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カナダの女流作家マーガレット・アトウッドによる小説。 - 昏き目の暗殺者/早川書房
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彼女は↑でブッカー賞を受賞しているため、イギリス文学に入れていいとは思うのだけれど・・・
やっぱり違うかなと思い、その他の本というテーマにしました。
ホメロスの『オデュッセイア』に代表される、オデュッセウスの貞淑な妻、ペネロペ。
彼女の側の小説になっています。
ペネロペ、ペネロペイアは分かるのですが、なんでペネロピア、「ド」???
と思っていたら、『イリアス』の英語読みである『イリアッド』をペネロペ側から書き直したもの、という意味で「ド」がついているらしいです。
おお、気付かなかった!
良くも悪くも現代らしいものすっごく読みやすーい
皮肉もわっかりやすーーい (皮肉、風刺って、意外と結構な読む力+知識がないと理解できないので、ハードルが高いと思うのです。いちおう文学研究者の端くれだけど、え、これ、皮肉・・・ですよね?ってことは結構あるから。)
ので、一晩であっという間に読了。
ただいくら現代小説とはいえ、テーマがテーマなので
「ペネロペとかオデュッセウスって誰?」 という方は、まずは『オデュッセイア』を読んでからどうぞ。
これだけは、読んでないと全く面白くないと思います。 - ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)/岩波書店
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語り口は、とにかく軽妙。
既に死んで冥界にいるペネロペが、回想する・・・・というよりも、読者に話し掛けるスタイル。
翻訳は、私の大好きな鴻巣友季子氏。
翻訳がいまいち、なんてレビューもありましたが、ううん、鴻巣さんの訳はこんなもんじゃないから!!!
これは確実に、原文がこんな感じのかるーい、ざっくばらんな感じで
そんなふうに訳しただけでしょう。
不思議なのが、どうも『オデュッセウス』 ペネロペサイド版というのはどうもこれしかないらしい・・・・ということ。
現代の女流作家ならば、もっと書いてもいいと思うのだけどな。
私がもし作家ならば、書きたい! と思ってしまう、そう思わせる格好の題材だと思いますが。
内容が内容なので、ギリシャ神話を知っていると楽しめます。
「神々は人間の女に手を(あるいは、前足やくちばしを)出さずにはいられなかった」
とかね(爆笑)
あまりにも軽いので、もっとしっとりとした、
愛する夫の帰国をひたすら待っているけれど、
求婚者が大勢群がり、そのうちの一人くらいにぐらっときちゃって
「でも私は、オデュッセウスを愛してるの!だめよ!」のような、美しいペネロペ・・・・。
・・・・・・・やすっぽいね。
冥界にいるのに、やたら現代の人間界に詳しいペネロペさん。
それはなぜかというと―――
「いまも魔法使いや魔術師―地獄勢と契約を交わした人たち―に呼び出されることもあるわ。それからもっと小物の、例えばこっくりさんをやる人とか、イタコとか、チャネラーとかいった類の人たちね。どのケースも大変なのよ――わたしたちを観て驚きたいというだけで呼ばれて、チョークで書いた円のなかとか、ビロード張りの客間だとかに、姿をあらわさなくちゃならないんだもの」
でも、ペネロペよりも断然呼び出されるのは・・・・・従姉妹のヘレネ。
貞淑の象徴ペネロペよりも、戦争が起こるほどの美しさを誇ったヘレネのほうが引っ張りだこ・・・・というのは、ペネロペさん自身がよくわかっているそうで、
彼女自身も呼び出すならばヘレネにするだろうと。
ほら、ファウストもヘレネ呼び出しましたしね。
しかし、ペネロペはかなりヘレネにジェラシーを感じているのですね・・・・・。
貞女の鑑、と言えば、ペネロペ。
もはや代名詞にもなった超有名人。
貞節で、慎み深く、それでいて美しく、知性も溢れ、機織りの名人。
それがペネロペの一般的なイメージなのですが・・・・
『ペネロピアド』のペネロペは、頭はいいけれど容姿は人並みってところみたい。
貞節・・・・というよりも、求婚者があまりにも酷すぎて、身を任せるわけがないよねという感じ。
冥界で、彼女の求婚者の一人と再会します。
彼は最初は「神のごとき御姿のペネロペイア、世にも美しく知的なひとよ」なんてことをほざくけれど、
すぐに本性を表わし
ペネロペの財産が目当てだということを明らかにします。
うん、まぁね、それも当然なんだけどね・・・・・・・。
気になるのが、ペネロペは父親に殺されそうになった・・・というくだり。
こんなのありましたっけ?
