連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第八節 』 | ADNOVEL

連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第八節 』

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■作品タイトル
『 人形と悪魔 <約束の章> 第八節 』

■作者
AZL

■スキルアート
小説

■作品
数年経った現在でも、おじいさんはあの家に変わらず住んでいました。

しかし悪魔カロンはおじいさん今更合わす顔がありません。
本来ならそんな感情悪魔には湧かないはずなのですが、
どうしてもカロンは罪悪感に苛まれてしまい、会う事ができないでいました。
すぐそこにおじいさんが居るというのにどうしてもその一歩が踏み出せません。

そこでカロンは窓からこっそりとおじいさんの事を
覗き見る事にしました。

何体もの人形が並ぶ部屋は相変わらずでしたが、
驚いたのはおじいさんがあの女の子そっくりな
女の子の人形を造ろうとしていたことでした。

おじいさんはまだ諦めていませんでした。

孫の魂はそこにあると気付き、
そして彼女の朽ちてしまった
肉体の代りを造ろうとしています。

でも、それだけでは足りません。

記憶が、女の子の記憶が必要なのです。

それに最後の仕上げとして肉体と魂と記憶とを
繋ぐ魔法の力が必要でした。
それは人間には到底真似出来ない事です。

カロンは考えます。

あの人形が完成した果てにおじいさんは何を思うのだろう。
動かない人形、足りない条件、守られ無かった約束。
カロンは再びおじいさんが絶望する姿を思い浮かべます。

本来ならそれは悪魔にとっては喜ばしい事のはずなのですが、
カロンにとってはとても嫌な事のように思えました。

おじいさんの喜ぶ顔がみたい。
大悪魔カロンは心の底からそう思いました。

条件の3つめ、記憶。

女の子に対する周りの人間の記憶はカロンの体内にあります。
ですがそれだけでは足りなかったのです。

女の子本人の記憶がどうしても必要なのです。
それが出来ないからカロンはおじいさんとの約束を破り、姿を消したのでした。

女の子の記憶がある場所はある程度の見当はついていました。
けれどもその場所は神様や天使達が厳重に管理している所で
うかつに近付けません。

当然、悪魔が天使に見つかってしまっては戦いは避けられないからです。

カロンは悩みます。

人間の為に永遠にも近い自らの命を差し出す。
そんな馬鹿な事をよりによって悪魔がするなんてカロン自身も聞いた事がありません。

再び窓からおじいさんを眺めます。
そこでふと気付きます。
窓辺には何故かカロンがとりついていた人形が窓の方を向いて
きちんと座らされていました。

それを不思議に思いながらもカロンは
窓越しにおじいさんの姿を確認します。

額に汗をかきながらも、おじいさんは一生懸命女の子の人形の肉体を造っていました。
その眼にあるのはもうかつての絶望ではありませんでした。

女の子が生き返ると信じて、
自分の元を去った悪魔との約束を信じて
その眼は希望と生きる力に満ちていました。

その姿を見た悪魔カロンは何かの感情が自分の中で
芽生えるのを感じました。そしてカロンは決心します。

何があってもおじいさんとの約束は果たす。そう決心しました。

窓際に座らされている自分が昔とりついた人形を眺めます。
なぜこの人形は窓の外を向いて居るのか、カロンには解った気がしました。

カロンはおじいさんに見つからないように窓を開けると
静かにその人形を持ち去りました。

もちろんおじいさんに声はかけません。
悪魔カロンが次に声をかけるのは
あの女の子が蘇った時だと。そう心に決めていました。

しかし、おじいさんは気付いていました。
開けっ放しになった窓、置いてあったはずのあの人形が無くなったという事。
悪魔カロンがここにやってきたという証拠です。

今日もおじいさんは人形を創ります。
悪魔が約束を果たしてくれると信じて。
女の子との約束を果たす為に。


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