未完:恋愛長編小説@第3話「先生の隣にいさせて。」 | 「蒼い月の本棚」~小説とハムスター(ハムちゃん日記はお休み中)~

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趣味で小説を書いています。絵を描いたり写真を撮ったり、工作をしたり書道をしたり、趣味たくさんです。古典で人生変わりました。戦国時代&お城好き。百人一首とにかく好き。2016年、夢叶って小説家デビューできました。のんびり更新ですが、どうぞよろしくお願いします。













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……………………「先生の隣にいさせて。」第3話












「成田くん」と初めて会った数日後、とうとうその日がやってきた。












4月。



入学式前の、最後の日曜日。

なんとなく眠れなくて、なんとなく早起きした。



今日は昨日より暖かい。


パジャマの上に、何も羽織る必要はなさそうだ。


窓を開ければ、春の風がふわりと通り過ぎていく。




綺麗だなぁ…。


窓から見下ろす、まっすぐ伸びたピンクの絨毯。

春の喜びを精一杯表現している。




photo:03







綺麗過ぎだよ…。


東京は、なんでもきちんとしている。




島の桜は、こんな風にきちんと一列に並んではいなかった。


中学校にあった、大きな桜の木(みんなは長老って呼んでいた)も、今頃満開なんだろうか。









お昼過ぎ、先に彼が到着。


そのすぐ後に、引っ越しのトラックが着いた。



お姉ちゃんと私は、とりあえずリビングで待機。

お茶とお菓子を用意して、作業が終わるのを待っていた。





「そろそろ終わるだろうから、お蕎麦でも茹でておくね。

塔子は、成田くんの様子を見てきてくれる?」



「あ、うん。」

お姉ちゃんに言われて、リビングのドアを開ける。



ローカの壁も床も、全て青いシートで覆われていた。


海の中みたい…。


自分の引っ越しのときは、ここまでじゃなかったから、なんだかわくわくする。





三番目の一番奥の部屋。


ドアが開いている。


なんて声をかけたら良いか分からなくて、そっと部屋を覗いてみた。


後ろ向きの彼。

背中一面、汗で色の変わったTシャツ。

捲り上げたズボンの下には、丸く盛り上がったふくらはぎ。


友達の男子の足とは、何かが違う。






「あ、塔子ちゃん。手伝ってくれるの?」


振り向いた彼は、私を見つけて笑顔で言った。

積み上げた段ボールに肘をかけて、こちらをじっと見ている。




なんだかわかんない。


だけど、ちょっと恥ずかしい。





「あ、いや…お姉ちゃんが様子を見てきて…って…。」



「そっか…ねえ塔子ちゃん、ちょっとこっちにきて。」


彼が白い歯を見せながら、手招きをする。


「な、なんですか?」




私は、恐る恐る部屋に足を踏み入れた。

足元の箱のガムテープをビッとはがして、ふたを開ける。




…本?



「よかったら、あげるよ。俺が高校の時に読んでいた本。」



パッと見についた表紙。


中学の時、教科書で読んだ、太宰治があった。



『走れメロス』



あんなお兄ちゃんがいたらいいなあ…って思ったお話だ。

正義の味方みたいで、かっこよかった。



「もう読まないんですか?」


「うん、もう何度も読んだから。線が引いてあったり、折れていたりするのもあるけど…。」




「全然構いません。じゃあ、いただきます。」



私は段ボールに手をかけて、持ち上げようとした。


が…持ち上がらない。






「塔子ちゃんじゃ無理だよ、どいて。俺が運ぶから。」




彼は手際よく箱のふたを閉め、ひょいと持ち上げた。






わあ…なんだろう…。

なんか…よくわかんないけど…なんだか…メロスみたいだと思った。