有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

オリジナルの詩や小説を更新しているアマチュア作家のブログです。


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前回の話はこちら

 

43話はこちらから

 

 

 

 

「投げるんじゃなくて滑らせるんだよ。それに16ポンドは重いって」

「うるさいわね、女だからって甘く見ないで。これくらい軽いもんよ」

 

 

 

…手元をフラフラさせながら言われても説得力はゼロだ。全く…意地っ張りというかプライドが高いというか…

 

 

ま、深読みする必要が無いだけ俺としては助かるんだけどさ。

 

 

もし、一切の感情を封印した零みたいなのを相手にしろと言われたらさすがに無理だ。あんなに息の詰まる雰囲気じゃ1時間も耐えられないかもしれない。

 

 

「何で曲がるのかしら、ねえ、もしかしてこの建物自体が傾いてるんじゃない?」

 

「それだったら客なんか来ないって」

 

 

平日の昼下がりという人の少ない時間帯にも関わらず、高齢者や大学生風の男女グループなど空きレーンの方が極小な光景に最初は驚いたけどこの辺りじゃ遊戯施設の数も知れてるし当然と言えば当然だろう。値段も貧困層に優しい設定だし。

 

 

「あなたの番よ、ちゃっちゃと投げちゃって」

「そんな急かすなって」

 

 

7投目、7フレーム連続ストライクを決めてみせると真里の表情は不機嫌さを増し、1投目のストライク時に見せたリスペクトにも似た眼差しは影も形もすっかり消え去り「つまんない」などと言い出す始末。おまけに「手加減したら許さない」と釘を刺されるし…最初っから下手なフリをしておけばよかったかな…

 

 

「あんな転がり方明らかにおかしいわ。まさか店員と組んでイカサマしてるんじゃないでしょうね?」

「スピンだよ。こんなとこでイカサマなんか出来るわけないだろ?」

 

 

実のところ、真里より俺自身の方が連続ストライクに驚愕している。小さい頃、父さんは休みの日になると決まってボーリング場に連れてってくれた。アマチュアの大会にて優勝経験がある父さんの始動の良さが反映されたのか、或いは血筋か、俺はみるみるうちに上達の一途を辿った。

 

 

とはいえ、あの頃から十数年一度たりともボーリングをやっていないことを踏まえれば腕も落ちて当然なのだろうけど…あの頃の感覚は俺の中に沁み付いていたようだ。

 

 

しかし、ボーリングの前にプレイしたダーツじゃ連続でハットトリックを決めた真里に対し俺は散々な結果、それを「下手ねえ」なんて嘲笑っていたのだからお互い様である。どうして俺だけが詰られなきゃならないのか…

 

 

「もういい!やめた!」

 

 

9フレームもガーターに終わると真里は最後の一投を放棄し、専用靴までも脱ぎ捨ててしまい俺は心底辟易した。

 

 

子供かよ…全く…

 

 

「あと1回じゃん。最後までやれよ」

「代わりに投げてよ。せいぜい見せびらかせばいいじゃない」

 

 

…確かにここまで全てストライクを決めたせいか周囲の視線はチラホラと俺に向いて「あのお兄ちゃん凄いわね~」年配女性グループの歓声に似た声さえ響く。だが、あまりにも卑屈な真里の態度は俺の中の何かを切ってしまったようで…

 

 

「ほら、この軽いボールで投げてみ」

「女だからって馬鹿にしてるの!?」

「性別は関係ない、その証拠に…」

 

 

バス停に備え付けられているような固い椅子に座る真里の前に俺は自分の選んだ12ポンドのボールを掲げた。ふてぶてしい表情がほんの少しだけ柔らかなものへと変わる。

 

 

「誰だって最初は失敗ばかりさ、俺だって初めてのダーツがあの有り様だったろ?」

 

「…何よ、偉そうに説教?私、客よ」

 

「俺のやり方に文句があるなら事務所に契約破棄を申し立てても構わない。だけど…俺は向き合いたい、小久保真里という人間と…」

 

 

(…また余計な事を言っちまったな…本当に契約破棄されたらどうしよう?)

 

 

俺は何とかして今の発言は無かったことに出来ないか、失言した国会議員みたいな後悔を頭に過ぎらせる。

 

 

「…やればいいんでしょ?その代わりレクチャーしてよね」

 

 

再び靴を履き替える真里の姿に俺はホッと胸を撫で下ろした。2人の距離が少し縮まる、それは日陰の醍醐味なのだろう。ただ単に客とセックスするだけだと思っていた面接の日から俺の中の何かが変わり始めたのかもしれない。例え世間が認めてくれない職業だとしても…さ。

 

 

「腕は真っ直ぐ。放り投げるんじゃなくてそっと滑らすように…そう!その感じ…」

 

 

「触れない」という約束のために口頭でレクチャーするものの俺の説明不足か1投目はガーター。しかし、真里の表情に苛立ちめいたものは無く、真剣な眼差しのまま2投目…すると…

 

 

「行け!行け!真っ直ぐ!キャー!やったー!!」

「おっ!やったじゃん!!」

 

 

1本だけピンは残ったがこれは快挙、奇跡と呼んでもいいのかもしれない。その高揚感のせいで俺の最終フレームも彼女に投げられてしまったが嬉々とした表情は嘘偽りの無い本来の姿。真里には悪いけど俺の子供の頃の姿と重なって感慨深い一場面になるのだった…

 

 

 

「次は10ゲームくらいやりましょ」

「そんなに体力持たないって…」

 

 

ボーリング場を後にしても真里の興奮は冷める気配すら無く、何ならもう一度入ってしまいそうなほどだ。しかし、終わりへの時間は刻一刻と迫っているので俺は足早に遊戯施設から離れた場所へと足を進めた。

 

 

「ねえ、あっちは何?行ってみたい?」

 

 

人通りもまばらになる頃、真里は狭い路地を指差して興味津々な顔を見せた。商店街のシャッターは閉まっても風俗街はいつの時代も賑やかだ。

 

 

「あっちは男性専用。それよりそろそろ休憩しよう」

 

 

ふくれっ面を浮かべる真里を尻目に俺は昨夜の内にリサーチ済みのこじんまりとしたラブホテルへ彼女を連れ立った。見た感じはビジネスホテルっぽいシンプルな造りだ。

 

 

「へえ、随分と質素なのね、こういうホテルって」

「お城みたいなとこもあるけどね」

 

 

タッチパネルを確認すると平日の3時過ぎにも関わらずほぼ満室状態、やっぱいつの時代もこういうのは廃れないのだろう。真里はSM部屋を所望したが生憎入室中だったため、俺らは無難そうな和室部屋を選択、プリンセス桜と過ごしたあのピンクだらけの雰囲気はどうも苦手意識の方が強いのだ。

 

 

…とはいえ、いかなる部屋においても残虐なプレイを俺が受けるのに変わりは無く、初めてのラブホテルに胸を躍らせる真里とは対照的に俺はバッグの中のスタンガンの存在を彼女が忘れていることを願ってエレベーターに乗り込むのだった…

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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