有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

45話はこちらから

 

 

 

 

「美味しかった~。さすがにこれ以上は無理ね」

「…だろうね」

 

 

危惧した不機嫌モードは意外とあっさりと解消され、俺は「とりあえず美味いもんを食わせる」をデータファイルに記載しとかなきゃな、なんて満面の笑みの真里を眺めながら思った。しかし、ダブルチーズバーガーのセットにフィレオフィッシュ、更に追加でビッグマックにチキンナゲット…見てるこっちが胃もたれしそうなくらいの大食いっぷりは隣のテーブルの男子高校生達も「スゲー」と、歓喜する程だった。

 

 

「それにしても油断も隙も無いものね」

 

 

大満足の形相を見せたのも束の間、真里は辟易を露わに隣のテーブルへ視線を向ける。男子高校生達の姿はもう無いのだが、大食いっぷりを動画に収めようとした彼らに感じた憤りは継続中ってとこか。俺としては口頭の注意によって止めてくれたことに安堵を抱いている。もし、口論になり喧嘩を始める展開になっていたら今頃俺はサンドバッグだ。

 

 

「プライバシーの侵害はあの頃だけで充分よ」

 

 

…九条マリアだった頃の事だろう。

 

確かに私生活の一切が謎に包まれた九条マリアはマスコミも一般人も関係無く、皆がパパラッチの状態だった。妹もスマホを酷使して暇を見付けてはネットの掲示板を読み耽っていたっけ、事実かどうかも分からない情報に一喜一憂する姿に俺はただただ呆れ果てた。

 

 

しかし、それを考えると秘密厳守が成り立つ「Honey moon」は改めて凄い世界だと気付く。これだけあらゆる情報が乱れ飛ぶ時代の中、情報漏洩の防止ってのは口で言うほど容易くは無い。

 

新人の俺にも情報が閲覧可能なのはリスクの方が大きいと思うが、言い方を変えればそれだけの防止策が練られてるってわけだ。部屋の盗聴器も当て嵌まるんだろうけど、盗聴器など「Honey moon」からすれば可愛らしい仕掛けなのだろう。他の具体策…は俺のちっぽけな脳味噌じゃサッパリ思い付かないが存在するのは確かだ。

 

 

「ま、不満は山ほどあるけどとりあえずは及第点ってとこね」

「…それはどうも」

 

 

真里をマンションに送り込む頃にはもう空は薄暗くなっており、生温い風は闇の気配みたく感じる。

 

不満…のくだりは余計な一言だとは思うが、彼女のこういう部分に慣れ始めたのか、及第点を貰えたことに俺は嬉々とした表情を浮かべてしまう。

 

 

「ちょっとシャワーを浴びてくるわ。待っててちょうだい」

 

 

「それじゃ、俺はこの辺で…」と言う間も与えずさっさと浴室に入ってった真里に首を傾げながらも「待ってて」と指示されちゃ待つより他に無い、俺はグラスに注いだミネラルウォーターを一気に飲み干し、ダイニングテーブルに膝を付いて座った。入店してまだ日は浅いのだが車の移動に身体が慣れたせいか軽い倦怠感を覚え、自分がえらく老け込んだような気分に陥る。

 

 

「小さい頃、外食と言えば専らファストフードだったの。クラスメイト達からは、そんなの外食とは呼ばない、とか言われたけど、私にとってはご馳走だったわ」

 

 

…帰り際、突然語られた真里の幼少期のエピソードには正直、驚かされた。まさか自分の方から貧乏だった時代を言い出すとは思わなかったからだ。それにそのエピソードはまるで俺の記憶かと錯覚するくらい自分の経験と重なって…シンパシーを感じた。

 

しかも、行き先は決まってマクドナルドだった事や母親は飲み物だけを頼み、自分には腹いっぱい食わせてくれた事も全く同じ…貧乏あるあるだと言われりゃそうかもしれないけどさ、彼女の告白は俺の人間的な部分を刺激してせつない気分になった。

 

 

だからこそ、俺は真里の日陰で在りたい。例え、真里の望みはやはり零だったとしても離したくは無い。

 

 

…って、まだまだ力不足の俺じゃ頼りないのは重々承知だけどさ。

 

 

「さっぱりしたわ。ねえ、アイスコーヒー入れてちょうだい?」

「了解。でもその前に薬を飲めよ。夕食後の分、まだだろ?」

「分かってるわよ」

 

 

部屋に薬を取りに行くのを見届けると俺はダイアの模様が煌めく高価そうなグラスを取り出し氷とボトルタイプの珈琲を注いだ。

 

しかし、コーヒーポーションの在り処が分からず、戸棚を勝手に開けていいものか迷っていると背後に何かの気配を感じ、次の瞬間、俺は思わず「ひゃっ!」と、声を上げた。

 

 

「振り向かないでそのままにしてて」

「りょ、了解…」

 

 

本来ならば背後から抱き付かれたくらい別に驚く事では無いのだが、昨夜、不意に触れたときの反応を思えばこの状況は全くの想定外だ。手足も自由な状態じゃ彼女の意に反して振り向くことも…こちらから抱き寄せることだって可能だというのに。

 

 

「不思議ね、あなたの前では自然な私になれる…」

「…ありがとう」

「…どうしてあなたがお礼を言うの?」

「さあ、どうしてかな?」

 

 

弾力のある胸が背中を押し付けたせいか、真里の体温が俺の体温を上昇させたのか、股間は不意に疼き出す。こちらから何も手出し出来ないってのはもどかしく生殺しのような気分だけど、彼女の言葉は零の影に怯えた俺にとっての救いだと思った。

 

 

勿論、真里から零が完全に消え去ったわけじゃないだろうし、俺はあの男の代用品に過ぎないのかもしれない。だけど、肩に腕を回す力加減や首筋に微かに伝わる吐息、それは今、俺だけに向けられているのは確かだ。

 

 

「…そろそろ時間ね。次のデートプランもよろしく」

「了解」

 

 

限定された時間というのは切なさを掻き立てるには充分であり、俺としてはもう少し過ごしたいとさえ思ったのだけど、日陰という立場をわきまえるならドライさは必要不可欠だ。割り切る真里と割り切るにはまだ経験の浅い俺、その違いは微妙な距離感を生み出している。

 

 

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 

バタンと扉が閉まると俺は持続する勃起に辟易しながら薄暗い闇を見上げた。ほろ苦い気分の今宵は苦手な酒でも飲みたいものだ、なんて感傷を引き摺りながらエレベーターに乗り込めばこの息詰まる空間さえも愛せそうな気さえするのだった…

 

 

(続く)

 

 

 

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