有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

44話はこちらから

 

 

 

 

 

(性的表現が含まれています。苦手な方はご遠慮ください)

 

 

 

 

 

「掛け軸まであるのね、清らかさが漂う和室にて繰り広げられる情事…この背徳的なところが逆にウケるのかしら?分からなくはないわね…」

 

「あのさ…俺の存在忘れてる?」

 

 

畳に敷かれた布団にパンツ一枚の姿で寝かされる俺…両腕に掛けられた手錠だけでも充分惨めなのだが、俺という存在に構うことなく真里は和室を興味深く探索する。何が「背徳的」だ、官能小説じゃあるまいし…

 

 

「そう言えばスタンガンを持ってきてたわよね?」

「…うん、まあ、一応…」

 

 

…やっぱ覚えていたか。前回は逃げられぬようベッドに括り付けられたが今回は手錠だけ、足も自由だし逃げようと思えば可能である。とはいえ、彼女は客、俺は日陰。サディストの眼差しで見下ろす様がホラー映画のサイコパスみたいに映ってもそれも含めて耐えるのが俺の役目。

 

 

「ふふ。冗談よ。今日はなかなか楽しかったし、そもそも手錠以外のグッズは持ってきてないもの」

「えっ!?」

「手錠を掛けたのは…私のトラウマのせいよ」

 

 

トラウマ…恐らく「男性恐怖症」のことだろう。密室に男と2人、こうやって手錠を掛けておけば安心…ってところか。それなら自ら日陰を欲するのは矛盾にも思えるが、彼女の核には「男を求める本能」があり、日陰を雇うことによって恐怖症の呪縛から脱け出したいんじゃないかな、自殺という形で幕を閉じた愛する人もまた「男」なのだから…

 

 

「…でも、それならパンツ一枚にしなくても良かったんじゃ…」

「ボーリングで恥を掻かせた罰よ」

 

 

やけに艶っぽい声…スタンガンは使わなくとも俺はこのまま無事ってわけにはいかないらしい。口角を上げて怪しげな笑みを浮かべると真里は自分のバッグの中から筆を取り出した。SMに限らずプレイに関してはどちらかというと無知な俺だけど彼女が筆を握った瞬間、何をするつもりかがはっきりと読めた。

 

こんなので意思の疎通が出来たところで何ら嬉しくはない…

 

 

「ちょ!ちょちょちょっ!ちょっと!」

「動かないで。気絶させるわよ」

 

 

俺の敏感な乳首を生き物みたく絵筆が這う。先端が触れるか触れないかのギリギリさに俺はくすぐったくも気持ち良い妙な感覚に苛まれる。手錠以外のグッズは持って来てねえんじゃなかったのかよ!

 

 

「あら、身体は正直ね」

「…せ、生理…現…象」

 

 

たかが筆で股間は最大限に膨らみ、その情けなさと恥ずかしさは俺のマゾヒズムな部分を鋭く刺激した。簡単に言えばこういう状況下に興奮してるのだ。耐え切れずに漏れる喘ぎは無音の空間に卑猥さを注入して筆の動きが悪戯に止まれば真里の焦らしに「もっと…」などと発する。生粋のマゾヒスト、どれだけ否定したところでそれは完全に証明された。

 

 

筆が下着の中に侵入すると五感の全てが快楽に向いたみたいに脳内は理性の殆どを失う。これほど呆気なく剥ぎ取られる俺の理性などちっぽけな藻屑だ。

 

だけど、全てでは無い。

 

悦楽に酔う俺を静かに見据えるのは僅かに残された理性、違う言い方をすれば冷めた眼差しを持つもう一人の俺、だろうか?まあ、それが直接的な抑止力になりはしないけど理性を越えたつもりでいても実際に越えてしまわぬよう人は無意識的に自分自身をコントロールしているのだ。越えるか否か、ギリギリの境界線上で…

 

 

そんなことを考える理由はプレイの最中に垣間見えた真里の葛藤によるものだ。彼女もまた、性質の異なる境界線上に足を揺らせては踏み止まり、幾度もそれを繰り返した。

 

 

「…やっぱり…ダメね」

「別に無理しなくていいさ」

 

 

全裸にされ、しかも完全に勃起した状態でこんな台詞はいささか説得力に欠ける気もするが手錠を外そうと鍵を差し込んでは回すことなく抜き取る彼女への精一杯の慰めである。真里が俺の動きを封じるのは自らが優位に立たなければ男に触れられないからであり、そもそもはサディストじゃなかった…らしい。彼女の話だと拘束の案を持ち出したのは零、彼は自らの身体を犠牲に縛り方などをレクチャーし、いわば真里をサディストに育て上げたのだ。

 

 

正直、余計な真似しやがって…とも思うが、真里の男に対する複雑さを解消するには他になかったのだろう。

 

 

「…だけどそれが裏目に出たの。気付けば私は零に依存するようになった。向こうは厄介な客としか思ってなかったんでしょうけど」

「…俺を選んだことを後悔してる?」

 

 

…我ながら意地悪な質問だ。

 

それでも零を語る真里の表情はいつだって穏やか、背後にあの男の影がチラついて俺の中に嫉妬が過ぎる。

 

 

「ごめんなさい。断ち切った筈なのにね」

「ううん。俺は俺のやり方で真里を救ってみせる」

 

 

…これまた、全裸の状態じゃ説得力など皆無だが、感傷のせいか勃起はすっかり萎えてしまい射精する雰囲気でもない。手錠を解かれた俺は軽くシャワーを浴びると若干もどかしさを抱えながらも服を着て、まだ時間的には早いが和風のある意味異空間な場所を後にするのだった…

 

 

「夕食はハンバーガーがいいわ」

「了解」

 

 

夕方の5時だが空はまだ明るく、俺はその蒼さに少しばかり目が眩んだ。日陰業は黒い闇を好む、だが、それは過程の段階であり、俺はその内コウモリみたいな夜行性を持つのだろう。この胸の騒めきが鎮まるのならさっさと夜行性になった方がラクだとも思う。

 

 

「あっ!タコ焼き!ねえ、食べたい」

 

 

シャッターの閉まった数の方が多い商店街にひっそりと佇む古びたタコ焼き屋にはしゃぐ真里の無邪気さは俺には痛々しく見える。彼女はまだ零の面影と共に生きているのを察したせいかもしれない。日陰と客の恋愛は御法度、それはキャバクラや風俗と同じ理屈なのだろうけど、ナギが言ってたように恋愛は理屈じゃない。

 

 

「おっ!綺麗なお姉ちゃんだなあ。あれ?どっかで見た事あるような…」

「そう?どこかしら?」

 

 

真里が「九条マリア」という答えを求めたのかは定かではないが「そうだ!先月行った風俗の娘だ」なんてデリカシーに欠けた初老の店主の発言に彼女は眉間に皺を寄せ再び不機嫌モードに戻る。

 

 

(おっさん、地雷踏んでんじゃねーよ!)

 

 

もう機嫌を取る策は残っちゃいないのだが、俺は思考回路をブラック企業の如く酷使した。しかし、フォローの間も与えられずに真里が無理矢理口に突っ込んだタコ焼きの熱さに俺はひたすら悶絶する羽目になるのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

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