不死蝶 ~ フェアリー ~  君の帰る場所 2 | a guardian angel

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スキビ好きな私が無謀にも始めてしまった…

二次創作・ネタバレ・つぶやきを含む妄想ブログです。

当然のことながら、作者さま・出版社さま等とは一切無関係です。

( SIDE 尚 ) 


あの日から1週間…かけても繋がらなかったキョーコの携帯から

違うアナウンスが流れだした…。

「お客様のお掛けになった電話番号は現在…」

どうやら解約されたらしい…。

…唯一の連絡手段を失った。

以前…声が聞きたくて掛けた電話で…何を言ったらいいか…

かける言葉がみつからずにいた俺に浴びせられたのもアイツの名前だった。

「つるが…さん?」

この間みたいな偶然でもなければ会えることもない…

実際…俺がキョーコに会ったのは指で数えられるほど…。

そして…俺にとって因縁のある奴に限って…キョーコに興味を示しやがる。

ビーグルにしたって…敦賀蓮にしたって…もっといい女が周りにいるはずだろう…。

なんでキョーコなんだ?


キョーコ…は変わった。


キョーコを変えてしまったのは俺だ…だけど、俺はそれが悪いことだとは思ってない。

昔のお前じゃ…きっと…好きになんてならなかった。

俺のことを誰よりもわかってる…それは変わらない…けど、

今のお前だからこそ…俺は好きになったんだ。


相手の顔色を伺ってばかりいた…優等生のお前が…

俺にとっては都合のいい…地味でつまらない女に見えたんだ。


だけど…負けん気の強い…人一倍根性のあるお前が…

俺に復讐を果たすために…興味のなかった芸能界にまで入って…

俺を追いかけてきたんだろう…?


お前は俺のことだけ考えてればいいんだ。

俺はお前を…俺から解放なんてしてやるつもりはねーんだ…。


なのに…なんでよそ見してるんだ?

どうして…俺以外の男をそんな瞳でみる?


俺に…復讐するんじゃなかったのかよ?!


眠れない…寝ても覚めても…あの時のあの表情が俺を苛む。

俺以外の男に向けられた…あの愛しいものを見るキョーコの顔が…

焼き付いて離れない。


********


「ちょっと…尚…あなたちゃんと寝てるの?

ひどい顔してるわよ?」

「あ?…ちょっと曲作りがうまくいってなくて…

でも大丈夫…ベッドには横になってるから。」

そう言った俺にやれやれとため息交じりに息をついた祥子さんが

にこっと笑って俺に言った。

「…今日は…この収録で終わりにしましょう?

その代わり、しっかり寝なさい。

今の尚の顔見たら…ファンの子も心配するわよ?」

そう言われて覗いた鏡の中の俺は…確かにひどい顔をしてた。

「…わかった。…心配かけてごめん、祥子さん。」

「いいのよ…って、そういえば、さっきキョーコちゃんに会ったわ。」

祥子さんから飛び出したキョーコの名前にビクッと身体が反応する。

「?!」

「BOX-R…だったかしら?キョーコちゃんが出演するドラマ…

収録が隣りのスタジオらしいのよ。

休憩中だったみたいなんだけど…声かけられるまで気づかなくって…

本当…役によって全く別人になっちゃうのね…

すごい才能だわ…。」

「となり…」

隣りにキョーコがいる…

会いたくて…会えなくて…会えば憎まれ口を聞いてしまうけど…

会いたくてたまらなかった女がすぐそこにいる。

動き出そうとした俺の手を掴んだ祥子さんが言った。

「あっ…もう撮影入ってると思うし…あなたもこれから収録なんだから

抜け出して会いに行こうなんて思わないで?

…終わってからでも間に合うのは確認済みなんだから。」

「…祥子…さん?」

「…キョーコちゃん絡みなんでしょ?

あなたがそんな顔するの…他でみたことないもの。

まずは仕事を片づけてから!…ね?」

そういって…穏やかな笑顔で背中を押された。

格好悪いな…俺…そう思いながら…苦笑いで応えた。

キョーコに会える…そう意識した途端…俺は…複雑な心境に陥った。

ずっと会いたかった…会って確かめたかった。

…確かめて…どうする?

アイツは…この間の男は敦賀蓮で…お前とアイツは付き合ってるのか…って?

あのキョーコが素直に認めるわけがないし…

反応で見極めるしかない…だろう。

だけど…その言葉にもし頬を染めたとしたら…?

関係を肯定してきたとしたら…俺はどうするんだ?

キョーコが敦賀蓮を…アイツを好きだと言ったら…

ズキン…ズキン…ズキンッ…

「…っ…クソッ

胸の痛みが強くなっていく…。

どうして俺がキョーコ相手にこんなに苦しまなきゃいけないんだ。

思うようにいかない…苛立ちと焦り…そして…不安。

キョーコを失うかもしれない…

いや、すでに失っているのかもしれない。

俺の知らないところで…絆を深めていく二人の姿を思うだけで

胸に激痛が走る。


ダメだ…キョーコは俺のものだ。アイツになんか…


撮影が終わったキョーコを待つ…俺。

祥子さんには先に帰ってもらった…。

あいつが仲間と別れて一人になるのを見計らって声をかける…。


「キョーコッ…」


俺の姿を確認したキョーコが周囲を見渡して…近づいてくる。


あの日からずっと…俺には抜けない棘が刺さっていて…

その傷口は日に日に広がっていって…壊死していくように…

体中に荊が巻きついていくように…痛みに冒されていく。


痛いっ…だけど…痛いのは心だけじゃなくて…

あれ…おかしいな…?

キョーコが二人に見える…?

世界がグニャリと揺らいで…俺の名を呼ぶキョーコの声が…遠くなっていく。

俺を支えるキョーコの腕のぬくもり…掴んだその手を…

俺は離すことができなかった。


→ 3話へ続く