・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「先生の隣にいさせて。」第5話
入学式の朝、いつもより早く目が覚めた。
洗面所の鏡に、ちょっとだけ目の腫れた私が映る。
指先で目の周りに触れながら、昨日のことを思い出した。
もう、大丈夫。
いっぱい泣いてスッキリした。
涙でモヤモヤが洗い流されて、新たな気持ちにリセットされていた。
さあ、今日から高校生だっ!
がんばるぞ~!
両手を上にあげて、ぐ~っと伸びをした。
洗顔フォームを泡立てて、ほっぺにくるっと円を描いた。
あわあわの自分に、自然と笑顔になる。
これが生クリームだったらいいのにな…
指先に伝わる、なめらかな泡の感触が気持ちいい。
ほっぺのお肉をぐい―っと上げたり下げたりして、自分の顔で遊んでいた。
「おはよう、塔子ちゃん。」
私の変顔の後ろに、ひょこっと顔を出したのは、お姉ちゃんの彼。
「わっ!おはようございますっ!」
真っ白な顔で、挨拶する私。
泡の下は、きっと真っ赤だ。
私は急いで泡を洗い流す。
背中越しに聞こえる声は、とっても優しい。
「元気そうでよかった。」
私はタオルを手に取って、顔にあてた。
鼻から下はタオルで覆ったまま鏡越しに彼を見ると、ニッコリ笑ってガッツポーズをしている。
「こっちには、順子も俺もいるから、大丈夫。塔子ちゃんファイトっ!」
ああ…きっと昨日のこと、お姉ちゃんから聞いたんだ…。
「はい。」
「俺、今日は早く行くから、メシはいらないって順子に言っておいて。うちの学校も入学式なんだよ。」
「あ、はい。わかりました。」
高校の先生も忙しそうだな。
生徒よりも、こんなに早く行かなきゃならないなんて。
さっき玄関で見かけたときは、黒の礼服に着替えていた。
手に持っていた白いネクタイ。
数時間後の自分を思って、キュッと気持ちが引き締まる。
ガッツポーズの残像に向かって、私も拳を握ってみた。
ちょっと力が湧いてくる。
それは、新たなはじまりを予感させていた。