読む連続ドラマ、略して「読むドラ」。 PSP『銃声とダイヤモンド』 | アドベンチャーゲーム研究処

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アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

【クリア直後レビュー】



とりあえずプレイ後に気になったこと。

この作品、基本的には面白い。と思うんだけども、
逆に極端な短所やら不親切な部分な部分も多く、粗い良作というのが個人的な結論。
この“気になった部分”の代表例は交渉パートのスキップ不能という点。
本作の場合は交渉によって結末が変わるため、何度も繰り返してプレイをすることになるのだが、
何度も同じ速度で交渉させられることとなりゲーム的な快適性があまりにも低い。
ただ、初回プレイ時の交渉部分はそれほど多くはないので、流れを止めるほどではない。
つまりやり込みに問題点があるのだが…まあ詳しいことは下のほうで。

逆に演出部分はやたら凝っていて、テキストを読む分には退屈しない。
カメラアングルもこれでもかと言うほど変わり、
肉感的なビジュアル的や、地に足の着いたキャラクター設定もあって臨場感は高く、
話としても各話で地味に張り続けた伏線を真実にたどり着くと回収すると言う
手の込んだもので、真実にたどり着かなくてもスピーディーにドラマが展開され楽しい。
テキストは会話のみで進行し、なるべく無駄な部分を削いでおり、
システムのテンポの悪さとは裏腹に、こちらは軽快に読み進めることが可能で、
ストーリーを読んでいる内は、まず間違いなく多くの人は楽しいと感じるのではないだろうか。

つまり話自体は面白いんだけども、ゲーム的に練りこみ不足ということだ。
総合的に観て初回にプレイしている印象では、“読む映像作品”という例えが最も的確だと思う。
まあ“映像作品”と呼ぶにはボイスが収録されていないなど気になる点もあるのだが、
ボイスを入れるとBGMを阻害してしまうので、この「ボイスなし」はその防止の為の措置だと思われ、
そこをマイナスポイントと言うと、それもまた違うのだが…。



シナリオは面白いが、ゲーム的には練りこみ不足。

本作は交渉部分が売りの作品なのだが、上で挙げた点以外でもゲーム的な欠点が多い。
その中でも気になったのは分岐の解りにくさ、そして分岐の根拠のなさ。

この作品は交渉が売りと言うこともあって「交渉を上手くすれば」話の真実に分岐するのだが、
その「交渉を上手くする」という条件が話の前後から憶測することが難しい。
例えば「観察する」ことが分岐のフラグメント(条件)になってるシーンがあるのだが
前後の流れからは、その理由がプレイヤーにはまったくとは言わないがとても解りづらい。
この手の理不尽な分岐点は他の交渉パートにもいくつもあり、
どうも交渉で説得していると言うよりも、“正しいコマンド”を探しているだけ、
つまり交渉が相手の機嫌伺いと化してしまっている感がある。

この部分は、良く言えば“交渉”という題材どおり「暗中模索している」とも言えるのだが
逆に悪く言ってしまえば思考停止で作業的な手順探しを強要しているとも言える。
個人的には、快適性さえあれば作業的でも許せれるのだが
本作の場合は“リアルタイム”で交渉し、時には質問を答えないことが正解だったりするため、
この正解の手順を探すためだけに何度も同じ会話を同じ時間をかけて読まされることとなり、
またうっかり重要な選択を見逃すとまた頭から交渉させられるので、
交渉に集中して(しかも場合によっては何度も)挑まなければならず、
初回プレイ時の緊張感は徐々に失せ、とにかく作業的で面倒…という状況となる。

それならベストエンドに無理して行かなければ良いじゃないか、
と思う方も少なからずいるかもしれないのだが、
この作品の場合は仕様として、4話以降を読むためには
それまでのストーリー全話のベストエンドを見る必要があり、
完結させるには繰り返しプレイによるやり込みが必須となっている。
一応、交渉ごとに移動できるフローチャートがあるのだが、
どの交渉で話が分岐しているのか解らないので、
話の頭から交渉してゆくことになり、フローチャートの意味を成していない。
そのため、結局は話を進めるには苦痛(上の問題点)を強いられることとなる、というわけだ。

