは既に野球というスポーツに関心がほとんどなくなっていた僕でさえも、「桑田、もういいじゃないか…」と思ったものだ。
(落ちていくかつての僕のヒーローを見たくないという気持ちだ。)

しかし、それは違った。
桑田さんは、自らの信ずる信念・哲学・価値観にしたがって、誰にどう見られるかを基準に置かない選択をしていただけ。
こうやって選んだ道ならば、きっと後悔などないはずだ。
僕は幸い自らの選択を後悔するような事態には陥っていないのだろうけれど、桑田さんを見て「もういいじゃないか…」と思ったということは、自分がそうなったときに周囲の評価を気にして中途半端な選択をしてしまっていたかもしれないわけだ。
やっぱり「桑田△」だ。
僕も自信をもってそんな選択をしていけるためにも、日々の「努力」を怠れない。


「わが子に伝えたい」という内容をピックアップしてみたが、それはとりもなおさず、僕自身に言い聞かせたいことでもあった。
「わが子に伝える」ということは、結局、父親が自分自身の身をもって、行動でもって示していかなければいけないということなのだ。

「プロフェッショナル」を目指している、あるいは標榜しているビジネスパーソンには是非お薦めしたい。
また、子どもに背中で生き方・人生の哲学を示していきたいと考える父親たちにも。


■ 関連リンク

著者ブログ: 桑田真澄オフィシャルブログ


■ 第63回書評ブロガー達が勝手にインパク本レビュー

本レビューは本魂!(ホンダマ)が企画したイベントへの参加であり、同じくイベントに参加しているブロガーの方々のレビューは以下のとおり。
是非、それぞれのブロガー独自の視点を比べて楽しんでもらいたいが、さらに、本書をお読みいただき感想を聞かせていただけたら、非常に嬉しい。

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■ 基礎データ

著者: 桑田真澄
出版社: 幻冬舎 2010年6月
ページ数:295頁
紹介文:
がむしゃらな努力は無駄だ。一心不乱に根性だけで練習に没頭したことは一度もなかった。やるべきことを精査し効率性を重視しながら、練習を積み重ねていた―。日々、闘う全ての男たちに捧ぐ、努力の天才が辿りついた「成長の法則」。そして、はじめて言及する盟友・清原和博との関係と、引退の真相。小さな大エースの全思考全感覚を凝縮。

心の野球―超効率的努力のススメ
桑田 真澄
幻冬舎
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