真空管ラジオ『 コロムビア COLUMBIA 1510 』の修復 - Part.1 | アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々
私が小学校低学年だった頃はまだテレビが一般家庭まで普及していなくて、
ほとんどの家庭ではラジオが娯楽や情報入手の手段として使われていました。

既にトランジスタラジオが発売されていたけど、それは主に携帯用として使わ
れていて、家庭内で使用される据置型のラジオはほとんどが真空管式でした。

私の家では、居間の鴨居の所に神棚!と並べて設けられた専用の棚の上に
松下電器製の真空管ラジオが鎮座していたように記憶しています。

それは今のラジオのように小さくて目立たない地味な物ではなく、大人が何とか
抱えられる程の大きさで、電源を入れると大きなパネルの照明が煌々と輝いて、
十数秒ほど待たされた後でようやく音が出始めるような悠長なものでした。

そして、その音は今時のトランジスタや集積回路といった半導体素子を使用した
ラジオの音とは違って、ふくよかで暖かみがあって、落ち着いた風情のあるもの
だったように記憶しています。

「あの音をもう一度聴いてみたい」と思い立ち、某ネットオークションの
“家電、AV、カメラ>オーディオ機器>ラジオ”のカテゴリで、キーワード
『 真空管 』で検索してみたら、思ったより多くの出品があって驚きました。

その多くの出品の中で“特大サイズ”の日本コロムビア製真空管ラジオが
目に留まりました。

出品者の『商品説明』には次のように書かれていました。
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 レトロな懐かしい真空管ラジオです。
 コロンビアHI FI

 真ん中のつまみがありません。(音量調節)
 ザーという雑音しか聞こえません。

 ジャンク品とします。
 ※大きさ約 高さ40cm 横幅55cm 奥行き21.5cm
  (誤差がありますので、ご了承ください。)

 わかる方・ご利用できる方どうぞ!!
 経年による傷みがございますので、 (汚れ・錆・擦れ・傷)
 画像をよくご覧の上、ご判断願います。(画像が全てです。)
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画像から 1960年頃に製造された製品と推定されました(約50年前!)。
真空管ラジオとしては新しい、最終期に近い頃の製品と思われます。

ジャンク品だけど、キャビネット内部の画像を見ても大きな損傷はなく、
音量調節ツマミ以外には欠品もなさそうだし、キャビネットの内側には
回路図も残っているようなので、“ラジオ少年”だった頃の微かな記憶を
頼りに何とか修理できるのではないかと考えて、これを落札しました。

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着荷時の荷姿です。

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開梱します。

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ジャストサイズの段ボール箱! (ラジオに合わせて改造?)

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ジャンク品にもかかわらず丁寧に梱包されていました。

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木製のキャビネットにプラスチック製のダイヤルパネルが付いていて、
2個のスピーカーが広いスペースを占めています。

大きさを測定してみたら「幅550mm、高さ395mm、奥行き235mm」。
小学生のころ家にあった松下電器製のラジオより一回り大きいようです。
ラジオとしては史上最大級の大きさではないかと思われます!?

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操作パネルです。
出品者の商品説明の通り、真ん中の『電源スイッチ-音量調節(SW-VOLUME)』の
ツマミが欠品です。
その左は『音質調節(TONE)』で、右は『モード選択(SELECTOR)』のツマミ。
上の大きなツマミは二重構造になっていて、外側が中波(MW)と短波(SW)の
『バンド切り換え』のツマミで、内側は『選局ダイヤル』のツマミです。

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右側が中波のダイヤル、左側は短波のダイヤルで、選局ツマミを回すと両方
の針が同時に動きます(中波用と短波用で1本の針になっている)。

当時の周波数の単位は“サイクル毎秒(c/s)”だったので、各ダイヤル目盛り
の上端に“KC”(キロサイクル)、“MC”(メガサイクル)と表示されています。
こんな所も懐かしい。

パネル最上部の丸い物は『マジックアイ』です。
電波の同調具合に応じて発光部の開口面積が猫の目のように変化して、
選局操作を容易にしてくれます。

子供の頃これを始めて見たときは、その緑色の発光の美しさと発光部の大きさ
の滑らかな変化に何か神秘的なものを感じたものです。
今時のラジオはボタンを押すだけのデジタル選局なので、全く無縁の物です。

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背面です。
埃で少し白っぽくなっているけど、ちゃんと裏蓋が付いています。
アンテナ端子などの外部接続端子も原形を留めています。

