宮城における出血性潰瘍の増加 2011.3-6月 | タイ語、単語帳の素材?

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備忘録。

2015年5月下旬にタイトル変更。
ここは、site δ です。

 前回の記事で「胃潰瘍」が被ばくに関連しそうな症状てして挙げられていたので(リンクはぜんそく、胃潰瘍、PTSDなど精神的疾患は関連するのか・・・ )、今回は、宮城県において3.11後の3か月間で胃・十二指腸潰瘍のうち出血性潰瘍が増加していたという記事を紹介しよう。日経メディカルから引用すると、

東日本大震災後に非H.Pylori・非NSAIDsの出血性潰瘍が増加
2012. 4. 23
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jsge2012/201204/524570.html (リンクはココ

 大規模災害は、ストレスと消化性潰瘍の関連を検証する貴重な機会と考え、東日本大震災被災地域について調査を行ったところ、震災後は前年と比べて出血性潰瘍患者が有意に増加し、中でもH.Pylori陰性でNSAIDsも内服していない出血性潰瘍患者の割合が増加していることが、東北大学消化器病態学の菅野武氏らの研究で明らかになった。・・・

 対象は、宮城県内基幹7病院において震災発生直後(2011年3月11日)から3カ月間に新たに胃十二指腸潰瘍と診断された383人(2011年群)と、2010年同時期に胃十二指腸潰瘍と診断された261人(2010年群)。年齢、性別、潰瘍の数、H.Pylori感染の有無、アスピリン /NSAIDs服用の有無について調べた。

 その結果、上部消化管内視鏡の総実施数は2010年群が6533人、2011年群が5625 人で震災後の方が少なかった。しかし、出血性潰瘍は2010年群で119人(45.6%)に対し、2011年群では257人(67.1%)と有意に増加していた(P<0.0001)。

 また、2010年群と2011年群の胃十二指腸潰瘍の患者について、H.Pylori感染の有無とNSAIDs内服の有無によってそれぞれ4群に分類したところ、H.Pyloriに感染しておらずNSAIDsを内服していない非H.Pylori・非NSAIDs潰瘍の患者が、2010年群(13.1%)に対して2011年群(23.5%)で有意に増加していた(P<0.02)。 (強調色付けは引用者)

ここで、「H.Pylori」はヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌。細菌の一種)、「NSAIDs」は非ステロイド性消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs、NSAIDs。読み:エヌセッド)のことである。3.11直後の3か月間は、

・前年同期と比べて出血性潰瘍患者が有意に増加した(偶然にしては、かなりあり得ない事が起きた)、
・中でも、ピロリ菌未感染かつNSAIDs未使用の出血性潰瘍の患者の割合が増加している

ということらしい。記事の数値を表にまてめておくと、


表 宮城県内基幹7病院における3.11直後3カ月間の胃・十二指腸潰瘍のデータ
 対  象   上部消化管内視鏡の総実施数 診断数  うち出血性潰瘍 うち非H.Pylori・非NSAIDs潰瘍
 2011年群        5,625            383    257 (67.1%) *      90 (23.5%) ** #
 2010年群        6,533            261    119 (45.6%)       34 (13.1%) #
注)*:p<0.0001、**:p<0.02、#:件数は割合から推測。
出典)上記記事。


 これだけだとピンとこないかもしれないので、胃・十二指腸潰瘍の原因について復習しておくと、例えばgooヘルスケアから、

胃・十二指腸潰瘍
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10G20900.html (リンクはココ

原因は何か
 胃・十二指腸潰瘍の成因のうち、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に由来するものが十二指腸潰瘍で95%、胃潰瘍で70%前後とされています。ピロリ菌以外の成因として重要なのは、薬剤、とくに非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs:エヌセッド)です。アスピリンが最も有名ですが、日本ではアスピリン以外でも多数のエヌセッドが関節リウマチやかぜなどの治療に使用されています。

 これらの薬剤は、胃酸から胃粘膜を守るうえで重要な役目をしているプロスタグランジンの合成を抑制する作用をもっています。そのため、エヌセッドを服薬すると、胃の防御機構が障害され潰瘍を形成するのです。エヌセッドに由来する潰瘍の特徴は、上腹部痛などの症状を伴わない例が多いので、治療を受けないまま悪化して出血を起こしたり、難治性の潰瘍に移行する例が多いといわれています。

 現在、ピロリ菌とエヌセッドが胃・十二指腸潰瘍の2大成因といわれており、それ以外の原因によるものは、日本では5%を切るくらい少ないことが明らかになってきています。したがって、ピロリ菌とエヌセッドに対する対策が確立されると、胃・十二指腸潰瘍の治療および予防が飛躍的に進歩すると考えられます。 (強調は引用者)

この解説が多分現在の主流の説だと思うけど、ピロリ菌に由来するもの(ピロリ菌原因説)、NSAIDsに由来するもの(NSAIDs原因説)が胃・十二指腸潰瘍の2大成因とされており、それ以外の原因(ストレスなど)は、かなり少ないとされているようだ。

