【投資家のための金融史 板谷敏彦】第7章 投資理論(3) | 人生の水先案内人

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2013.1.31 05:00

■ランダム・ウォーク理論と効率的市場仮説

「株式実戦訓-相場に役立つ格言500」(田中穣著、実業之日本社)は1978年の出版である。


この本の第1部第3章は「ランダム・ウォーク・セオリー(酔歩理論)のウソとマコト」と題されていて、こう説明されている。


「酔っぱらいが、ある地点から前へ行くのか後ろにいくのか右か左かまったく予想できないように、株価も上がるか下がるか、それとももちあうか、まったくわからない。


昨日上がったから今日も上がるとはいえない。


『株価は記憶を持たない』とこの学派は宣言するのである。


当然の結果として、この学派の人たちは、ケイ線派・チャート派を冷笑する」

 

株価はコイン投げや宝くじのように「記憶をもたない」。


あなたが30年連続でジャンボ宝くじにはずれていようが、初めて宝くじを買う人と当選確率は同じだ。


運命の神様はおぼえていてはくれない。


ルーレットで連続10回赤が出ても次が黒の確率はやはり50%だ。


同じように日経平均株価が10日連続で下げても、翌日の上げ下げは五分五分なのである。


次にどちらがくるのかなんてわからない。


これがランダムである。

                ■     □

グラフはニューヨーク・ダウが初めて記録された1896年5月26日から2012年6月29日までの日々の収益率(変化率)を記録して0.05%刻みに分け、集計して積み上げたものだ。


このグラフの形が釣り鐘に似ていることからベル・カーブ(正規分布)と呼ばれている。

 

平均は0.0198%だが、複利計算を使って(1+0.0198%)の260日乗-1で年率に直すと5.28%になる。


実際の投資ではこれに配当が加わるのでさらに高い収益率があったことになる。


また中心点からのちらばりを示す標準偏差は1.159%あり、物理学のブラウン運動と同じようにちらばりは時間の平方根に比例するから、ルート260日をかけて年率に直すと18.69%になる。


これが株価のばらつきを表す「リスク」とよばれる数値である。

 

ニューヨーク・ダウは約120年前から、年に±18.69%のばらつきをともないながら、年率5.28%で成長してきた。


そしてたまに「リスク」よりも上下に大きくぶれることもあったのである。

 

またこのグラフが正規分布であるとすれば、その性質から全部で2万9850日分あるデータの内、約3分の2の日数が平均から1標準偏差である±1.159%の範囲(四角)の中に収まっていることを示している。


2倍の2標準偏差である±2.318%の間には、95%の日数が収まっているはずである。


このように正規分布は確率計算に便利にできている。

 

そして一番大事なことは、ダウ平均の収益分布が正規分布であるならば、株価はコイン投げや宝くじと同じように記憶を持たないランダムな動きをするということも表している。

                ■     □

 株式の本質的価値とは今現在市場でつけられている株価である。


活発な市場では、新しい情報が絶えず生まれ、株価は時間とともに変化する、その結果新しい情報(例えば大幅な増益など)が出現することを予測して、その情報が本質的価値に与える影響を正確に評価できるならばお金もうけができるはずだ。

 

こうして多くの優秀な証券アナリストや投資家が金もうけのために情報を求め分析を加え、売り買いを判断して合理的に行動したその結果として、現在の株価が形成されている。

 

一番高く買いたい人と、一番安く売りたい人の出合いのポイントが現在の株価である。


したがってそこにはすべての利用可能な情報が織り込まれている。


これが「効率的市場仮説」である。


株価の次の動きはまったく新しい次の情報に依存しているので、株価の動きは予想もできないランダムなのである。

 

しかしグラフをもう一度よく見ると+5%以上のところに67日、-5%以下には97日もある。


これは正規分布にしては多すぎるし、全体として形も少し怪しい。


それでも多少のことには目をつぶり、これが正規分布だと仮定するならばリスクを標準偏差として数値化できるし、それを使って確率計算もできる。


後々の論理展開には非常に便利な性質だったのだ。