不死蝶 ~ フェアリー ~  君の帰る場所 4 | a guardian angel

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スキビ好きな私が無謀にも始めてしまった…

二次創作・ネタバレ・つぶやきを含む妄想ブログです。

当然のことながら、作者さま・出版社さま等とは一切無関係です。

( SIDE 尚 ) 


「早く起きて…尚ちゃん…っ。

もう起きないと…遅刻しちゃうよ?

今日は仕事だって云ってたじゃない…ねっ…尚ちゃん…」

キョーコに揺り起されて…寝ぐせのついた頭を掻く俺…

これは…まだ東京に来て間もない頃の…二人で過ごした時間。


俺をみつめる…キョーコの嬉しそうな顔…

俺のことが好きだと…見ているだけで伝わる…。

あの頃は…こんな気持ちになるなんて考えられなかった。

キョーコのことで…眠れない日々を過ごすなんて…

俺がキョーコに愛を乞う姿なんて…ありえないはずだった。


少しずつ浮上していく意識…


ここは…どこだ?

見覚えのある天井…そうか…ここは…俺の部屋。

なんで…ここに…確か…俺はキョーコを待って…

そうだ…キョーコが出てきたのを確認して…名前を…

ぼんやりする頭で考えていると頭上から声がした。

「…起きたの?」

少し…機嫌の悪いキョーコの声…

「な…んでお前が?」

「なんで?…それは私が聞きたいわ!!」

そういって繋がれた手を挙げて見せてキョーコが言った。

「あんたが手を離さないから…

っていうか、あんた一体…人の名前を…往来の道で叫んでっ…

仕方なく近寄ったらいきなり倒れるしっ…大変だったんだから!

祥子さんに来てもらって…二人であんたを運んで…

一応医者にも見てもらったけど…過労…っていうか

ただの睡眠不足なんじゃないっ!!

自己管理もできないなんてプロとして失格よ!!

祥子さんが…少しでいいからそばにいてあげて…って

頭を下げるから…それにあんたが…

寝てるくせに…手を離そうとしないからっ…

とにかく…起きたんなら、早く手を離してよっ。

私も帰るんだから!!」

いつものキョーコだ…

寝起きの俺に耳元でぎゃんぎゃんと…そう捲し立てるなよ…

うるせーな…なんて思いながらも…どこかほっとする。

キョーコはこうじゃないと…

あの日のキョーコは…

あんなキョーコは見たくない…知りたくない…。

あれは…キョーコだったのか?

信じたくない気持ちが…俺の言葉を奪って…声が出ない。

ただ…繋いだ手をみつめ…キョーコの瞳を覗く…。

「な…何よ?…何とかいいなさいよ…?」

いつもと違う俺の様子に動揺してるキョーコ…

俺の口から出てきた…振り絞るようにして出てきた言葉は…

「…イヤだ。」

「?!」

訝しげな表情で俺をみたキョーコが言った。

「…はぁんっ?何が?何が嫌なのよ?…とにかく早く手を…」

離したくない…っこの手を離したら…お前は…

俺は…繋いだ手を思いっきり引っ張って…キョーコを抱き寄せた。

「なっ…?!」

キョーコを強く抱きしめて…

「イヤだって云ってるだろ?…」

そう…耳元で囁いた。

「イヤッ…離して…っ」

暴れるキョーコを力づくで抱きしめる。

俺の腕の中で…身動きの取れないキョーコ…

強く抱きしめると折れてしまいそうな…華奢な身体…。

俺は男で…お前は女なんだ。

俺に力で敵うはずがないだろう…?


…女だったんだよな…。

キョーコから…感じる甘い香りに…自覚する。


どうして俺は…平気でいられたんだろう。


キョーコを…女として意識したことなんてなかった…

俺にとって…特別な女だと…

その想いを自覚した後でさえ…

キョーコにこんな感情を抱いたことはなかった。


愛しい…だなんて


キョーコから感じる温もりがこんなに心地いいなんて知らなかった。

溢れてくる想い…俺は…キョーコが好きだ。

好きなんだ…その想いの影で…ずっと俺を苛む荊の棘…。


俺はキョーコを…キョーコを失いたくないっ。

まだ…まだ俺は何も…


その時…キョーコの携帯が鳴った。

ビクッと強張る身体…が電話の主を告げる…。

…アイツ…から?

俺に広がる黒い感情…締め付けられる胸…

渡さない…アイツになんか…キョーコは…

キョーコは俺のものなんだっ。

抱きしめる腕に力がこもる…。


鳴り響く着信音にキョーコの顔色が変わる。

「新しい携帯…買ったんだな。」

その声にハッとしたように顔を見上げるキョーコ…

やっぱり…あれはお前なんだな…。

「…アイツと付き合ってるのか…?」

そう聞いた俺に…視線をずらして…とぼけようとする。

「な?何のこと…?アイツって誰よ?

ビッ…ビーグルとは付き合ってないって言ったでしょ?

それより…早く離しなさいよっ。

…私が誰と付き合おうが…あんたには関係ないでしょっ。」


関係ない…?

本気で云ってるのか?

俺が…何とも思ってない女にこんなことするとでも?

俺が…お前を…っ

…この一週間どんな気持ちでいたか…知らないくせにっ

「…つっ」

「ちょっと…早く離してよ…

電話が…電話が切れちゃうじゃないっ。」


俺が今どんな顔してるか気づきもしないで…

俺を無視して…

携帯に気をとられているお前…

俺が…どんな気持ちでいるか…わからないなら…教えてやる。


「俺は…お前が…」


→ 5話へ続く