さとうさくら 『スイッチ』 | 映画な日々。読書な日々。

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さとう さくら
スイッチ

主人公苫子はフリーターで、処女。他人と上手くコミュニケーションをとることができず、簡単なバイトさえもクビになる始末。嫌なことがあるたびに、自分の首の後ろを押す。彼女のイメージの中では、そこに人間を消すことができるスイッチがあって、そこを押せば自分は消えていなくなることができるのだ。そんな彼女がバイトを変えたことで、いろいろな人に出会う。みなどこかズレていて、アンバランスな人ばかり。最初は何となく距離を置いていた苫子と彼らだが、徐々に近づき、お互いに影響しあう。といっても、劇的な何かが起こるわけではなく、あくまでも消極的に、静かに、ジンワリと変化はやってくる。物語の最後、苫子は処女ではなくなり、サル男という好きな男もできた。周りの人とも自分から連絡を取り、すべてが上手くいかなくても、繋がりを自分から保とうとする。変化はそれだけ。だが、苫子にとっての世界は大きく変わりはじめていた。


「日本ラブストーリー大賞」審査委員絶賛賞受賞作品 。柴門ふみと桜井亜美がこの作品をすごく推していたそうです。桜井亜美がこの作品が好きなの、なんとなくわかるなぁ。


文章が多少素人っぽい感じがするものの、ストーリーとしてはおもしろかったです。今の時代だからこそ生まれた作品。そして主人公の苫子に共感する人、結構多そうな気がします。


友達もいない、仕事もない、彼氏もいない。

夢も希望も未来もない。

スイッチを押すたび人が消えればいいのに、そして自分も消えてしまいたいと思っている苫子。首の後ろにあざができてしまうぐらい、あるはずもないスイッチを押し続ける苫子。


自ら望んだわけではないのに社会からはじかれてしまい、不器用にしか生きることができない。人生投げ捨てたようになってしまう姿は苫子がすべて悪いわけではない、のかな。


そして人生投げやりに見える苫子も、本当は真面目な子なんですよね。トイレがぴっかぴかになるぐらいきちんと掃除をしていたりする姿は苫子の今は隠れた本来の姿を表しているように思いました。


苫子を取り巻く人たちの姿もすごくよく描かれています。掃除婦の中島さんや元キャバ嬢の瑠夏、短大時代の同級生だった結衣、昔の苫子の彼氏で、今は結衣と付き合っている川瀬。そして苫子が初めて恋心を抱いたサル男。個人的には結衣のような子、普通に沢山いるような気がします。


人付きあいの苦手な苫子ですが、愛想はなくても意外とちゃんと人付き合いしているように思えるシーンが沢山あります。中島さんの話をちゃんと聞いてあげたり、瑠夏の用事につきあってあげたり。そして学生時代はたいして仲良くもなかった結衣との関係。

面倒くさいと思っている人間関係、誰とも親密になれる気がしないと思っている苫子。それでも人間一人では生きていけない。苫子は自分でも気づかないうちに人を求めていたんじゃないかな、と思いました。


結衣と苫子の関係はすごくリアルに描かれています。

最初の方、自分が優位な立場にいると思っていた結衣が苫子を食事に誘うところから、自分が苫子ごときに負けたことを認めたくないと本音を表すシーン。

苫子が結衣に言った

「だから結衣みたいな女、すごく嫌い。・・・自分のことは、もっと嫌いだけど」

この台詞は結構好きです。


そして投げやりに見えてた苫子も心を許したサル男にはポロリと本音を出します。

「どうすればいいのかなんて、とっくにわかっているけど、できないんです。できることができないでいることも、できない自分がダメなこともわかるのに、それでも、できないんです」


苫子には理想の自分がいて、理想の自分と今の自分とのギャップに苦しんでいて、そして投げやりになってしまっていたんですよね。そんな苫子がちょっとだけ変わる姿、言い換えればちょっとしか変われない姿が本当にリアルでした。 次作が楽しみです。


★★★

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