以前の記事では、放射線被曝は主として酸化ストレスによる障害を招き得る、ということをみたので(リンクはココ )、今回は、この過程を少し掘り下げて分析してみたい。それによって、酸化ストレスを生体のバランス面からながめて、次の事項を理解することの一助になればよいだろう。

・酸化ストレス(活性酸素)は、生体のバランスを交感神経優位に導く。
・交感神経優位の下では、免疫系は顆粒球(白血球の一種)が優位となる。
・交感神経優位の状況は、長期にわたると病気のベースになる。


 先ずは、以前の記事では端折った酸化ストレスの定義をみておこう。いろいろあるのだけど、とりあえず日本抗酸化学会のサイトから、

酸化ストレス
http://www.jsa-site.com/sanka_storesu.htm (リンクはココ

 酸化ストレスは生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差として定義されています。活性酸素群
は、本来、エネルギー生産、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに際して生産される有用なものですが、生体内の抗酸化システムで捕捉しきれない余剰な活性酸素群が生じる場合、生体の構造や機能を担っている脂質、蛋白質・酵素や、遺伝情報を担う遺伝子DNAを酸化し損傷を与え、生体の構造や機能を乱し、病気を引き起こし、老化が早まり、癌や、生活習慣病になりやすくなります。(強調は引用者)

   (注)酸化ストレスは、もともと「酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用」の趣旨なので、
    論理的には、活性酸素由来の寄与と活性酸素以外のもの由来の寄与とがあるはずである。しかし、
    ここでは便宜前者に限るものとして定義されている(推測するに、後者の影響は前者のものより
    かなり少なそうだ、という前提なのだろう)。より一般的な酸化ストレスの定義は、
    「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、前者に傾いた状態」だと思われる。

活性酸素(「群」を付けた方がより正確だろうが面倒なので、省略)は、生体にとって有用なものだけど、過剰になると問題がおこるらしい。よく分からない時は易しい例を調べてみるとよいとの教えに従い、有用の例示において最初に出てきた「エネルギー生産」での活性酸素の生産をみてみると、東邦大学のサイト「健康長寿」から、

生体分子に起こる加齢変化 01-活性酸素とミトコンドリア
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc3/doc3-03-1.html (リンクはココ

 ミトコンドリアは、活性酸素の産生源として特に注目されています。私たちが呼吸で取り込んだ酸素の90%以上はミトコンドリアで使われます。ミトコンドリアの最も重要な機能は、その酸素を使って成長や生存のためのエネルギー(ATP) を作ることです。この過程で酸素の0.1-2%が活性酸素に変わるのは避けられないと考えられています(酸素の2-3%が活性酸素になると書いてある文献が多いのですが、これは初期の報告に見られる不正確な数字を使っているためと思われます。実際はもっと少ないようです) (強調は引用者)

通常でも、酸素呼吸によりある種の割合で活性酸素が発生するのは避けられないらしい。従って、酸化ストレス(あるいは活性酸素)は、わりと日常にありふれているもののようだ。しかし、何らかの原因で酸化ストレスが高まりすぎると(あるいは活性酸素の量が多くなりすぎると)、生体のバランスが崩れ、有害な作用が顕在化するものであるようだ。ここで、酸化ストレスの定義に出てきた脂質、蛋白質・酵素や遺伝子DNAの損傷に着目し議論すると、分子生物学的な側面の話となり、かなり難しくなり、また、本質を見失うとも考えられるので、先ずは生体のバランスの方に着目することにする。


 さて、生体のバランスは、どのように保たれているのだろうか。単細胞生物なら簡単かもしれないが、多細胞生物だと各組織の細胞が機能的に分化しているので、各組織の連携を保つため何らかの制御機構があるはずである。このように制御された状態は通常、生体恒常性(homeostasis。ホメオスタシスあるいはホメオスターシス)とよばれており、自律神経系、内分泌系及び免疫系が重要な役割を果たしていると言われている。例えば、横浜市立大学のサイトから、

神経免疫学
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~neuroana/07meneki.html (リンクはココ