まあ、このシステムならば途中で投げてもおかしくはないのだが
上で書いたとおり演出は凝っており話も盛り上がるため投げることなく
なんだかんだクリアしていたので、不快と快楽の狭間にある作品とも言えるのかもしてない。
しかしゲームの練りこみの甘さが目立つ作品なためプレイ中に粗の部分に目が行ってしまい、
話の盛り上がりにシステムが水を差してしまっている印象はクリアまで拭われることはなかった。



ゲームプレイの80%以上は「読む」こと。

演出面ではべた褒めだが、問題点もないわけではない。
その問題点は、とにかく読むことが中心になっていてゲームとして面白くないという点。
もちろんテキストを読ませてナンボのテキスト主導アドベンチャーゲームだが、
実は、どのゲームでもテキストを読むことで話に入り込むことを意識している。

例えばコマンド総当りのアドベンチャーの場合は、行動を選択させることで
ゲームという“世界観”に入り込ませる為にキャラクターをコマンドで操作させているし、
時にはキャラクターがプレイヤーに話しかける、なんていう事もして、
それだけなら単なるコマンド操作な行為を、
ゲームの世界へ介入していると実感させる為、色々と方策を練っていたりする。
本作と同じく読むことがゲームプレイの中心となるサウンドノベルの場合も、
次の選択肢を意識させたり推理させることで文章を読むことに緊張感を発生させ、
単なるテキストではなく、“ゲームのテキスト”にすることでゲームを成立させていたりする。
(つまりサウンドノベルの場合は、逆に運任せにすると出来が悪いと言われることが多い。
 その代表例はやはりPS2で発売された『かまいたちの夜2』だろう。)

だが本作の場合は、単純に文章を読む行為“ストーリー部分”と
プレイヤーが実際にゲームに介入する“交渉部分”が完璧に離脱していて
交渉相手の人間性やどういう態度をとることがベストか、話の流れから推測できない。
一応、プロファイラーの意見としてヒントは出るのだが、
それはプレイヤーが読む膨大なテキストとは殆ど無関係で、
テキストにゲーム的な緊張感を持たせれていない。

つまり言えば「話」と「ゲーム」が水と油の様にはっきりと別れてしまっていて、
ゲーム性であるべき交渉の部分が「演出」ではなく単なる「障害」となってしまっているというわけだ。
だから、全体的に“ドラマを読んでいる”という印象が拭えず
“ゲームをプレイしている”という感覚を私は殆ど覚えなかった。
まあ、製作サイドとしてはベストエンドへの分岐でゲーム性を生もうとしたのだろうが
上で挙げたとおり、単なる苦痛にしかなれていないのが非常に残念。



まとめ。

色々言ったが話は緊張感があり、基本的には面白いという結論は揺るがない。
だが、やはり練りこみ不足が目立つのもまた確かで、気になる部分も多い。

特にリアルタイムの交渉は、拾うべき部分も多いのだが、粗もかなり多い。
リアルタイムでなくなると緊張感がなくなるのは間違いないのだけど、
そのリアルタイムがテンポを悪化させてしまうという自己矛盾を抱えてしまっていて、
ゲームとして「どっちつかず」という印象をゲーム全体で感じる作品になっているので、
次があるとすれば、サウンドノベルにするなら分岐する部分を明確にしてリプレイ性を高め
逆にリアルタイムに拘るなら交渉部分を多くして分岐をなくすべきだろう。
まあ、売り上げは芳しくなかったので次回作があるかは微妙だが…。

PSP『アナタヲユルサナイ』の時も思ったことだが
アドベンチャーゲームというとストーリーが重要と言われるが、
やはり、ゲームである限りストーリー以外の部分も“楽しさ”が必要なわけで、
ここをないがしろにしすぎると、話が面白くても色々辛いと再認識させられた一作。

いやアニメ原作のゲームでは、その傾向の作品は高いのだが
それはキャラクターアイテムだからこそ許されるわけで、
オリジナルとなるとそれは禁じ手かなぁ、と個人的には思う。
話、演出面は良くできているだけに、交渉部分のゲームとしての適当さはやはり残念だ。

【プレイ直後の点数】

6/10

【コメント】
得点は厳密には6.5点だったんだけども、10段階なので泣く泣く6点に。

しかし、明日の更新分はどうしましょう。ネタがない。