[SB2次]孤独の華 3 | 三日茶坊主

三日茶坊主

“スキップ・ビート”の二次創作メインのブログです。
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ふと、患者である一人の少年を訪ねてみようと思った。
何度も自殺未遂で運び込まれるその少年は、自分と似た目をしていて気になっていた。
しかし普通ならしない事だ。気紛れを起こしたと言っても良いだろう。
いや、もしかしたら何者かの導きだったのかもしれない。
其処で、彼女に再会したのだから。


「少しの間、楽しい夢を見せてあげる。
だから、おやすみなさい。」

そんな少女の声が聞こえて、覗いた先には件の少年の首筋に顔を寄せる和装の少女の姿。
少年は何の抵抗もすることなく、彼女の二本の犬歯が突き立てられるのを受け入れていた。
歯が突き立てられた瞬間から少年は穏やかな表情で微笑んだ。
あの患者と同じように。

少年の首筋から離れた少女は唇を拭い振り返った。
声を上げることなく見ていた久遠は、ここに来てようやく先日発する事が出来なかった問いを発した。

「君は、…何者なの?」

「私は…吸血鬼よ。
血を貰う代わりに、死を望むほどの絶望を一時忘れさせてあげるの。」
「それが『楽しい夢を見せてあげる』と言うこと?
その代償に血を貰っているのか?」
「そうよ。
…久遠先生も死にたいの?」

久遠は言い当てられて言葉を失った。

そんな久遠のそばに軽い足取りで近づいてきた少女は、久遠の首に腕を回し、背伸びをして唇を首筋に近づけた。

しかし、何かに気付いたかのようにぴたりと動きを止めて、まじまじと久遠の顔を見た。

「貴方、何か人とは違う力があるのね。」

ハッと表情を変える久遠。
少女はスッと久遠から手を引いた。

「久遠先生には夢を見せてあげられないわ。
私の力が効かないもの。」

そう言うと少女は踵を返した。
久遠はとっさに彼女の手を捕まえた。

「待って!」

少女は不思議そうに振り返る。
久遠はとっさに掴んだものの、何故そんな行動に出たのか自分でも困惑していた。
それでも、困惑しつつもなんとか言葉を紡いだ。

「…君の名前は?」

一瞬驚いた表情をした少女は、クスクスと可笑しそうに笑いながら言った。

「久遠先生、変わってるわ。
私が怖くないの?」
「どうして?
君は俺の名前を知っているのに、俺は君の名前を知らない。
不公平だろう?」

きょとんと久遠を見た後、またクスクスと笑った。

「本当に変わってる…。
そうですね、確かに不公平ですよね。」

笑いをおさめると、久遠を真っ直ぐに見て言った。

「最上キョーコです。」