吃音とアレクサンダー・テクニーク | カラダのココロ

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アレクサンダー・テクニーク教師の青木紀和のブログ。
よりよく自分自身を使いこなすヒントやアイデアに関する情報を綴ります。

「ボクは吃音ドクターです」(菊池良和著、毎日新聞社)を読みました。

吃音と共に生きてきた自身の半生(まだお若いので1/3生くらい)の
経験、思いが記されています。吃音の人が持ちやすい気持ち、思考の傾向
などがわかりやすく書かれている。

最終的には
「どもっていてもいいんだよ」
と本人が思えることがとても大切なことと言っています。

また、聞き手となる周囲も「どもっていてもいいんだよ」と理解する
ことも大切で、そういう社会にしていきたいという夢を持ち続けて
今も九州の大学病院で医者として研究されている。

私も吃音については、アレクサンダー・テクニークのレッスンを通じて
初めて理解するようになりました。100人に一人はどの国にもいるそうです。

菊池氏によると、吃音の克服法などはない、とのこと。
ただし医学研究も少しずつ進んでいて、脳の働きと関係している
ことがわかってきているそうです。

アレクサンダー・テクニークと吃音についてですが、遡ると
創始者のF.M.Alexanderまでいきます。彼は吃音の生徒さんと
レッスンをした経過を著書で触れています。

F.M.Alexander自身も元々は声の問題があって、このワークを
見つけていきました。吃音とは違いますが、声がかすれてしまう
という問題でした。それもあってか、このワークは声の問題には
とても有効です。レッスンをすると、変化しやすいのが声です。
急に響きがよくなった声が出たり、発声しやすくなったりします。

そして長年のアレクサンダー・テクニークの歴史の中で、
吃音の改善に役立つと言われてきています。その経緯もあり、
私のところにも吃音の方がレッスンに来ています。

症例としてはすごく多くみてきたということではありません。
10数例です。ただ、私がみてきた吃音の方々には共通の体の使い方の
特徴があることがわかります。

私は日々人の体に直接触れて、体の緊張の触診しています。
また日々レッスンの中でその方の動きも観察しています。
その経験の中でわかってきたことは、

通常の姿勢では猫背ぎみで、座ったときに骨盤が後傾する(骨盤がねる)。
それに伴って、頭・首が前側に倒れやすい。立っているときも、お尻が
前にいくことで、座っているときと同様の骨盤の後傾が起こっている。
結果、背中が猫背ぎみとなり、頭・首が前側に倒れやすくなる。

これはお腹側の筋肉がやや弛緩する体の使い方となっていて、
話そうとするときに腹筋が張れず、それによって横隔膜が
動きづらくなっている感じがあります。

ある人は「話そうとするときにさらにお腹を引っ込めようとしている」と
教えてくれました。それは「横隔膜が上がってしまう感覚があり、
それがあると出しづらい、不快な感覚があるため」と言っていました。

そして、もう一つの特徴は話そうとすると首を固める傾向です。
普段の姿勢の時点で首を固めている方もいますが、話そうとすると
力みのような感じで固くなります。

この首を固める傾向というのは吃音の方に限りません。多くの方にも
見られるものです。吃音の方の方が、なんとか出そうという思いからか、
より強く固まる感じもします。

これらは人によっての程度の差はあります。
しかし、傾向としてはほぼ皆さんが持っていた特徴です。

ポイントは、姿勢について、こちらの教室で提案する楽な状態に
なってもらうことで、言えなかった言葉が発しやすくなる感じがする
ということです。これはあくまでもレッスン時でのことですが、
少なくとも「より言いやすくなる」と皆さんが口にします。

しかし、レッスンでできたからといって、問題となる実生活の中で
できるとは言えません。始めてすぐの場合は、ほとんどできません。
それは習慣的な姿勢の感覚が根深く、提案した姿勢をなかなか実現
できないことが大きいです。

それは感覚評価というのは時として当てにならない場合があるからです。
自分でできたような感覚があったとしても、実はその感覚評価自体が
正確ではない場合があり、その誤った感覚を頼ろうとしてしまうからです。

そして、これが吃音の方に特有なことかもしれないと感じたことですが、
この姿勢の習慣がとても根深いように思います。具体的には、
何度も提案してもすぐに元に戻ろうとしてしまう、または固め方が強いのです。
または、自分を支えるときの筋肉の感覚が少し希薄なため、
新しい感覚情報を認識しづらいのかもしれません。

