連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第九節 』 | ADNOVEL

連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第九節 』

手紙小説家募集  メモ小説家一覧  右矢印TOPへ戻る
左矢印第八節  右矢印第十節  右矢印目次へ戻る

■作品タイトル
『 人形と悪魔 <約束の章> 第九節 』

■作者
AZL

■スキルアート
小説

■作品
さて悪魔であるカロンは、当然天使や神様に頼る事は出来ません。
同じ悪魔の仲間に声をかけますが、誰1人として解決策を答えられる者はいませんでした。

どうしようも無く途方に暮れるカロン、1人森の湖で蹲ってしまいます。
忍耐強い方では無いカロンはそのまま眠くなり、なんだかどうでもよくなってきました。

うつらうつらとしていると、
綺麗な女の人の姿をした精霊ニンフが湖の中から現れました。

「お困りですか?我らの英雄、悪魔の王カロン」

妖精の間でカロンは英雄です。
ですから湖のニンフは見過ごせませんでした。

カロンは、妖精に事情を話すのは少し小恥ずかしい気はしましたが
頼る相手がもういないカロンは人間の記憶が保管されている場所がどこにあるか訪ねます。

しばらく考え事をした後、ニンフはこう答えます。

妖精の間でも、世界の何処かにはありとあらゆる生物の記憶の痕跡が
保管されている事は知れ渡っています。
しかし、その場所を知る妖精は1人としていません。

悩む悪魔カロンに対して森の妖精ニンフはこう答えます。
神様へお祈りしてお伺いしては如何がでしょうか?

その提案に悪魔カロンは困ってしまいます。

神様に祈った事など無いからです。

戸惑うカロンにニンフは
お手本を見せます。

見よう見真似で祈るカロン。
大事なのは気持ですとニンフは優しく語りかけます。
「私はあなたの祈りが届くように祈らせて頂きますね」
と微笑むニンフ。

目を瞑り、必死におじいさんの事を考えます。
彼の願いを叶えてあげたい。その事だけを考えます。

カロンにとって誰かの為に
何かをするという事は一度もありませんでした。

それは悪魔が抱くはずの無い感情です。
全身全霊を込めて祈りを捧げるカロンですが
一向に神様からの返事はありません。

諦めかけたその時、辺り一杯に光が広がっていきます。
目を開けて辺りを見渡すと先程までそこにいたニンフや木々、
湖すらも消え去っていました。

そこにあるのは白い光だけです。

ふと後ろに気配を感じて振り返ってみると1人の少年がそこに立っていました。
会った事も無い、顔も知らない少年でしたが、一目でかれが神様だという事が
カロンには解りました。

無意識のうちにカロンはその少年に跪(ひざまず)き、涙を流してしまいます。
そうしてしまった理由も解りません。

それは初めて愛に触れたからでした。

顔を上げるようにと直接心に神様は訴えかけてきます、
それに素直に従うカロン。

その少年の顔は誰よりも美しく、光輝き愛に満ちていました。

「私への祈りの果て、その願い聞き入れた」

神様の口から発せられた言葉を聞いた後、
カロンの頭の中に見た事も無い情景が流れ込んできます。

光に包まれた場所、力強く根をはる大きな木、そこに実る黄金の果実、
1人の少女、隔たれた3つの門、教会、大海原、草原、一面の花畑、
天使、宇宙、空。

それらの光景は、人々の記憶が保管されている場所でした。


左矢印第八節  右矢印第十節  右矢印目次へ戻る
手紙小説家募集  メモ小説家一覧  右矢印TOPへ戻る
リサイクルadleafblog