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左側面は少し傷が付いています。

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右側面は綺麗です。
フラッシュの影響か左側面と色が違うように見えるけど、実際は同じです。

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上面は物を置かれたり埃がたまったりするので、それなりに汚れています。

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底面には吸気口が2つ設けられています。

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大きい方の吸気口にズームイン。
金網の奥に電源トランスの底面が見えます。

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裏蓋を外しました。
キャビネットの真ん中より少し左寄りに縦の仕切り板があって、その右側の
部屋には出力トランスと2個のスピーカー、そして電源トランスと一体化した
電源回路部が取り付けられています。
仕切り板の左側の部屋には、電源回路以外の回路を実装した縦長のシャーシ
がパネルに平行に(地面に垂直に)取り付けられています。

一般的な真空管ラジオでは弁当箱を裏返したような形のシャーシがキャビ
ネットの底面に水平に取り付けられ、スピーカー以外の全ての部品がその
シャーシの上や中に実装された構造になっているけど、このラジオは少し
ユニークな構造になっています。

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右側の部屋にズームイン。
それなりに汚れてはいるけど、まだ金属に光沢があるし、電源ケーブルも
艶があって、しなやかさが残っているように見えます。

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左側の部屋にズームイン。
シャーシにも光沢があって綺麗です。
真空管の抜けはなく全部実装されています。

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4端子の端子板がキャビネットの側面と底面に1個ずつ取り付けられています。

側面の端子板はアンテナ、アース、そして蓄音機?のピックアップの接続用で、
底面の端子板は外部スピーカー接続用のようです。

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キャビネットの側面に『配線図(WIRING DIAGRAM)』が貼られています。
このラジオの型名は“1510”のようです。

基本的には当時の真空管ラジオの定番『5球スーパー』の回路だけど、
“Hi-Fiラジオ”という事で『音質調節回路』や『負帰還回路』などが
付加されているようです。

なお、『配線図』は『回路図(Circuit Diagram)』と同義語です。
私が“ラジオ少年”だった頃は『配線図』が普通だったけど、いつの頃からか
『回路図』の方が普通に使われるようになっていました。
以下では『回路図』と書くようにします。

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こんな古い製品の電源をいきなり入れるのは危険なので本来は事前に十分
な点検をする必要があるけど、出品者の説明に「ザーという雑音しか聞こえ
ません」と書かれていたので、「爆発したり燃えたりする事はないだろう」
と判断して、そのまま電源を入れてみることにました。

『SW-VOLUME』のツマミが欠品なので、右側の『SELECTOR』のツマミを抜いて
『SW-VOLUME』のシャフトに付け替えてスイッチを入れたら、パネルのランプ
が点灯しました。
最近のラジオやラジカセの暗い液晶パネルとは違って、とにかく明るいです!

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裏に廻ってシャーシを撮影。
パネルのランプの明かりが漏れているので判り難いけど、4本の真空管は
全て点灯しています。

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電源回路の整流管も点灯しています。

真空管が暖まるのを待って、VOLUMEツマミを徐々に回し始めたら、スピーカー
から時々「ガリガリ」、「バリバリ」と大きな音がします。
VOLUMEの可変抵抗器に接触不良があるようです。

VOLUMEを「ガリガリ」、「バリバリ」が出ない所に合わせて、選局ダイヤルを
端から端まで往復させたけど、放送は全く受信できませんでした。
出品者の説明通りなので驚く事はありません。

ところが、試しにバンド切り替えスイッチを『短波(SW)』に切り換えて、
同じように選局ダイヤルを端からゆっくり動かしていったら、日本語の放送が
受信できました!!
『 ラジオNIKKEI 』です! ( 旧 『日本短波放送 (ラジオたんぱ)』 )

アンテナを繋いでいないにもかかわらず、かなり明瞭に受信できました。
しかし、VOLUMEを絞っても音量が変わらず最大音量時のような音が出ます。

ともかく短波だけでも音が出るという事は、ほとんどの回路が正常に動作
している事を意味するので、意外と簡単に修復できそうな感触です。

<現状のまとめ>
①中波は受信できないが、短波は受信できる。
②受信中、VOLUMEツマミの位置に関係なく常に最大音量?で鳴る。
③VOLUMEツマミを動かすと、かなり頻繁に「ガリガリ」『バリバリ』と
 最大音量?の雑音が出る。

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この続きは“Part.2”(公開済み)へ・・・

<参考サイトへのリンク>
ラジオNIKKEI
日経ラジオ社 - Wikipedia