単なる肩こりや腰痛でレッスンに来られる方もいますが、
吃音の方に比べて姿勢や体の使い方に変化を与えるまでが早いように感じられます。

ただ、それができないわけではないようです。
新しい姿勢の感覚がわかってくると徐々に変化が出てくるように感じます。

この感覚を修正していくには、少なくとも数週間の間、レッスンに取り組んでもらい、
提案する姿勢や体の使い方を学んでもらう必要があります。

そして、ある程度レッスンを継続できた方々は程度もありますが、
改善の傾向が現れてきています。

特に半年程度続けられた方では、以前までは電話に出ても会社名が出づらい、
自分の名前を発しづらかったのが、出るようになる頻度が相当増えました。
また、「ありがとうございます」も言いづらかったものが、出しやすく
なるという変化がありました。

3ヶ月間続ける中では少なくとも姿勢に変化を与えていけると思っています。
この感覚がわかってきて、初めて実生活の中の発声の部分でその姿勢や
体の楽な状態を実現できるようになります。成功の確率があがるのは
このステップを経た後になります。

ここで私がお伝えしたかったことは、
「体の使い方」「体の余計な緊張」が
吃音の原因である可能性があるのではないかということです。

というのは、この「体の余計な緊張」は本当に気づきづらいことだからです。
肩こりや腰痛はこの「余計な緊張」からくる場合は非常に多いのですが、
多くの人はそれに気づきがありません。ここで楽な体の状態を体験して
初めて「こんなに力が入っていたんだ」と気づく方が多いのです。

吃音を矯正する施術者、吃音の研究者、言語聴覚士、ヴォイストレーナー
でもこの自分の体の余計な緊張に気づいていない人は多いでしょう。
このため、こうした視点がないのだとも思います。

しかし、実際にはここでレッスンを受けた何名かは
程度の差こそあれ、改善の傾向を示しています。
このレッスンは治療ではないため、必ず治癒を約束できるものではありません。
私が伝えたいことは、あくまでも可能性があるということです。

吃音は、精神面が原因、脳の機能に関係がある、とも言われているようです。
また「治そうとすると、それがプレッシャーになって、余計に悪くなる」と
感じている方もいるかもしれません。

確かに、最初のきっかけがいわゆるトラウマ体験のように、
精神的なものが原因だったかもしれません。だからといって、
そこに体が介在していたことを忘れて欲しくはないのです。

最近では「腰痛もストレスが原因」と言われたりもしています。
私はこれを短絡的に結びつけてしまうのには疑問を感じています。
私は、ストレスがきっかけで「自分では気づかない体の余計な緊張が加わり」
それが腰痛に引き起こしているのではないかと考えます。

それは多くの人と同じように、多くの医者も体の余計な緊張に
気づいていないからです。医学は科学です。科学には仮説検証が必要です。
仮説は研究者が作らなければなりません。自身が気づいていないものは
仮説として採り上げようがありません。

慢性的な腰痛を治す有効策が見いだせない中、ストレスレベルとの
相関が高いからといって、直接結びつけてしまうのはどうかと思っています。
現に、英国の医学論文でアレクサンダー・テクニークが慢性的な腰痛に
通常の医療やマッサージよりも効果があることが検証結果として出ているのです。
この研究はとても大きいもので、欧米ではとても注目されました。
ある意味で「体の余計な緊張」に医師が気づくことになった初めての
論文だと思います。

吃音についても、なんらかの形で精神面が関与していると思います。
上述したように、そこには「体の余計な緊張」が介在する可能性があります。
その緊張に気づき、やめていくことができれば、発声に変化が起こる
可能性があります。

先ほど「プレッシャーがより結果を悪くしてしまう」と書きましたが、
これはステージパフォーマンスをやる人で同じように思う人がいると思います。
アレクサンダー・テクニークはとりわけステージパフォーマーの緊張にも
有効だと認められています。米国のジュリアード音楽院でアレクサンダー・
テクニークがカリキュラムに導入されていたり、英国の王立演劇スクールでも
取り入れられており、多くのパフォーマー達に用いられてきました。

つまり、プレッシャーとどのように向き合っていくのかについても
知恵がこのテクニークの中にあるのです。これは吃音で「ちゃんと話そう」
「治そう」とするプレッシャーと向き合っていくのにも役立つはずです。

これは、確かに治癒を約束できるものではありません。
あくまでも改善の可能性について私の私見です。
完全で全ての吃音の人にあてはまる治癒法はないのかもしれませんが、
体の余計な緊張というのが介在している可能性があること
を改めて提言します。

吃音に悩まれている方がいたら、ぜひ一度体験レッスンにいらしてください。
発声がしやすい感覚、いつもであれば出ないのに出る、等の体験を伝えられる
可能性があります。

費用は体験レッスンは4,500円/45分です。
その後の習得のための12回コースレッスンは79,200円(6,600円/回)で、
これは体験レッスン後に受講するかどうかをご検討ください。
https://www.alexlesson.com

東京 恵比寿 見技レッスン
代表 青木紀和