何度かキョーコが弁当を差し入れするうちに、折角だからと久遠に誘われ一緒に食べるようになった。その食事のたびに色々な会話もするようになっていった。
そして、今日も弁当の差し入れを持ってきたキョーコは、先日話をした人気のないベンチで久遠と一緒に弁当を食べていた。
「こうして見てると、吸血鬼と言っても普通の女の子と変わらないね。
普通に日中に活動して、俺よりもちゃんとご飯も食べてるし。」
驚いたように久遠を見上げたキョーコは、複雑そうな表情をして俯いて応えた。
「そう思うのは、久遠先生が変わってらっしゃるからですよ。
時間の流れ方も人とは違いますし、やっぱり人の血を吸わないと生きてはいけませんから…。」
「そうなの?
普通にご飯食べるなら、吸血行為は必要不可欠という感じはしないけど。」
「でも、血を吸わないとずっと喉が渇いているような感じになるんです。
人が水を飲まないと脱水症状を起こすように、吸血鬼も血を吸わないと駄目なんです。」
納得したように頷いた久遠は、キョーコにとって驚くような事を言った。
「そうか。
だったら俺の血を吸えばいい。」
「えっ!?」
目を見開いて久遠を見る。
「君は唾を飲み込むような仕草をよくしてるよね。
それって喉が渇く時にする仕草だ。
今も喉が渇いて血が吸いたいんだろう?
だから俺の血をあげるよ。」
思わず久遠の首筋に目をやりごくりと喉を鳴らしてしまうが、キョーコはふるふると首を横に振る。
「でも、久遠先生には私の力が効かないから貰う訳には…。」
「それは、血を貰う代価が払えないからと言うこと?」
こくりと頷くキョーコに久遠は続ける。
「代価ならもう貰っているよ。
君は俺の話を聞いてくれたし、こうしてお弁当を作ってくれてる。
少しは俺に恩返しさせて。」
しかし、キョーコは焦ったようにぶんぶんと首を振り言い募る。
「だ、駄目です!
能力者の血は駄目なんです。」
突然慌てだしたキョーコに、久遠は訝しく思いながら尋ねた。
「どうして?」
「え、えっと…、そう!
能力者の血は副作用みたいなのがあって駄目なんです!」
明らかに様子がおかしく、嘘をついている事がバレバレであった。
それでも久遠は軽く息を吐くと、その嘘に気付かなかったかのように微笑んだ。
「そっか、残念。
他に俺に出来ることがあったら言ってね。」
そして何事も無かったように弁当の続きを食べ始めた。