 私たちが健康を維持していくためには、生体恒常状態(ホメオスターシス)を保つことが必要です。自律神経系は内分泌系、免疫系とともに、ホメオスターシスを維持するうえで、本質的な役割を果たしています。
 近年、神経・免疫・内分泌系の間には、共通して発現する情報伝達物質とその受容体が存在しており、これらを介して三者が、互いに密接に関連することで、ホメオスターシスの維持を可能にしていることが明らかになってきました。・・・

なお、自律神経系については、馴染みがないかもしれないけど、例えば、滋賀医科大学のサイト「痛みと鎮痛の基礎知識 - Pain Relief」にある次のものを参照してほしい(少し詳しすぎるけど。手頃な大学系・学会系のサイトを探すのも結構な手間なので・・・)。

構造と機能 │自律神経系 autonomic nervous system│
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/anat-sympa.html (リンクはココ 。少し抜粋すると・・・)

・自律神経系の最高中枢は視床下部である。
・多くの内臓は交感神経と副交感神経に二重支配されている。[但し、例外あり]


 更に進んで、酸化ストレスと生体恒常性(特に自律神経系と免疫系)との関連性についてみておこう。自律神経系との関連性は、安保 徹 氏(新潟大教授)著 「医療が病をつくる」 (岩波書店、2001)から引用すると、

 呼吸やえさ取り行動は酸素摂取行動であるかがゆえに、常に酸素ストレスを伴う。
つまり、酸素使用によってかならずフリーラジカルや活性酸素が体内に放出されているのである。
そのため、酸素ストレスが強く起こるような生体の反応は、常に交感神経が緊張している状態である。・・・
 交感神経緊張状態では、排泄現象から進化した分泌反応は逆にすべて抑制される。言い換えると、副交感神経支配のある神経細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、リンパ球の反応が抑制される。
 交感神経緊張で働き続けるのは、カテコールアミン放出の神経細胞、支配下にある骨格筋や平滑筋の筋細胞、血糖上昇に関する内分泌細胞、発汗に関する細胞、そして顆粒球に限定される。 (173頁。強調は引用者)

免疫系との関連性は、日本自律神経免疫治療研究会のサイトから引用すると(「自律神経免疫療法Q&A」 http://immunity-club.com/index.php?%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%85%8D%E7%96%AB%E7%99%82%E6%B3%95Q%EF%BC%86A このうち問7のみを抜粋)

Q7 自律神経と白血球には密接な関係があるということですが、どういう関係があるのですか
A7)
 活動的になっているときは(交感神経優位)、手足に傷を負いやすくなり、傷口から細菌が侵入する機会が増します。そこで、大型の細菌を処理してくれる顆粒球[白血球の一種]を準備します。 一方、食物を摂っているときや休憩時には(副交感神経優位)、口や消化管から異種たんぱくやウイルスが侵入してくる危険性が高くなります。こうした小さな異物は顆粒球では対処できないので、リンパ球[白血球の別の一種]を準備しておく必要があります。
 そこで、日中の活動時は交感神経が優位になって顆粒球が増え、夜間の休息時は副交感神経が優位になってリンパ球が増えます。生物は、自律神経と白血球を連携させることで環境に順応し、命を存続させるためのベストコンディションを保ってきたというわけです。 両者の関連をまとめると、以下のようになります。

   《交感神経が緊張すると、顆粒球が増える》
   《副交感神経が緊張すると、リンパ球が増える》

酸化ストレスと生体恒常性との関連性についての以上の指摘などをまとめると、

表 酸化ストレスと生体恒常性との関連性(特に自律神経系と免疫系)

 (酸化ストレス)    大きい                 小さい
                ↓                   ↓
 (自律神経系)    交感神経優位          副交感神経優位
 (免 疫 系)   顆粒球(自然免疫)優位    リンパ球(獲得免疫)優位
 (傾   向)    活動・運動向き           消化・排泄向き
 (日内リズム)     午前中                夜 間
 (分 泌 物)   カテコールアミン           アセチルコリン
 (血   管)     血管収縮               血管拡張 


