[本] 贖罪とは? / 悪意の手記 | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。



文庫本200ページ足らずの小説ながら、
重いテーマに真正面から取り組んでいます。

  人をなぜ殺してはいけないのか。
  人を殺した罪を償うとは何をすることか。

十代で奇跡的に命拾いした「私」が、意味もなく人を殺め、
その後、罪と罰に覆われて自分の在り方に苦悩します。


   ◆      ◆      ◆


殺人を犯した十代の少年の視点から描かれた小説です。
 

悪意の手記 (新潮文庫) 悪意の手記 / 中村文則 (新潮文庫)
464円 Amazon
2005年刊、2013年文庫化


15歳の時「私」は致死率の高い治療法が不明の難病に罹ります。
しかも入院後も病状は悪化に絶望的な状況に陥ります。

ところが突然、軌跡的に病状が回復、
再発の怖れを抱えながらも治癒して復学します。

失いかけてとりとめた命であれば大切にそうなものを、
逆に「私」は生きる意味を見出すことができず、
「虚無」といいながら実は生への憎悪に陥ってしまいます。

そればかりか人目のないところで衝動的に人を殺めてしまいます。


   ◆      ◆      ◆

手記1~3から構成され、「私」が次の時期を書いています。
手記1は、15歳の入院中から人を殺してしまうまで。
手記2は、東北の大学に入学後、友人や彼女とつきあう時期。
手記3は、大学を中退し自分の力だけで生活し始める時期。

「私」は人には知られていない罪の意識に苦しみ、
殺人犯として正しい自分の在り方、いわば贖罪の方法論を考え、
自殺と悪人に徹する生き方の二者択一の思考にとりつかれます。


   ◆      ◆      ◆


友人と時をともにしようと、恋人と付き合おうと、
殺人の被害者遺族を目の当たりにしようと、
善悪の判断は、誰にでも明快な客観性から下しきれれず、
主観に左右されるばかりです。
答えは見つかりません。

「私」は自殺と悪人に徹する二者の間で揺れ続けます。


   ◆      ◆      ◆

そんな「私」が、自分=殺人者の生の許され方を求める姿に
私の目には映りました。

読者の私も考えました。

作者中村文則は終盤で「私」に答えを提示しました。
おそらく、作者がこの小説を考えながら/書きながら、
幾度も確かめながら考えた結果でしょう。
中村文則版「罪と罰」ともいえそうです。

背景となる思考はまったく異なりますが、
「私」がすべきこととして私が出した答えは同じでした。
(同じであることは正しいことでも誤ったことでもありません)

小説につきあって、ヘビーなテーマとちょっと格闘しただけで、
かなり疲れてしまいました。



[end]


*** 読書満腹メーター ***
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読みごたえレベル E■■■□□F


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