『モンプラチェムの虎』 | MTFのAkemiのblog イタリア児童文学・皆既日食・足摺岬が好き

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私は、イタリア児童文学が大好きで、皆既日食も大好きで、足摺岬も大好きな、団塊の世代に属する元大学教員で、性別はMTFです。季節の話題、お買い物の話題、イタリア語の勉強のしかた、新しく見つけたイタリアの楽しい本の話題などを、気楽に書いていこうと思っています。

先日、イタリア文化会館での長野徹さんの講演のあった翌日に、同会館で上映された映画は、サルガーリの創作した人物の中でも人気の高いマレーシア人「サンドカン」のエピソードで、1976年に放送された連続テレビドラマ全六回のうちの、最初の二回分でした。

基本的にはサルガーリの1900年発表の小説『モンプラチェムの虎』に依拠しているようですが、サルガーリは同じサンドカンを主人公にしてシリーズものを書き、『モンプラチェムの虎』には出てこないエピソードをもいろいろ創作しているようなので、テレビドラマでは、それらの後期の作品に出てくる場面をも適当にアレンジして取り入れているようで、『モンプラチェムの虎』そのものと同じ筋にはなっていない部分もありました。

サンドカンは、ボルネオ北部の小さな独立王国の王子として生まれたけれど、イギリスの劫掠を受けて国を失い、親族も殺され、復讐の鬼となって、ボルネオ北岸に近いモンプラチェムという島を拠点に、配下を集めてイギリス船を襲う海賊となった男です。「モンプラチェムの虎」と恐れられ、その首には懸賞金がかかっています。

サンドカンには、マレーシア人以外の異色な友人もいます。イギリス嫌いのポルトガル人であるヤネスという男です。彼が、時にはイギリス人に従うインド人の兵隊に化けたりして、陰に陽に、サンドカンの危機を救います。

あるとき、イギリス船との戦闘に敗れて負傷したサンドカンは、ラブアンという島に流れ着き、助けられて、人事不省のままイギリス人の豪勢な館で看護される結果となりますが、彼を手当てしたのは、噂の美人としてモンプラチェムにまで名声の聞こえていた「ラブアンの真珠」こと「マリアンナ」という若い女性でした。

サンドカンはイギリス人の手前、身分を偽って、マレー半島からの旅の途中で海賊に襲われて傷ついた善良なマレー人であるかのように装って、傷が癒えるまで居候を続けますが、そのあいだにマリアンナと相思相愛の仲になってしまいます。マリアンナはイギリス人とイタリア人の混血で金髪碧眼の美女。が、彼女をこの地に伴ってきた伯父のロード・ギロンこそは、付近一帯の植民地支配の指揮者でした。傷のようやく癒えたサンドカンは、虎狩りの競技でみごとに先陣を切って虎を一匹仕留めて、マリアンナの厚い信頼を得ますが、やがて、サンドカンの正体はロード・ギロンによって見破られてしまい、彼は命からがらその館から逃げ出さざるをえなくなります。

包囲網を突破してモンプラチェムに帰り着いたサンドカンは、別れ際に誓ったマリアンナとの再会を果たすためなら、どんな犠牲もいとわないという気持ちになり、マリアンナと暮らせるなら、海賊稼業からは足を洗って、どこか安全な土地まで一緒に落ち延びてもいいんだという気持ちになります。しかし、当のマリアンナをロード・ギロンの手から奪取するためには、モンプラチェムの海賊たちの協力が不可欠です。

こんな自分一人の願望のために、当の海賊集団の解散につながるような行為のために、手下たちははたしてついてきてくれるのか、サンドカンには確信がもてません。が、親友のヤネスは、正直に事実を告げたうえで彼らの協力を求めるべきだと、サンドカンに勧めます。こうして、サンドカンのラブアン島への再上陸という大冒険が開始されます。

この『モンプラチェムの虎』は、本邦未訳。私のもっているイタリア語版は Edizioni Scolastiche Bruno Mondadori というシリーズの一冊として刊行された版で、小学校高学年から上ぐらいの子どものための国語副読本のような体裁になっていて、若干の古めかしい単語には注がついています。だから、イタリア語の独学者が読む場合は、この版がいちばん手ごろでしょう。ただし、本を分厚くしないために、あまり重要でない章については、本文全体ではなく、要約で済ませてしまっている部分もあり、完本ではありません。

完本としては Ugo Mursia Editore という出版社から出ているハードカバーの本があります。

いずれも、本のタイトルは Le tigri di Mompracem です。著者名はもちろん、Emilio Salgari です。高田馬場の「文流洋書部」に注文すれば、取り寄せることができます。