これで冒頭の二つの点を示すことができた(ことにしよう。分かり難かったかもしれないが・・・)。


 冒頭で残った3つ目の点(交感神経優位の状況は、長期にわたると病気のベース)については、安保 徹 氏著 「免疫革命」 (講談社、2003.7月)から引用すると、

 自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っています。しかし、精神的・肉体的ストレスがかかると、そのバランスが交感神経優位へと大きくぶれ、それが白血球のバランスをくずして、体内の免疫力を低下させます。・・・このメカニズムが理解できると、現代生活がもたらすストレスが免疫力を低下させ、それが病気を起こすことも、実証的にあきらかにし、理論立てることができます。病気というもののほとんどの発症のベースをつくっているのは、ストレスにほかなりません。逆にいえば、ストレスをとりのぞかないことには、病気が根本から治癒することはありません。(8-9頁)

ここでは、多くの病気のベースはストレス(精神的なものに限らず、肉体的なものも含めて)にあり、それはストレスが交感神経を常に緊張させ、生体のバランスを交感神経優位に傾けることに原因があるとされているのである。つまり、免疫学を安保氏の唱える説により理解すれば、ストレスの有害な作用は、様々な病気(がん、粘膜障害・組織障害、各種の慢性病など)をもたらすとされているのである。どのような病気が関係するのかをながめるため、既に長々書いたので同書を解説する代わりに便宜のためウェブ上の資料を使うと、例えば、サイト「脂質と血栓の医学」(管理人不詳のサイトなのだけど、内容が優れているので例外的に・・・)をみてみると、

3.活性酸素による障害
http://hobab.fc2web.com/sub2-kasseisanso.htm#%E6%B4%BB%E6%80%A7%E9%85%B8%E7%B4%A0%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E9%9A%9C%E5%AE%B3 (障害の項目タイトルのみ抜粋。リンクはココ

a.過酸化脂質
b.酵素活性の低下
c.動脈硬化や、心筋梗塞あるいは脳梗塞の発症
d.発癌
e.老化の促進
f.寿命の短縮
g.白内障
h.皮膚のシミ(褐色顆粒)
i.アルツハイマー病
j.レッドクス制御
k.腎障害

活性酸素による障害というのは、言い換えれば酸化ストレスによる障害ということである。長くなるので項目のタイトルだけを引用したが、詳細はリンクを参照してほしい(分子生物学的な側面から書かれているのでちょっと難解だけど・・・)。要は、いろいろな病気に関連していることをつかむのが今回の趣旨なので、細かい点は後々みていくことにしたい。

(この関連の次は、交感神経の優位と粘膜・組織破壊 (1/2) を参照)


(その他の参考サイト)

公益財団法人長寿科学振興財団のサイト「健康長寿ネット」から
酸化ストレス
http://www.tyojyu.or.jp/hp/page000000500/hpg000000470.htm

(株)日本抗酸化のサイトから
生活習慣病の元凶・活性酸素
http://www.sod-japan.com/text2.html

ニュートリー株式会社のサイトから
[3] 生体の酸化ストレスに対する防御機構
http://www.nutri.co.jp/dic/ch9-2/keyword3.php

吉川敏一 「フリーラジカルの医学」京府医大誌 120(6), 381-391, 2011
http://www.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-6/yoshikawa06.pdf pdfファイル

日本自律神経免疫治療研究会のサイトから
福田-安保理論」と自律神経免疫療法
http://immunity-club.com/index.php?%E3%80%8C%E7%A6%8F%E7%94%B0-%E5%AE%89%E4%BF%9D%E7%90%86%E8%AB%96%E3%80%8D%E3%81%A8%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%85%8D%E7%96%AB%E7%99%82%E6%B3%95

サイト「脂質と血栓の医学」から
活性酸素と酸化ストレス
http://hobab.fc2web.com/sub1-kasseisannsotosannkasutoresu.htm

薬局「漢方のマルミ屋」のサイトから
活性酸素 reactive oxygen species (ROS)
http://www.naoru.com/kassei-sanso.htm


〔関係記事〕
電離の直接損傷と酸化ストレス障害 2012/5/9 (既出)
交感神経の優位と粘膜・組織破壊 (1/2) 2012/5/13  (既出)
交感神経の緊張と発がん 2012/5/26
交感神経の緊張と自己免疫疾患(膠原病) 2012/6/3


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注) ・5/11 テーマ分類変更。
・6/4 関係記事追加。
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