それはトラウマの克服と言うのか | あわじのメモノート

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日々のつれづれをぼちぼちと

私が5歳の頃であったでしょうか
夕食にホタルイカの煮つけが出ました

小さいながらに丸まんまのイカのかたち(当然です)
目玉もついていて……不気味な一品と我が目に映りました

さて頭をよぎるは
食に限らずですが厳格にしつけをする父
このはるかに高い城壁をなんとか突破して
「不気味な小型イカ」を口にすることだけは回避せんと足掻きます

当時の私が導きだした精一杯の文句は
「イカさんまるまる煮られてかわいそうだよ……食べるのやめようよ……」
というものでした

即座に妹が反応しました
「兄さん食べないの?美味しいのに……私がもらう!」
希望の光がさしました!!

しかしその瞬間
「М(妹)、だめだよ」
父のことば
そして
私への視線

……私のイカスミよりもどす黒いエゴと偽り・けがしごとを見抜けぬ父ではありません
「S(私)、きちんと食べなさい」

私の退路は完全に断たれました
もし最初より「ホタルイカ嫌い……」
と正直に言っていたならば父の反応ももういくぶん穏やかだったことでしょう

私が愚策弄するうちにスッカリさめてしまったホタルイカの煮つけ
冷たい涙の味しかしませんでした


それから30年
私は家内の実家での生活を始めました
国民的マンガ作品「サザエさん」の夫である「マスオさん」にならうごと
義父義母との関係も徐々に深めつつ行けようかという春のある日

食卓に小さなイカの煮つけが上がりました

30年前の「ホタルイカ事件」のことを先に聴いている家内
その眼前でトラウマよりも夫の自尊心のほうに天秤はかたむきました
「やるしかねぇ……」

ええい!
ままよ!

ぱくり……

うん
うん
美味しい!!!!!

大人の極上の一品を味わい楽しむ私の脳裏には
父・母・妹の顔が浮かびました
その顔はトラウマに勝利した私と共に喜ぶ顔ではありません
「(あんたなんぞ)いまさら知らん!!!」
という呆れ顔でした

実際のちほどそういう反応がネットを介して届きました

ええ
まあ
こんなもんです私の人生!