小説内ではそうなっているのか、『オデュッセイア』にもちゃんと書かれていたけれど忘れてしまっているのか、ホメロス以外の説でそういうものがあるのか。
息子テレコマスとのやりとりは、現代の母子と変わりないもので
突然父親を捜しに行くテレコマスが無事に帰ってきても、母としては心配で心配で
怒ってしまうのですね。
で、「ちゃんと無事に帰ってきたのだからいいじゃないか!」なんてことを彼も彼で言う。
そのうち自然と仲直りをし、テレコマスがメネラオスとヘレネにも会ったと聞いたペネロペは、ライバル心をむき出しに・・・・。
相変わらず彼女は美しいのか、と息子に尋ねる不安げな母の面持ちを悟った優しい息子は、
さっきまで「黄金のアフロディテのごとく輝かしく」なんて言っていたのに
「はっきり言って、かなーーり老けたね。」
「お母さんよりずっと老けてる。なんか、くたびれちゃった感じ。どこもかしこも皺くちゃでさあ」
「しなびたマッシュルームみたいだよ。」
・・・・・優しい息子!!!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
身近にヘレネみたいな女性がいたら、そりゃあ意識しちゃいますよねぇ。
あんだけのことをしておいて、最後は元夫とくっついたり、全く罰を受けていないし。
せいぜいダンテの時代になってから地獄に落とされたくらいなもので・・・・・
おもしろくない、というのはわかるよ、ペネロペさん。
ペネロペサイドからの物語なので、『オデュッセイア』内でのあの話やこの話が、ペネロペはどのように捉えていたかが分かるようになっています。って、わざわざ言うことでもないですね。
変装したオデュッセウスにはすぐに気付いていたらしいのですが・・・・
「わたしは彼だと気づいても、おくびにも出さなかった。彼の身に危険がおよぶかもしれないでしょう。それに、男が自分の変装テクニックを得意に思っているなら、『わかっちゃった』なんて言うのは、妻として愚かよ。」
このあたりって、もろにアトウッドの解釈なわけです。
先行研究もかなり読み漁ったんじゃないかなぁ。
最大の研究ですよね、こういう新たな小説を作っちゃうのって。
問題なのは、なぜ、12人の女中を殺したのか? ということ。
アトウッドも、これを中心しているようです。
これはねぇ、『オデュッセイア』を読んだことがある人ならだれもが感じる疑問。
「え、殺されて当然でしょ」と感じるって人は、人間的にどうにかしてんじゃないの、と言いたくなるくらい
なんにも悪いことをしていないのにいきなり殺されます・・・・・・。
結局、「なぜか」という結論は出ないまま、
文学的なシンボル論に辿り着きます。
うん、実際ねー、こういうのが一番正しいと思うのですよ。
こういう「読み」は文学畑だと日常的なので、ちょっと嬉しくもあったり。
ここはペネロペではなく、女中サイドで述べられている箇所。
「要は、あたしたちのことであまり気をもむ必要はないってことです、教養人のみなさん。
実在の娘として、本物の血と肉をもち、本物の痛みと不当に泣く生身の人間として考えなくてもいいですし。そんなふうに考えたら、平静ではいられないでしょう。汚い部分はぽんと切り捨てて。
あたしたちは純然たるシンボルとお考えください。お金とおなじぐらい実体のないものと。」 - ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)/岩波書店
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