インターホンが鳴り、キョーコの到着を告げた。
画面を覗くと、役作りの一環なのだろうOL風のスーツを着て共同玄関にたたずむキョーコが映っている。
嫌味でない程度に化粧を施しているキョーコは、インターホンのカメラ越しでもハッと目を引くほどの大人の色気を湛えた美人だ。
蓮は共同玄関のドアを開けるスイッチを押しながら後悔をしていた。
もう深夜といえる時間帯だ。その中で人目を惹きつけたであろうキョーコは歩いて来ていたのだ。
いきなりの電話でペースを乱されて有耶無耶にされてしまっていたが、ちゃんと迎えに出るべきだった。
自分の迂闊さに歯噛みしながらも、とりあえずキョーコが無事に着いてくれてホッと息を吐く。
玄関のチャイムが鳴り、迎えに出るとずいっと目の前に買い物袋を差し出された。
思わず受け取り、中身を確認するとビールなどのアルコール類と食材が入っている。
「どうせ冷蔵庫の中何にも入ってないんでしょう?
つまみになるもの作れるように買ってきたわ。」
大人美人な雰囲気でありながら上目使いでいたずらっ子のように笑うキョーコを、蓮は平静を装って迎え入れる。
ふと香るアルコールの匂いに、微かに違和感を覚えながら会話を続ける。
「あれ?もう飲んでるの?」
「少しね。でもまだ飲み足りないの。
明日は午後からなんでしょう。付き合って。」
社から聞いたのだろうか。いつの間にか蓮のスケジュールを把握していたようだ。
「俺はいいけど、キョーコは?」
「明日はお休みなの。だから朝まで、ね?」
蓮を覗き込み、小悪魔めいた微笑を浮かべ小首をかしげる。
思わず無表情で固まりそうになるのを蓮は根性で押さえ込んだ。
台所に着いたところで、さらにキョーコが切り出す。
「先にシャワー借りてもいい?」
「ああ、そうだね。着替え準備してあるから先に浴びてきたら。
これは冷蔵庫にしまっておけばいい?」
「そうね。お願い。
じゃぁ、お借りします。」
タオルとスウェットを渡し、バスルームに向かったキョーコを見送った後、蓮はソファーに突っ伏した。
ああ、もう!
ホントにどうしてくれようあの娘は!
態とやってるのか!?
そう文句を言ってみたところでキョーコの役柄的には正しいのだから、完全なる八つ当たりである。
しかし、たった玄関から台所までの移動という短時間の間にも蓮の理性は翻弄されまくっているのだから、こう思ってしまうのも仕方ないかもしれない。
俺、ホントに理性保てるだろうか…。
いやいや、しっかりしろ!
絶対に決壊させるわけにはいかないんだ。
情けない気分になりながらも、とりあえずキョーコから受け取ったものを冷蔵庫に片付けようと立ち上がった。