 主流の二つの説を詳しくみてみよう。先ず、NSAIDs原因説での発症の仕組みは、上記の引用部分によれば、NSAIDs(エヌセッド)は、「胃酸から胃粘膜を守るうえで重要な役目をしているプロスタグランジンの合成を抑制する作用をもっています。そのため、エヌセッドを服薬すると、胃の防御機構が障害され潰瘍を形成するのです。」とされている。

次にピロリ菌原因説についてはここには詳しく書いてないので、別の項目をみておくと、

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10G20600.html (リンクはココ

どのようにして病気を起こすのか
 [中略]
 ピロリ菌が、胃酸の存在する胃のなかで生きていけるのは、菌のなかにウレアーゼという酵素をたくさんもっており、この酵素が尿素からアンモニアを生成させ、アンモニアによって胃酸を中和させるからなのです。

 ピロリ菌が、どのように胃の粘膜を障害していくのかについてはまだ十分わかっていません。ひとつには、ピロリ菌によって生じたアンモニアが胃の粘膜を障害することが明らかになっています。また、この菌がもっている蛋白分解酵素が粘液を分解し、胃の防御機構を低下させることによって酸の障害性を増強する機序(仕組み)も考えられています。
 ピロリ菌は、感染すると白血球やリンパ球などの炎症細胞浸潤(しんじゅん)を胃粘膜に引き起こしますが、呼び出されてきた白血球などから活性酸素や種々の細胞障害物質が放出されて、細胞障害を起こすともいわれています。 (強調は引用者)

胃・十二指腸潰瘍の発症にピロリ菌感染が関与することは分かっているものの、その詳細な仕組みはわかっていない状況にあるようだ。

 以上の復習を踏まえて冒頭の記事をみると、多少理解が深まるのではないだろうか。

 出血性潰瘍の増加の原因について、冒頭の記事は「大規模な災害の後には、ストレス単独でも潰瘍発生の因子となり得る可能性が示唆された」との研究者の談話を紹介している。どういう種類のストレスであるかは、これ以上の記述がないので想像するしかないが、肉体的なストレスを排除すべき理由は特にないだろう。


 ついでに、以前の記事で紹介した、交感神経緊張に起因する顆粒球増多による粘膜破壊の話(詳細は、交感神経の優位と粘膜・組織破壊 (1/2) )との関係に言及しておこう。安保 徹氏の著作「免疫革命」(講談社、2003.7月)から引用すると、

・・・研究の結果、胃潰瘍はあきらかに交感神経緊張状態がもたらす顆粒球増多が引き起こしていることがはっきりしました。ストレスがかかると、顆粒球が増えて、胃もふくめた身体中の粘膜におしかけ、そこへ、ヘリコバクター・ピロリ菌などの刺激によって、活性酸素が産生され、粘膜組織を破壊していきます。これが、胃潰瘍発症のプロセスです。ヘリコバクター・ピロリ菌が粘膜破壊の主役でないことは、この菌をほとんどもっていない二十歳代の若者でも、強い恐怖や刺激にさらされると胃潰瘍を起こすという実験結果からもわかります。 (同書238頁)

安保説に従ならば、ピロリ菌はそもそも原因ではなくて、顆粒球増多が原因であるということになるだろう(顆粒球増多原因説)。この辺りの話をまとめると以前の記事の繰り返しになってしまうので、それを避けるため、代わりに次の関係文章のアドレスを紹介するだけにとどめたい。これらを読めば安保氏の考え方がつかめると思うので、興味がある方は読んでほしい。
 
「医学博士 安保徹オフィシャルサイト」から、
免疫相談室-胃潰瘍-Q 胃潰瘍の再発予防にピロリ菌の除菌を勧められています。
http://toru-abo.com/index.php?%E5%85%8D%E7%96%AB%E7%9B%B8%E8%AB%87%E5%AE%A4%EF%BC%9A%E8%83%83%E6%BD%B0%E7%98%8D (リンクはココ

安保 徹「自律神経と免疫の法則」(三和書籍、2004.9月) 36-42頁(6章-胃潰瘍発症のメカニズム
(「医学博士 安保徹オフィシャルサイト」(本人の公式サイト)の次のリンク先にて関係部分を無料公開。http://toru-abo.com/index.php?%E7%AB%8B%E3%81%A1%E8%AA%AD%E3%81%BF%E5%85%8D%E7%96%AB%E5%AD%A6%E8%AC%9B%E7%BE%A9 リンクはココ


(その他参考サイト)
サイト「SOD-JPドットコム」から、
ストレスで好中球増加→胃潰瘍の原因
http://www.sod-jp.com/page1/sikkanbetu/03/3-4.htm (動物実験に関する1995.11月の新聞記事の紹介)

公益財団法人 日本医療機能評価機構のサイト「医療情報サービス Minds(マインズ)」から、
第1部 胃潰瘍の基礎知識
http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0009/G0000138/0004


〔関係記事〕
酸化ストレス(活性酸素)による生体の障害 2012/5/11