終焉(おわり)の物語3 | 蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

蒼の徒然~何か語らないときっと後悔する

自分の人生を変える!と決意したアラサー女子。
2013年5月で前職を退職し、2013年12月に現職。
接客は接客でも、180度違う業界にとびこむ。


後悔しない人生を送るために、
「今」を記録する場所に。

龍暗は苦笑しながら、城の奥へと向かう。

「いやしかし・・あの右将軍の怒りっぷりは・・・すごかったなぁ。」


大勢の兵士の前で「馬鹿か、お前。」、といわれたのだ。

しかも軍の先陣をきる、名誉ある第一部隊を務める、右将軍が。


「そりゃ、怒るよなぁ。」


まいったな、右将軍系の派閥はでかいし、こりゃ毎日の朝議が思いやられる。

と、頭の中では悩みの種が増えているが、龍暗の口元には笑みが浮かんでいた。


「あんの堅物をね、馬鹿か、お前って・・・・。」


いってみてぇな、とつぶやいて、奥庭に降り立つ。


「まぁ、仕方ねぇな、お国のため、なんてガラじゃないしな、俺ら。」


奥の離れに向かって歩き出した、龍暗は空を見上げた。

夜風が、目の前の竹林を揺らす。

空には、欠けた月が雲に隠れようとしていた。


闇。


びゅっ、っと空気が切れた。



「なんだよ、夜襲か?」


頬が生温かい。


気配が微塵もしない。

風が竹を揺らす音だけが、さやさやさやとする。



「まいったなぁ・・・。俺はこっち向きじゃないんだよなぁ。」



月が雲を出る様子はない。

龍暗は、ちっと舌を打ち、一気に走りだした。

夜目がきく相手が襲ってきているのだ、とどまって的になるよりは、という判断だった。

耳元で空気が切れていく。

何度目かのときに、腕に激痛が走る。




「・・・くっ・・・・・いい腕だな。」

この暗闇、龍暗の服の色も暗色に近い。

それをこれほどまでに正確に当てに来られるとは。


「そうだな。」



耳元で声がした。



カン、カンと金属がリズミカルに跳ね上がる音、

空気を布がする音。

そしてかすかに人が呻く声。




龍暗は、立ち止まって息を整えた。



光がさした。





目に映ったのは流菜が刀をひきぬくところだった。



「黄我だな・・・・。」



引き抜く際に血が、服に飛び散る。



「いい腕のをよこしたなぁ・・・。」


いてぇ、と棒手裏剣をひきぬく。


「なぁ、これ毒とかあるのか?」

「ないだろ。こいつは、毒とかのタイプじゃないな。まぁ、念のため若葉にみてもらえ。」

「あ、もう来てんのか。」

「・・・・黄我に気付かないとは・・・あいつらもそろそろ死ぬな。」


流菜の目が冷たく光った。






「いや~悪かったなぁ、偵察要員の三下だったからさ、無視してて。」

「今すぐ腹でも、残りの目でも、ついて、さっさと死ね。」


龍暗は治療された腕を、何度か動かしながら、まぁまぁと止めに入る。



「俺の護衛なんてのは、依頼してないんだから。」

「というありがたい、言葉をもらったから、本題に入らせてもらう。」


龍暗は身を乗り出した。


「ここらの小国は、徴兵の目的までは動く気配を見せない。」

「表向きの話はいい。」

「まぁ・・・その代わり、俺らが大活躍の時期に入ってるな。」



戦国領主時代。

それは表の時代。

裏の時代もまた、戦国時代なのだ。


表に国が無数にあるように、裏にも組織が4つある。

忍びの系統である、黄我(こうが)、異我(いが)。

そして、暗殺の系統である、氷影(ひえい)と、火嵐(からん)。


各国の依頼に従い、密偵、陽動、暗殺とさまざまな任をこなしながら、勢力を争っているのだ。


つい数年前までは、その中でも氷影は圧倒的な力を持ち、領地までもっていたほどだった。


「・・・覇王の暗殺、各国領主の暗殺、密偵と、いろんな城下にうようよいるな。」

右目の眼帯をなでながら、独角(どっかく)は続ける。

「ここの周辺の国は、一括して黄我に依頼しているようだな。依頼は、まぁ・・覇王の動きと――」

「オレたちの監視か。」

流菜が口をはさむ。服に飛び散った、血を気にする様子もない。

「そういうことだな。大して覇王がやっかいでなぁ・・・火嵐が雇われているんだなぁ。」


ほぅ・・・・と流菜の眉がうごく。


「相当気にいったんだろうな、覇王が。他の依頼を全部断っているようだ。」

「火嵐が総出でお守とは・・・・戦にも出しているんだろうな。褒美は、領地か。」

「まぁ、大方そんなところだろう。戦に出ているようだと、やっかいだぞ。兵が城を挙げている間に、

簡単に攻め落とされる。」

「戦するなら、裏部隊を用意しての総力戦ってことかぁ。やっかいだなぁ・・・ただでさえ、城内もきな臭いのに。」


龍暗はじろりと、流菜を睨む。


「あれほど、右将軍は挑発するなっていっただろうが。あのじいさんの派閥はでかいんだぞ。

もともと、覇王にさっさと降伏したほうがいいと思ってるやつらだしな。内通し出すぞ。」

「だから、踏み絵といっただろうが。」

「あのなぁ、それと怒らせるのは違うんだよ~、勘弁してくれよ。やんやん言われるの、俺だぞ。」


やんわりと、女の声が割って入った。


「何を言っても駄目ですよ、龍暗殿。左頭がそんなことを気遣うわけないでしょう。」


龍暗のために塗り薬を調合し終えた、若葉が微笑みを浮かべている。


「殺さないだけよかったと、思って差し上げなくては。」

「黙れ。それに、オレはもう左頭じゃない。」


不機嫌そうに、流菜は茶をすする。

気にする様子もなく、若葉はにこにこと微笑んでいる。


「まぁ、いいや。監視と暗殺もやむなし、って依頼がでてるのはわかった。同盟は無理だな。

戦になったら、陸の孤島状態というわけか。」


龍暗の頭の中に、いくつものシナリオが組みあがっては、崩れ去り、また、組み上がる。


「覇王の密偵は誰が行ってるんだっけ?」

「紫紺(しこん)と朽葉(くちば)をいかせてる。数日中にはいったんひいてくるだろう。

 期待にはそえないかもしれないぜ。火嵐が全力をあげている以上、うちの強者たちでも、荷が重い。」

「氷影の上位筆頭と、左頭をいかせてなお、荷が重いとなると・・・そこまで強くなったのか?」

「お前が離れてからは、異様に強くなったな。うちみたいな残党崩れじゃ、到底及ばんよ。」



独角は、ははっっと笑って手元の茶をすすり、顔をしかめた。





「なぁ、酒ないか?」