未完:恋愛長編小説@第4話「先生の隣にいさせて。」 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。












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・・・・・・・・・・・・・・・「先生の隣にいさせて。」第4話












「塔子ちゃん、ドア、開けて。」




「あ、は、はい。」



私は、部屋のドアを開けて、一歩 中に入った。


続いて彼も入ろうとしている。






やばっ!


ぜんっぜん片付けてない!




ベットの上に放り投げたパジャマ。


ソファーの上には、たたみかけの洗濯物の山。



机の上もぐちゃぐちゃだ。




あーーー!こんなの、見せられないっ!!!




私がそれ以上進めないでいると、後ろから彼の声がした。




「どうしたの?」




「あ、えっと、やっぱり、廊下でいいです。廊下に置いておいてくださいっ!」



私が後ろを向いてそう言うと、彼は「わかった」と箱を下ろした。



そのまま後ろ手でドアを閉め、お礼を言った。




「ありがとうございました。」




「いえ、どういたしまして。」




帽子を取る振りをして、お辞儀をしてみせた。


王子様みたいだった。





「成田くーん、あとどのくらい?」



リビングからお姉ちゃんが顔を出す。




「ん~、あと少し。もう荷物は全部運んでもらったから、シートを剥がせば終わりだと思うよ。」






「了解。」




「塔子、お蕎麦、どのくらい食べる?」




「えっ?お蕎麦?あ~…ちょっとでいいよ。」



「ちょっと?いつも2人前食べるくせに、どうしたの?食欲ないの?」




「ちょっとでいいってば!」



「わかった。お菓子食べすぎたんでしょ?」




「違うよ!もうっ!」



お姉ちゃんは、笑いながらリビングのドアを閉めた。






「塔子ちゃん、細いのにお蕎麦2人前食べるの?」



「えっ?」




大食い大食い大食い大食い…


頭の中を大食いの文字がぐるぐる回っていく…




「健康的でいいね。」





健康的健康的健康的健康的…


いいねいいねいいねいいね…


大食いから文字が変換されて、ぐるぐる回っていく…





「あ、部活…やってたから…お腹すくんです…。」





「そっか。てことは、運動部?」




「はい、テニス部でした。」




「あ、順子もテニス部だったよね。」



「はい、お姉ちゃんと一緒です。」




「じゃあ今度、みんなでやろうよ。俺も実は、テニス部だったから。」




「ほんとですか?」



「ほんとだよ。」





そう言って、めちゃくちゃにラケットを振る振りをして、私を笑わせる。






「…作業おわりました~!確認お願いしま~す。」



引っ越し業者の声に、「行くね」と言葉を残して、自分の部屋に向かっていった。



なんか、なんだか…緊張する。

彼の背中を見送りながら、私はふうと息を吐いた。




ローカに置かれた段ボールを、ずるずると部屋に引き入れる。






箱を開けて、『走れメロス』を手に取った。





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…もう一回読んでみようかな…。





私はベッドを背にして床に座り、本のページをめくる。





―メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの王を除かなければならぬと決意した。―




冒頭部分を目で追うと、島の思い出が蘇り、懐かしさで胸がいっぱいになった。



中学のみんな、元気かな…。


お父さんお母さんは…。





ああ…だめだ。




我慢していたはずなのに、涙がどんどん溢れてくる。



まだ、高校も始まっていないのに、ホームシックは早過ぎるでしょ…。




涙のダムを崩壊させて、大洪水を起こしていた。








トントン…カチャッ…




「塔子?」

お姉ちゃんの声に、顔を上げた。




「大丈夫?」



「…うん。」




「そっか…。」



「…うん。」




「お蕎麦できたから、落ち着いたら食べにおいで…。」




「…うん。」






「あのさ、塔子…これ、塔子にあげる。」



「…?」




「お父さんとお母さんが、塔子をよろしくって、私に送ってくれたお守り。」





お姉ちゃんが、膝をついて、私の手にそっと握らせてくれた。


それは、手作りのお守り袋。




「開けてみて。」




「いいの?」



お姉ちゃんは「うん」と頷く。




袋を開けて中を覗くと、小さな紙が入っていた。




「順子、頑張れ。


塔子、負けるな。



順子、しっかり。


塔子、泣くな。




順子は塔子を守ってあげて。


塔子は順子を助けてあげて。



順子、たまには帰っておいで。


塔子、たまには帰っておいで。



お前たち二人の健闘を祈る。



お父さんお母さん大明神」







もっと涙が出た。






「あとで、ここにお蕎麦持ってくるから。」



そう言ってお姉ちゃんは、そっと部屋のドアを閉めた。