『ラビーニアとおかしな魔法のお話』 | MTFのAkemiのblog イタリア児童文学・皆既日食・足摺岬が好き

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私は、イタリア児童文学が大好きで、皆既日食も大好きで、足摺岬も大好きな、団塊の世代に属する元大学教員で、性別はMTFです。季節の話題、お買い物の話題、イタリア語の勉強のしかた、新しく見つけたイタリアの楽しい本の話題などを、気楽に書いていこうと思っています。

このお正月、四国地方のとある知人(40歳台の女性)から来た年賀状に、「春からイタリアに移住します」と書いてあり、びっくり仰天しました。

空港からも鉄道の駅からも遠い四国の片田舎に住んでおられる方なので、お餞別をたずさえて気軽に会いにゆくわけにもいかず、どうしようかと思いましたが、とりあえず、イタリアに縁のある童話本を一冊、お餞別に送ることにしました。

「イタリア語はむこうへ行ってから学ぶ予定で、まだほとんどやっていません」ということでしたので、日本語訳のある本を選びましたが、それはビアンカ・ピッツォルノさんの『ラビーニアとおかしな魔法のお話(L'incredibile storia di Lavinia)』です。わが尊敬するイタリア文学者長野徹さんの訳で、2000年に小峰書店から刊行されたものです。原書はトリエステのEdizioni E. Elleという出版社から1985年に出たものですが、そのころは児童文学作家としての著書の名声はまだ日本にはほとんど伝わってきていなかった時代でしたので、翻訳の刊行は遅れました。

ピッツォルノさんの本が日本に翻訳紹介されたのは、2000年のこの本が第一号でした。

お話の内容は、子どもは喜ぶけれども一部の大人からはひんしゅくを買うような、かなり下品なバカ話なのですが、ともかくおもしろいからということで、小峰書店は長野さんの提案を受け入れて、翻訳の刊行に踏み切ったもののようです。私自身は、こんなバカ話だけが翻訳紹介されたのでは、ピッツォルノさんというすぐれた作家が日本では誤解されるのではないかと心配もしたのですが、ともあれ、これを機にピッツォルノさんが日本で知られるようになって、彼女の作品の中のもっと本格的なものも翻訳紹介しようという機運が日本で生まれてくれるなら、悪くもなかろうと思ったものです。

私は訳書の刊行を知って、すぐさま自費で購入したのですが、その直後に長野さんからの献本も一冊送られてきましたので、わが家にはこの本が二冊ある状態になっていました。このままだと宝の持ち腐れになってもったいないから、この機会に、一冊をそのイタリア移住を志している友人にプレゼントすることにしたわけです。

原書は7歳の子どもでも読めるように、やさしい文体で書いてあります。例のイタリア移住する友人の一人息子さんはいま5歳だそうですから、あっちへ行ったらまもなく、お母さんより先に息子さんのほうが、この本を原書で楽しむようになるかもしれません。5歳から7歳ぐらいのころの子どもの外国語習得力は、その言葉が日常話されている環境に置かれた場合には、驚異的ですからね。

お母さんのほうも、息子さんに負けてなるものかという気持ちになって、イタリア語を習得してくださるなら、私のお餞別にも大いに意義があったということになります。

ところで、私はこのブログでたびたびビアンカ・ピッツォルノさんに言及してきたにもかかわらず、この『ラビーニアとおかしな魔法のお話』のことは今まで紹介しないできました。この本はあくまでピッツォルノさんの作品としては息抜き程度のバカ話であって、こんなものだけが彼女の代表作であるかのように、思われたくなかったからです。

私としては、この作品に続けて、『青空からのクロロフィラ(Clorofilla dal cielo blu)』とか『ホームステイの異星人(Extraterrestre alla pari)』のような、より文学性の高い作品の翻訳紹介を小峰書店やその他の出版社がどしどし手がけてくれるようになることを期待したのですが、私が訳文をもっていって提案しても、難色を示されるばかりで、うまくいきませんでした。「日本の子どもに理解されにくい」というのが提案却下の理由でした。すぐれた文学であっても、他の文化的土壌に移し植えるのは、むずかしいことなんですね。