この作品は、医者久遠&吸血鬼キョーコの悲恋物のパラレル作品です。
全体的に暗く、最後もあまりハッピーエンドとは言い難い結末です。
先に謝っておきます。色々すみません。
それでも良いという心の広い方は以下からどうぞ。
罪悪感を抱えたまま、生きながら死んでいるような、そんな色の無い毎日の繰り返しの中で君に出会った。
院内のいつものざわめいた見慣れた景色の中に、見慣れない和装の少女。
漆黒の中に大輪の紅い華が浮かんだ柄の着物を着て、背筋の伸びた凛とした佇まいで其処にいた。
モノクロの世界の中に一輪だけ咲く鮮やかな紅の華のように、彼女は俺の目を惹きつけた。
そう、まるで彼女自身が着物の柄の鮮やかな大輪の紅い華そのもののように。
年の頃は17、8くらいに見えるのに、その外見に似合わない老成した雰囲気を纏った少女は、俺の視線を一瞬で奪ったのが嘘のように、そのアンバランスな空気を他に気取らせることなく周囲に溶け込んでいた。
誰も彼女に注意を払わない。
それなのに、何故だか俺の目は捕らわれて視線を逸らせる事が出来ない。
俺の視線に気付いたのか、少女はふと顔をあげ俺を見た。
視線が絡まった瞬間に周囲の雑音が消えた気がした。
茶色の大きな瞳で俺を見つめる彼女。
君は誰?
何者なの?
何故こんなに君が気になるの?
互いに視線が絡まったまま、目を逸らす事が出来ずにただ立ち尽くす。
彼女の赤い唇が何か言葉を紡ごうとしたその時…。
「…先生、久遠先生!」
看護士に呼ばれて、ハッと現実に戻される。
呼ばれた方に目を向けるとカルテをまとめたファイルを持った看護士がこちらに寄ってきた。
「久遠先生、回診の時間です。」
「ああ、もうそんな時間か。ありがとう。」
ファイルを受け取ってから彼女が立っていた場所に再び目をやったが、先ほど見た姿を認める事は出来なかった。
ぐるりと辺りを見回してもみたけれど、既に立ち去ってしまったのか影も形も見えなかった。
いや、それ以前に本当に居たのかも自信がなくなってきた。
それほど現実感の乏しい邂逅だったのだ。
周りが見えなくなるほどに一瞬で目を奪われた。
あれは、俺一人が見た白昼夢だったのだろうか…?
「先生、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもないよ。」
ふるりと首を振り気持ちを切り替えると、ファイルを開き担当の患者のデータを確認しながら歩き出した。